つな旨揚げ atテスト当日

 「終わった・・・・・・。」


 「えっ、どうしたの?」


 突然、渡辺さんが長い髪をクシャクシャと掻いた。


 いつもより元気が無さそうにお弁当を食べていたから心配だったけれど・・・・・・。


 そういえば、いつもなら私のお弁当を見て「それちょーだい!」と言ってくるのにそれも無かった。


 「一つだけ、どうしても分からなくてさ。」


 「うん?うん。」


 そんな事だったんだ。


 いくら勉強しても、完璧に全部解くというのは難しい。


 私も、得意教科と言えど100点満点は数える程しか取ったことが無い。


 「そのくらい普通だよ。私だって分からない所あったし。」


 「違う・・・・・・違うんだし。」


 と、今度は指でその髪をくるくると巻き込み始めた。


 お弁当にナポリタンが入っている事と、彼女の髪の色が金色というせいもあってか、まるでフォークでパスタを回しているみたいに見えた。


 「分かんないとこを飛ばしたらさ、一つ空くじゃん?」


 「あ、空欄ができるって事?」


 「うん。」


 「分からない所は飛ばすでいいと思うよ。分からなかったら後で解けばいいしね。」


 「あたしもそう思って、とりあえず最後まで終わらせたんだし。」


 「うん。」


 「でさ、最後の問題を解いた時にさ・・・・・・。」


 「うん?」


 「あと一つ下に、空欄があったんだし。」


 「え、っと・・・・・・つまり。」


 ・・・・・・あっ。


 「飛ばしたところ、間違えて次の問題の答えを埋めちゃった?」


 小さく頷いた。


 「あ、えっと・・・・・・その。」


 な、なんて言えばいいんだろう・・・・・・。


 「そ、その・・・・・・わ、私も補修に付き合うからさ!」


 「うぅ・・・・・・沁みるし。」


 と、両手をガシッと握られた。


 目が潤んでる・・・・・・。


 その時、数学の先生が教室に入って来て、渡辺さんの名前を呼んだ。


 「ん?なんだろ。ちょい行ってくるし!」


 「あ、うん。いってらっしゃい。」


 

 ピロピロピロリン


 「いやー、本当に助かったし!」


 と、何度目かの彼女の嬉しそうな声。


 「良かったね、渡辺さん。」


 「いやホントにね!先生には感謝しかないし!」


 「その先生もスゴいッスね・・・・・・。」


 「ねー。まさか、答案がズレていることに気づいてくれるなんてさ。」


 彼女が傍にあったカゴを一つ手に取り、腕へと通した。


 「ま、変わりに今後の授業では寝ないようにって言われたけどさ。」


 と、苦笑いをして空いている手で頭を掻いている。


 「あ、今日はあたしだね。」


 「ん。ありがとう。」


 「ゴチになるッス。」


 スタスタ、と私たちよりもいくらか高い音階で軽やかなリズムの足音が響く。


 「なんか気分いいし、今日は高いの行っちゃうし!」


 「む、無理はしないでね?」


 「ダイジョーブ!ダイジョーブ!明日のジュースを我慢すればいいんだし!」


 鼻歌を歌ってる。


 目に見えて明らかにテンションが高い・・・・・・。


 逆に心配になってしまう。


 「んー・・・・・・迷うし。」


 と、お菓子コーナーへの角を曲がり、そこから歩く速度を遅めた。


 「ほら、一応テストも終わった事だしさ、豪華にいきたくない?」


 と、400円くらいのお菓子を棚から取った。


 「い、いや。大丈夫だよ?」


 「はい。私も同感ッス。」


 「えー?そお?」


 と、ゆっくりとそれが棚に戻った。


 「となると・・・・・・お、これかなぁ。」


 と、二つ離れた所にあるものを一つ手に取った。


 「流石に1つじゃ足りないから2つ買うし。どお?」


 「チーズッスかぁ・・・・・・。」


 つな揚げかぁ。


 紐を捻じったような形からそう呼ばれている揚げ菓子。

 

 黄色いパッケージに、チーズ、極濃、北海道産、カマンベール、という魅惑も文字列が目立つ位置に並んでいる。


 そして、確かにこのサイズだと3人では足りないかもしれない。


 どんな味がするのだろう。


 「上原っち、どお?これ。」


 「うん。私もそれがいいな。」


 そう言うと渡辺さんはシシ、と歯を見せて笑い、もう一つ同じ物をカゴへと入れレジへと向かった。



 「んじゃ、一袋目開封ー。」


 と、彼女が上のギザギザを持ち、ピリと袋の口を切り開いた。


 わっ・・・・・・すごいチーズの匂い。


 ついむせちゃうくらいに濃厚なチーズの匂いがする。


 「んじゃ、食べよっか。」


 彼女の言葉に頷き、


 「いただきます。」


 二人の手が伸びてきて引っ込んだのを見計い、中から一つ取り出した。


 この形・・・・・・神社の前にある、大きなしめ縄みたい。


 荒縄を編んだみたいに突起がいくつもあって、それが斜めによじれていっている。


 一面きつね色で、所々に濃い色の・・・・・・チーズかな?その粉が付いている。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 ん、サクサク。


 あっ、すごくチーズだ。


 口の唾液と混ざるとすぐ溶けて、チーズの匂いがむわんと広がってきた。


 それと、ちょっぴりの塩辛さがチーズと混ざって、その二つがビリビリと舌をつっついてくる。


 よし、次は・・・・・・あ、あれチーズ多そう。


 ん、取れた。


 「んむ。」


 わ、わ。すごくチーズ。


 一本目の時なんかと段違いでチーズが付いてたんだ、これ。


 へへ、なんだか得した気分。


 唾液と混ざって少しづつ小さくなっていく変わりに、チーズの濃厚な香り、匂いが口から鼻へ抜けていく。


 美味しい。


 「あれ?もう無いし。」


 「あっ、そうッスね。」


 「んでも、今日はまだもう一袋あるし!」


 「そうでしたッスね。」


 「なんかさー、いいよね。二袋目って。」


 「うん。ちょっと豪華だよね。」


 「えー?ちょっとー?もっと豪華だし~?」


 「あっ、ごめん・・・・・・。」


 「シシ!ほら、食べよ!」


 そうして2袋目も空になり、最後の一本を勝ち取り、2倍の時間を掛けて味わいそして飲み込んだ。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが聞こえた。


 「んじゃ帰ろっか!二人とも。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る