じゃがりこサラダ味Lサイズ at避難訓練

 ウゥゥゥゥ


 うっ、来た。


 このサイレンの音、本当に嫌だなぁ。


 こういったサイレンの音って、人が危険だったり不安を感じるような音にわざとしているって聞いたことがある。


 それから程無くして、機械的な音声が教室のスピーカーから聞こえてきた。


 ・・・・・・今年は地震なんだ。


 とりあえずその音声に従って、机の下に体を押し込める。


 「ふぅ。」


 訓練と分かっていても、この瞬間はいつも怖い。


 でも、こうして訓練をしておかないと、いざという時に慌てちゃうんだろうな。


 うぅん・・・・・・。


 でもやっぱり、いざという時なんて来てほしくないなぁ。

 それに、今は学校で私一人じゃなくて寂しさはないけど、地震って夜にも起こるかもしれない。

 そうなると、一人だし。


 家で一人の時に、テレビから地震速報のあの音がしてきたらどうしよう。

 私、正しい避難とかできるのかな。


 うぅ・・・・・・ダメダメ。私の悪い癖だ。


 暗い事は考えない様に、考えない様に・・・・・・。

 

 そんな時、教室のどこかからガタッ、ガタッ、と机がぶつかるような音がした。


 どこからだろう。


 机からはみ出ない程度に頭を動かして、音のする方を見ると・・・・・・。


 「あっ。」


 渡辺さんだ。


 渡辺さんの机が浮いたり沈んだりを繰り返している。


 ガタッ、と音がするたびに机の足が浮き、かと思えば膝の位置を変えてまたガタッ、と音を立てている。


 「ちょっ、違うし。息が苦しーんだし。」


 と、小声で言ったかと思うと再びガタッと・・・・・・あ、おでこを手で抑えている。


 確かに、渡辺さんの身長だと入らないかも。


 「ふふ。」


 ・・・・・・笑っちゃいけないんだろうけど、うっかり口から漏れてしまった。


 

 ピロピロピロリン


 「んじゃ、今日はあたしの番だねー。」


 「うん。ありがとう。」


 「ゴチになるッス。」

 

 彼女が傍にあったカゴを一つ手に取り、持ち手を腕に通し、カツカツを歩き始めた。


 「あ、そーいえば上原っち。」


 「ん?何?」


 彼女にしては珍しい、ちょっと不機嫌そうな声。


 ・・・・・・なんだろう。


 「さっきの避難訓練の時さ、あたしが机の下に居る時さ。」


 「う、うん。」


 「ちょっと噴き出したの見たし!」


 う。見られてたんだ。


 「ご、ごめん。」


 「そりゃさー、あたしもうるさいなーとか思ったけどさ。体が入んなかったんだし!」


 「そ、そうだったんスか?」


 「そうなの。もーキツくてさ!」


 「で、でも。その分、先輩の背が高いって事ッスよね?」


 「ん?まぁ、そうなのかな?」


 「羨ましいッス。」


 「あ、えっと、私も背は低い方だから羨ましいな。」


 すると、不機嫌そうな顔から一転してへにゃっとさせ、


 「えー?そう?」


 と、いつもの八重歯を見せた。


 ・・・・・・助かった。


 良かった、相手が渡辺さんで。


 「お、これにしない?Lサイズだって。」


 と、彼女がそこにあった商品棚から一つを取り出した。


 「あ、じゃがりこッスか。Lサイズなんてあったんスね。」


 じゃがりこのサラダ味かぁ。


 「女子高校生がカバンに入れて持って歩けるような、袋菓子ではない箱やカップ入りのお菓子をつくろう」というコンセプトで作られたお菓子だっけ。

 そして、味の「サラダ」は所謂生野菜のサラダではなく、「ポテトサラダ」の方のサラダ味だとか。


 ちなみに名前の由来は、当時のお菓子開発の人の友人の名前らしい。

 その人が凄く美味しそうに食べる事からその人の名前「りかこ」と「じゃがいも」を組み合わせてじゃがりことなっただとか。


 細長いお菓子・・・・・・。

 さっきまで身長の話をしていたせいか、無性に気になる。


 「うん。じゃがりこ食べたい。」


 その言葉に渡辺さんは頷き、もう一つをカゴの中に入れて財布を取り出した。

 チャリンチャリン、と音を立てたかと思うと、


 「ごめ。2個無理だし・・・・・・。」


 と、ゆっくり一つを棚に戻し、レジへと向かっていった。

 

 

 「ごめん、二人とも。」


 「ううん、気にしないで。」


 「そうッス。気にしないでくださいッス。」


 「助かるし・・・・・・。」


 と、彼女がじゃがりこを手に持ち、そのフタをペリ、と剥がした。


 「あたし持ってるからさ、ジャンジャンいっちゃってほしいし!」

 

 と、八重歯を見せる彼女に頷き、


 「「「いただきます。」」」


 早速、一本を手に取ってみる。


 お、結構澄んだ黄色。

 そして、透けて見える赤と緑。


 赤はニンジンで、緑は・・・・・・なんだろう。


 あ、じゃがいもの匂いがする。

 それと、ちょっとだけ塩みたいな、しょっぱい匂いもするかも。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 あ、サクサク。


 噛むのが楽しくなっちゃうくらいサクサクしてる。


 確か、じゃがりこのキャッチフレーズに「食べだしたらキリン(キリ)がない」というのがあったっけ。


 これは・・・・・・キリがないかも。


 あっ、気が付いたらもう1本食べちゃってた。


 緑色の正体が分からなかった。


 よし、次はブレーキを掛けながらゆっくり味わってみよう。


 んと・・・・・・あ、これ緑色のが多いようなきがする。


 「んむ。」


 落ち着いて、落ち着いて。


 ん・・・・・・んっ!


 これ、もしかしてパセリかな?


 いや、パセリの味ってどうだったっけ。

 あまりパセリって真剣に食べた事無いしなぁ。


 でも、ポテトサラダだったら・・・・・・パセリ、かな?


 そして、カリカリの触感が止まらない。


 美味しい。


 「そーいえばさ、じゃがりこにお湯を入れるってしたことある?」


 「え?お湯?」


 「あ、知ってるッス。美味しいみたいッスね。」


 「そーそー。美味しそうだし、それ。」


 「言われると確かに・・・・・・美味しそう。」


 「ッスねー。」


 そうして、最後の一本・・・・・・と思って手を伸ばしたらもう底の欠片しか無かったので、指に残った僅かな油を舐めて飲み込んだ。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「それじゃ帰ろ、二人とも!」

 

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