プチシュー at学園祭後半
『さーて皆!今年のお祭りどうだったかな?ジュウジュウだったかな?』
すっかり暗くなった体育館。その壇上のスクリーンで白トロちゃんが手をフリフリしている。
『私はすっごく楽しかった!これも、皆が協力してくれたからだよ!皆は最高のトロ友だよっ!』
と、ぱぁっと笑顔になった。
・・・・・・佐久間さん、やり切ったね。
こう暗いと彼女がどこにいるのか分からないのが残念に思ってしまう。
滅多に見られない、彼女の笑顔が見れたかも。
「さくさく、すごく嬉しそうな顔してそうだし。」
「うん。」
『そしてそして!5時からはお待ちかねの後夜祭だよっ!』
「ねえねえ。」
「ん、何?」
「後夜祭まで時間あるし、コンビニ行かない?」
「あ、うん。いいね。」
お昼に食べ損ねたあれをというのもいいし、あ、でも・・・・・・胃に重いかな。
後夜祭はグラウンドだし、そこで無理なく食べられるものでも・・・・・・。
『さて、次は・・・・・・告白タイムだよ!』
えっ?
周り、すごい歓声・・・・・・。
「なんか盛り上がりそーだし!」
と、渡辺さんはテンションの上がった様な声量だった。
『じゃあまずは・・・・・・二年五組の田村くん!』
五組・・・・・・2つ後ろの教室か。
そして男子の野太い声で女子の名前が叫ばれ、その直後に女子の高い声で「よろしくお願いします。」と聞こえた。
うぅん・・・・・・。
渡辺さんのおかげで暗い性格が大分マシになったとは思ったけれど、やっぱりこういうノリは嫌いかも。
「どしたの?上原っち。」
「あ、ううん。なんでもない。」
『それじゃ次は・・・・・・二年三組の田中くん!』
田中・・・・・・あ、一番前の席の子か。
次の瞬間。
「え?あたし?」
渡辺マノン、と男子が口にし、付き合ってください、と声が響いた。
さらに次の瞬間、ちょっとまったー!、という声が体育館に響いた。
え、え、どういう事。
二人から?
「いやぁ、あたしってモテるんだねー。」
と、八重歯を見せて頭を掻いている。
暗いから分からないけど、ほっぺも赤かったりするのかな。
そして、渡辺さんが席から立つ。
・・・・・・なんて言うんだろう、渡辺さん。
渡辺さんって薄々気がついてはいたけど、モテるんだね。
・・・・・・はぁ。
「ごめ!あたしもう付き合ってる人いんの!だからごめんだし!」
と、口早に言ったかと思うと素早く席に着いた。
「いやー、やっぱ熱くなんね!」
手で顔をパタパタとさせている。
い、いや、それよりも・・・・・・。
「わ、渡辺さん。もう付き合ってるって・・・・・・。」
「嘘だし嘘!空気冷ましちゃったらなんか嫌だしね。」
「え、そうなの?」
「それに彼氏もいいけど、今でも十分楽しいし!」
と、シシ、と八重歯を見せて笑った。
「そ、そっか。」
『それじゃあ次は一年五組の・・・・・・。』
ピロピロピロリン
「今日は私の番だね。」
「ゴチになるしー。」
「お世話になるッス。」
カゴを一つ取り、持ち手を腕に掛ける。
「後夜祭まであと何分だったっけ?」
「あ、えっと・・・・・・20分くらいッス。」
「んじゃ、ちょい早で急ぐ?」
「だね。」
とは言っても、何を食べたいのかを体に問いかけたい。
とりあえず甘い物。お昼はしょっぱい物ばかりだったから、それだけは決まっている。
ポテトチップスの並ぶ、スナック菓子コーナーに目も触れず通り過ぎる。
かといって、菓子パンが入るお腹じゃない。
いつもの学校と違って授業が無かったからか、いつもよりお腹が減っていない。
となるとやっぱり・・・・・・。
ひんやりとするスイーツコーナーの前へとやってきた。
さてどうしよう。
後夜祭の広場、グラウンドで食べる訳だから、ケーキとかは食べられないよね。
そういうのは落ち着いて、テーブルと椅子がある所で食べたい。
甘くて、サクっと食べられて、それでいてそこまでお腹に溜まらなくて・・・・・・。
「あっ。」
まさに思い求めていたものがそこにあった。
すかさず手に取ると、最後の一つだった。
「お、いーじゃんそれ。ちっちゃくてかわいいし。」
「一口サイズだから汚れ無さそうッスね。」
プチシュー。
底の深い紙の皿に小さいシュークリームが盛りつけられていて、それが12個も乗っている。
横にある普通サイズのシュークリームと見比べると正にサイズがプチシューだけれど、生地は普通サイズと同じくらいふっくらと膨らんでいる。
「じゃあ、買ってくるね。」
と、早速レジへと向かった。
ピリ、と袋を破り、中身の紙の皿を取り出す。
「お、始まるんじゃない?」
その言葉を聞き、校舎に目をやると・・・・・・。
「あ、一階部分が・・・・・・。」
「導火線みたいに、ジュウウウってなってるッスね。」
「お、段々上に登ってくるし。」
「わあぁぁぁ・・・・・・。」
「打ち上げ花火っ!」
「あっ、私のクラスに火花乗ってるッス!」
「あ、シュークリーム。私お皿持ってるね。」
「ありー。」
「あっ、頂くッス。」
花火が打ち終わるや否や、次は学校の名前が校舎に浮かび上がり、学校の制服を来た人たちが右から左に横切っていった。
って、プチシューも食べなくちゃ。
取り合えず、一つ手に取る。
プチシューの名前の通り小さく、そして焦げ色の混じったきつね色の生地。
手に持つと、この小ささの割にずっしりとした重み。
生クリームとカスタードかな。
どのくらい入ってるんだろう。
よし、いこうかな。
このサイズだし、一口で・・・・・・。
「んむ。」
んっ。一噛みでじゅわり、と中のクリームが弾き飛んできた。
プチシューというネームバリューの構えで口に運んだものだから、ここまでクリームが詰まっているだなんて想像できなかった。
そして、甘いだけじゃなくて、生地の焦げも苦みになって舌を触ってくる。
ほんのりと苦い香りが鼻から抜けていった。
んと、次は・・・・・・。
お、これ一番膨らんでる。
手で持つと、さっきよりもほんの少しだけ重いような気がした。
「んむ。」
ん・・・・・・?気のせいだったかな。どこがどう違うのか分からないかも。
そして歯で割いた生地の穴、そこから生クリームがニュムっと流れて来る。
でもただ甘いだけじゃなくて、この苦みがほんのり大人な味な気がした。
美味しい。
さっき重く感じたのはきっと気のせいかな。
「あっ!あたし達映ってる!いつ撮られたんだし!」
「わ、ホントだ。これは・・・・・・理科室に行った時?」
「お、さくさくも映ってるし!」
「な、なんか恥ずかしいッス・・・・・・。」
「あ、ちっちゃくだけどあれ、私たち映ってない?」
「わ、すご。丁度3人で帰るとこだった時?」
「ほ、ホントッスね。いつの間に・・・・・・。」
そうして、大分軽くなった皿の中から最後のプチチューを取り出し口へ入れ、ビターとスイーツをたっぷり味わった後に喉へ流し込んだ。
「・・・・・・楽しかったし。」
「うん。」
「わ、私もッス。」
その時、アナウンスで学園祭全てのアナウンスを終了するという放送が流れた。
「それじゃ帰ろっか、二人とも。」
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