後期中間テスト

冬のレモネード at後期中間・・・・・・

 「ピンチだし。」


 と言ったかと思うと、渡辺さんは机に突っ伏した。


 「全然分かんないし、数学。」


 顔を上げて、机に置いてあった教科書をパラパラとめくっている。


 「つーかさ、範囲広すぎない?」


 と、つい先ほど発表された、テスト範囲に当たるページを人差し指と親指で挟んでいる。

 

 「で、でも。これが終わったら冬休みだしさ。」


 「そーだけどさぁ・・・・・・。」


 と、彼女が弓なりに体を伸ばした。


 この後期中間テストさえ乗り切れば冬休み、か・・・・・・。


 渡辺さんに言っておきながら、かくいう私も今回は不安があったりする。


 ・・・・・・やっぱり英語。


 かなりの数の単語が新しく出てきたから、覚える間も無く、しかもそのせいで文法も自信が無い。


 この間の小テストは散々だったなぁ・・・・・・。


 なんのリカバリーもできずに、ついにテスト期間に突入してしまった。


 「あ、いい感じにテストをクリアできたらさ、冬休みどっか行く?」


 「え?どっかって・・・・・・どこ?」


 「ん?んー・・・・・・。」


 と、彼女が目を閉じて・・・・・・瞼の下で目がきょろきょろと動いている。 


 そしてその目が開いたかと思うと、


 「そうだ!スキーとか行かない?スキー。」


 「え?スキー?」


 「まー、スノボでもいいけど。」


 スキー・・・・・・テレビで見たことはあるけど、かなりの速度だったなぁ。


 でも、その時は速さを競う種目だったから、普通はあんなに速度はないのかな。


 「渡辺さんはしたことあるの?スキー。」


 「ん?無いよ?」


 そっか。渡辺さんならスノボの方が似合うよね。


 私じゃ似合わないかもだけど・・・・・・。


 「じゃあ、私もスノボをしてみようかな。」


 「え?あたし、スノボもしたことないよ?」


 えっ、無いの?


 ・・・・・・相変わらず、彼女のアクティブさには驚いちゃうな。


 

 ピロピロピロリン


 「今日は私の番ッスね。」


 「うん。ありがとう。」


 「ゴチになんねー。」


 佐久間さんがカゴを一つ取り、持ち手を腕に通す。


 「さくさくー、テスト範囲どうだった?」


 「あ、えっと。国語の古文と・・・・・・やっぱり数学が心配ッス。」


 「あー、古文ね。あれむっずいよね。」


 と、彼女が金髪の髪をポリポリと掻いている。


 「ま、まぁ・・・・・・そッスね。」


 前を歩く佐久間さんは、首をきょろきょろと回しながら、色んな商品を見ている様子だった。


 ここ曲がるって事は・・・・・・紙パックの飲み物かな?


 あっ、そういえば・・・・・・。


 「そういえば、佐久間さん。」


 「あ、はい。先輩。」


 「さっき、冬休みにスキーに行かないかって話になってね?」


 「あー、したね。どう?さくさくも一緒にどお?」


 「あ・・・・・・その。スノボならできるんですが、スキーは・・・・・・。」


 ス、スノボ!?


 「えっ!スノボできるの?」


 「かっけーね・・・・・・さくさく。」


 「そ、その。父さんがスポーツ関係の人で、よくスキー場に連れて行ってもらって。」


 「すごいし・・・・・・。」


 「う、うん。」


 あの一枚板で斜面を滑走して、時には降り積もったパウダースノーを巻き上げながら、颯爽とそれを乗りこなす佐久間さん。


 ・・・・・・かっこいい。


 「あ、先輩っ!こ、これなんてどうでしょ?」


 と、どことなく慌てた調子で、佐久間さんはそこにあった商品を一つ手に取った。


 「んん?冬レモネード?なんか新しいし!」


 「あ、はい。目に留まっちゃって。」


 レモネードかぁ。


 確か、記録に残っている物だとエジプトが起源・・・・・・というか、そこでレモネードを始めて作ったとされる人の記録があるのだとか。

 そういえば、こんな話があったっけ。

 江戸時代、開国を迫るペリーが日本にやって来たとき、その時に立ち会った幕府の役人達。その人達にレモネードを振る舞おうとしたら、栓を開けて「ポン!」という音が鳴り、それを役人は銃声と勘違いしちゃって、思わず刀に手をかけた・・・・・・というのがある。


 レモネードと言えば、暑い夏の日に氷をカラカラと鳴らしながら飲む、というイメージがある。

 冬に飲むレモネード・・・・・・どんな味がするんだろう。


 「うん。私も飲んでみたい。」


 「あたしも賛成!」


 そうして、彼女は3つのそれを入れたカゴをレジへと持っていった。



 「あっ・・・・・・その、ミスっちゃったかもしれないッス。」


 「え?何々?」


 佐久間さんの方を見ると、紙容器の側面を見てみる。


 側面・・・・・・?


 「あっ。」


 そこを見ると『コップに移してレンジでチン』という文字が印字されていた。


 「そ、その・・・・・・。」


 「今度その飲み方もしてみたいし!とりあえず飲む?」


 「あ、うん。そうだね。」


 「は、はいっ。」


 そして、3人で頷き、


 「「「いただきます。」


 紙パックの縁を開いて、真ん中に指をひっかけ・・・・・・て、と。


 よし開いた。


 わ、黄色い。


 紙パックも黄色を基調としたデザインだけれど、その中身も負けじと主張してくる。


 ・・・・・・レモンの酸っぱい香りがする。


 ストローを袋から出し、片方をそのレモンの香りの中に沈めていく。


 ストローでちょっとかき混ぜてみると、黄色のさらさらとした質感の波が発生した。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 あ、香り程酸っぱくない。

 普通のジュースみたいにゴクゴクいける。


 でも、口に入れるとちゃんとレモンの香りがする。


 あっ、ほんのり甘い。


 500mlも入ってるし、調子に乗っちゃっても大丈夫かな・・・・・・?


 「んむ。」


 んー・・・・・・爽やか。


 舌に残る僅かな酸っぱさも、飲んでると癖になるかも。


 それに、この間から駅は暖房が掛かっていてここに座っていてもほんのり暖かいから、喉越しがひんやりしていても逆にそれが気持ちいい。

 

 外を歩いていたら寒かったし手がかじかんで、明日からは手袋かな、なんて思ってたけど。


 ここでも美味しいけど、きっと暖かい家の中で飲んだらもっと美味しいんだろうな。


 「そーいえばどうする?テスト勉強。」


 「あ、えっと・・・・・・図書室はどうでしょ?」


 「うーん・・・・・・なんかあそこ全体的に明かりとか暗くない?」


 「そ、そうッスかね?」


 「じゃあさ、学校の近くに市民図書館あるし、そこに行く?」


 「お、そんなのあったの?どこどこ?」


 「ちょっと待ってね、んっと・・・・・・。」


 「あ、先輩。私スマホで位置調べるッス。」


 「あ、うん。ありがとう。」


 そうして、随分と軽くなった紙パックと、その中から最後の一滴をストローで吸い出し、口の中に残った酸っぱさを唾を含んで飲み込んだ。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「じゃあ帰りましょう、先輩方。」

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