たこ焼きと焼きそばとフライドポテト at学園祭前半

 「皆さんおはトロ~。今日はついにお祭りの日だねっ!」


 体育館が暗くなったかと思えば、壇上のスクリーンにキャラクターが表れた。


 フリフリ、といった様子でこちらに向けて両手を振っており、その度に赤みがかった白色の髪が僅かに揺れている。


 「私の名前は白トロ・十々じゅうじゅうっていうの!今日はよろしくっ!」


 わ、瞬きした。


 ふと気が付くと、周りがざわついている。


 すげぇ、どうやったんだろ、なんて声が至る所から聞こえて来る。


 あ、携帯カメラのシャッター音もする。


 「私も盛り上がっちゃって今からもう、ジュウジュウだよっ!」


 あの時パソコン室で見たあれが、こうやって動くなんて。


 「すごいしさくさく・・・・・・。」


 横にいる渡辺さんが口を半開きにしている。


 「でも、今日のお祭りはリスナーさん・・・・・・じゃなかった。皆も協力してくれないと成功できないのっ!だから、これから言う事をしっかり聞いてね?」


 そうして、その白トロというキャラクターは注意事項や今日のプログラムを話していった。


 

 「お、さくさく!来てくれたんだ。」


 「いらっしゃい、佐久間さん。」


 「あ、ど、どうも。」


 いつものおずおずとした様子で、ペコリと頭を下げた。


 「あ、さっきの見たし!あれすごかった!」


 「あ、ありがとッス先輩・・・・・・。」


 と、頭を掻き、彼女にしては珍しく歯を見せている。


 そんな彼女の様子を見てか、渡辺さんが、


 「メッチャ可愛かったし!白トロちゃんも生んでくれてありがとう、って思ってるしきっと!」


 「そ、そっッスかね・・・・・・?」


 カリカリと激しめに頭を掻いてる。


 ・・・・・・って。


 「渡辺さん、まだ時間じゃないよ。」


 「あ、ごめんごめん。」


 彼女が苦笑いを浮かべ、咳ばらいをした。


 「んじゃ説明すんね!問題は3つあるよ。まずこの教室に2つ。」


 続いて彼女は地図を佐久間さんに手渡し、


 「最後の謎はこの理科室にあるよ!説明は終わりだよ。」


 「ヒントが欲しくなったら、扉をノックしてくださいね。」


 そして、佐久間さんは頭を下げて教室の扉に手を掛けた。


 「せーの。」


 「「いってらっしゃい。」」


 そのまま教室の中へ入っていった。


 「そういえばさ、今って何時?」


 「ん、っと・・・・・・。」


 ストップウォッチの横に置いた携帯を手に取り、画面を点ける。


 「10時55分だね。」


 「お、じゃああと1人くらい?」


 「かな?」


 不意に、彼女が口元に手を添えた。


 ・・・・・・欠伸してる。


 「あ、ねえねえ。昼なににする?」


 「ちょ、ちょっと。あと5分だしさ。」


 「えー?でも楽しみじゃない?」


 それは・・・・・・うん。


 学園祭のパンフレットにはどこがどんなお店をするのか書かれていたけれど、食べたいのを数えてみたら4つもあった。


 そんなには食べきれないから絞らなきゃな。そもそも持てないしなぁ。

 あ、飲み物はどうしよう。やっぱりお昼ご飯だしお茶か水かな。でも、こういう日くらい炭酸飲料とかオレンジジュースなんかも・・・・・・。


 「上原っち上原っち。」


 と、耳元に顔を近づけてきた。


 「え?何?」


 「お客さん来てるし。」


  

 ワイワイガヤガヤ


 「すごい人ッスね。」


 「だねー。学校の外からも来てる人いるしね。」


 「あ、なるほど・・・・・・。」


 携帯を取り出して画面を見ると11時半となっていた。


 丁度お昼時だし、今が一番混んでいるのかも。

 

 「お、焼きそばだって。」


 と、彼女が指さす先には・・・・・・道行く男の人が遮ってて見えない。


 「んしょ。」


 つま先立ちをしても、見えない。


 さっきから焼きそばの匂いがしないし、結構遠くにあるのかな。


 「あっちは焼きそばとかたこ焼き系で固まってるみたいだし。」


 つまり、火を使ってその場で作るものが固まってるのかな。


 そういえば、ここら辺は綿あめやかき氷なんかのデザート系で固まっている。


 もっとパンフレットを読んでおけば良かった。後ろの方のページに書いてあったような・・・・・・どうだったっけ。


 「んじゃ、あっち行ってみる?」


 「ん。ようしよっか。」


 「了解ッス。」


 そうして人の波をなんとか掻き・・・・・・わけてっ。


 あ、美味しそうな匂い。


 それと、何重にも重なってる人の話し声に混じって、ジュウジュウという音が耳に届いた。


 「う・・・・・・食べるとこ席埋まってるし。」


 彼女の視線の先を見ると仮設された椅子とテーブルがあり、それら全てに人が座っていてそれだけじゃ収まらず、その周囲にも人が立ちながら焼きそばなんかを頬張っている。


 「3階の教室を休憩室として開放してるみたいッス。」


 「お、じゃあ買ったらそこいこっか。」


 周囲からは絶えず白い煙が空に昇って行って、ジュウジュウという音、そして美味しそうな匂いがあちこちからする。


 「何食べる?二人とも。」


 うぅん。どうしよう。


 360度からの誘惑がさっきからすごい。


 「渡辺さん、周りのお店が何を売ってるか見て貰ってもいい?」


 「おっけー。」


 と、彼女がぐるりと首を回し、


 「焼きそば、たこ焼き、たい焼き、フライドポテトと・・・・・・。」


 こちらを見下ろし、


 「ホットドックとドーナツの6個だし。」


 「ありがとう。」


 うぅ、迷う。


 どれも300円はしない値段だから、値段の心配はない。


 でも、人間の体の構造上、満腹というのがある。


 それが無かったら、全部食べたい。


 ふと佐久間さんをみると、財布を取り出して右手の人差し指と中指で千円札を挟み、他の指で財布をチャリンチャリンと言わせている。


 私もそれくらい食べれたらなぁ。


 でも、無いものを嘆いても仕方がないよね。


 うぅん・・・・・・。


 よし、ここは消去法でいこう。


 確実に外せるのは・・・・・・ドーナツとたい焼き。


 今の私の体は、甘い物の気分じゃない。


 まだ選択肢が4つもある・・・・・・。


 焼きそば、焼きそばかぁ。


 微妙に、ほんの微妙に、違うかも。


 じゃあ取り合えずたこ焼きは決定かな。


 残りはホットドックかフライドポテトか。


 うぅん・・・・・・。


 どっちもたこ焼きと会う。


 たこ焼きのソースとマヨネーズにちょっと付けて食べたらきっと、どっちも美味しいんだろうなぁ。


 でも、ホットドックは一人しか食べられない。


 半面、フライドポテトは皆で分けられる。


 ・・・・・・よし。


 「私はたこ焼きとフライドポテトにする。」


 「私は・・・・・・取り合えず焼きそばとたこ焼き買ってくるッス。」


 「んじゃ、あたしはたこ焼きにするし。」


 まさか、数ある料理の中から、たこ焼きで一致するなんて。


 思わず口から息が漏れそうになった。


 「そういうことならあたし、たこ焼きまとめ買いしてくるし。」


 「ありがとう。」


 「お願いしまッス。」


 「3-1の教室前で集合だし!」


 「わかった。」


 「了解ッス。」


 「あ、焼きそばはあっちで、ポテトはあっちらへんだし。」


 私と佐久間さんからお金を受け取った彼女は、そのまま人混みの中へと入っていった。

 

 「では、私もいってくるッス。」


 「うん。私も。」


 そうして、なんとか人の波をかき分けていき、やっとの思いでポテトを無事に買う事に成功した。


 3-1、だよね。


 ここからなら・・・・・・この道の方が早いかな。


 

 ガラガラ、と教室の扉を開けて中に入る。


 机が4つくっついているテーブルが6つあった。


 そして、その内に一つに、そこにあった椅子を引いて座る。


 さっきの喧騒がここだと嘘のように消えて、私たちの内の誰かが喋らないとシン、としてしまう。


 授業の時は聞きなれた静寂だけど、さっきまでがさっきまでだからなんだか落ち着かない。


 「はい、上原っち。」


 と、3段に重なったたこ焼きのパックの内、一番上が私の前に差し出された。


 「あ、ありがとう。」


 あれ。上に十円玉が二つ乗ってる。


 同じように、佐久間さんの前にも一つ置かれる。


 わ・・・・・・アツアツなんだ、これ。


 上に掛かった鰹節がゆらゆらと踊っている。


 「男女の組だったら一つ20円引きってあったから得しちゃったし!」


 えっ?


 「わ、渡辺さん。彼氏いたの?」


 「ううん。傍にいた男子にちょっとお願いして一緒に居て貰っただけだし。」


 「そ、そうなんだ・・・・・・。」


 渡辺さんなら、彼氏が居ても全く不思議じゃないけれど。


 手がじんわり暑い・・・・・・あ、フライドポテトの熱か。


 「ポテト、食べていいよ。」


 と、戦利品をテーブルの真ん中へ突き出した。


 「あ、じゃあ焼きそばもよかったら・・・・・・。」


 続いてパキン、と割りばしが割られてから焼きそばが真ん中に出てきた。


 「お、ありー。」


 シシ、と彼女が八重歯を見せた。


 「じゃあ、食べよっか。」


 そうして3人で頷き、


 「「「いただきます。」」」


 たこ焼きのパックを開けると、ふわっと濃い香り・・・・・・ソースか。その匂いが鼻にまで登ってきた。


 8個のたこ焼きのそれぞれがきつね色の焼き色、その上にかつお節、青のり、そして黒のソースと白のマヨネーズ。


 それらがふんだんに乗っかっている。


 一緒に付いてきた爪楊枝を手に取り・・・・・・んっと、どれからいこう。


 やっぱり最初はオーソドックスな所をいきたい。


 これは青のりが多めなきがする。


 あ、これはソースが。


 ・・・・・・よし、これにしよう。


 狙いを定め、それに楊枝を突き刺す。


 そして、持ち上げる。


 あっ、青のりが風で飛んで行っちゃう。


 でも、焦っちゃだめだ。


 これはアツアツなんだ。焦ったら口の中が大変な事になる。


 焦らず、ゆっくり・・・・・・こうしてまずは唇で挟んで。


 まずはちょっとだけ噛んで・・・・・・。


 「あ、ハッフ!」


 あっつ!


 あっ、あっあっ。


 「ハフ、ハフ。」


 はぁ・・・・・・。


 なんとか、外から風を取りこめた。


 ふと、二人の様子を見てみる。


 渡辺さんは時折「あっつ!」と小さく叫びながらペットボトルのフタをカシュカシュと勢いよく回しては、中身の物をグビグビと勢いよく飲んでいる。


 一方の佐久間さんは、一つを口に入れたかと思うと目が潤んで、両手の指を伸ばしたり曲げたりを高速で繰り返している。

 かと思えば、真ん中のフライドポテトを1本手に持ち口に入れては、これまた高速で動かしている。


 そうか、フライドポテト。


 たこ焼きよりは温度が低いかもしれない。


 早速一本を口に入れてみる。


 ・・・・・・まだ暖かい。


 サクサクしていて、塩味も効いていて美味しい。


 でも、出来立てだからまだアツアツの状態だ。


 あ、焼きそばはどうだろう。


 割りばしで程よい麺の本数を掴み、口の中に入れた。

  

 ・・・・・・美味しい。


 でもまだアツアツだった。


 こうなったら、私も渡辺さんの食べ方にしてみようかな。


 でも、そうしたらたこ焼きのせっかくのアツアツが死んでしまうような気がする。


 とりあえず、次の作戦はこのソース多めのを食べながら考えよう。


 そうして、苦戦し口の中がジンジンしつつも最後の一つを喉へ流し込み、長い溜息をついた。


 「「「ごちそうさま。」」」


 4つのパックを重ね、その中に紙袋を丸めて入れる。


 ゴミ箱は・・・・・・あったあった。


 「後夜祭まで何するー?」


 「今だったら・・・・・・体育館で軽音部の出し物の時間かな?」


 「お、いーじゃんいこいこ。さくさくもどう?」


 「はい。2時から店番なのでそれまででしたら大丈夫ッス。」


 そしてその教室を後にし、1階へと降りて体育館へと向かった。

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