トップス チョコレートドリンク at学園祭準備3

 「やっぱり、理科室がテーマなら原子番号とか、化学式とか?」


 「うーん・・・・・・それは難しいと思うし。もっとこう、見たらわかるみたいなさ。」


 うぅん・・・・・・見たらわかる、かぁ。


 こうして私はスマホで、渡辺さんはパソコンでだけど、色々見てみるとどの問題も難しく思えてしまって、そのくらい難しくしなきゃなのかと錯覚してしまった。


 「例えばさ、今までの問題の答えが実は理科室の何かになっていたり・・・・・・とかどうだし?」


 「んっと、模型とか、薬品の名前とか?」


 「そうそう、そういうのどう?」


 なるほど・・・・・・。

 

 でもそれも、難しいところがあるかも。

 何か、代替え案はないだろうか。


 「んでさ、スイソとかカエルとかモケイとか、カタカナで書いて用意してさ。」

 

 「あっ!そっか。」


 彼女の言う通り、カタカナにすれば小さい子も分かるし、何より全部の問題を繋げてその答えに導くという形だったら、謎を解いてきたっていう達成感もスゴいかもしれない。


 「じゃあ例えば、スイソって書いたビンの中に鍵とか呪文を書いた紙を入れて、それで・・・・・・。」


 「いいじゃんソレ!」


 と、八重歯を見せて彼女が笑った。


 「んじゃ、後で理科室行って何があるか見て来る?」


 「うん、そうだね。」


 と、その時。後ろからガラガラ、と扉の開く音がした。


 見ると、佐久間さんが目に見えて肩をガックリと落としてパソコン教室へと戻ってきた。


 そして、元の席に座ったかと思うと、長い溜息を付いている。


 どうしたんだろう。


 渡辺さんから遅れて佐久間さんの元へと行くと、この間みた、その、モー・・・・・・ナントカっていうのを設定する画面が開いていた。


 「どーしたん?さくさく。」


 渡辺さんの声に彼女が顔を上げて、


 「あ、いえ。その・・・・・・なんでもないッス。」


 と、苦笑い・・・・・・ううん、空元気に近いのかな。


 「何か、困った事でもあったの?」


 すると、その肩がピクっと動いたような気もしたけれど、


 「ほ、本当になんでもないッス。」


 と、キーボードをカタカタとさせ始めた。


 ・・・・・・私にはこの知識は何もないけれど、何かできないかな。


 「あー、あたし小腹空いちゃったし!」


 突然、隣の彼女がやけに芝居がかった言い方でそう言った。


 「ね、上原っちも減ったっしょ!さぎょー中断してコンビニ行かない?」


 あ・・・・・・そっか。


 その手があった。


 「うん、そうだね。ずっと頭使ってたからお腹減ったかも。」


 「え、あ・・・・・・でも、私は。」


 と、おずおずと切り出す彼女を、


 「いーからいーから!ほら、いこ?」


 そうして強引に彼女を捲し上げ、そのままコンビニへと向かった。


 

 ピロピロピロリン


 「そーいえば今日は誰の番だっけ?」


 「えっと、確か私ッス。」


 佐久間がおずおずと言った具合に切り出すと、


 「え?そだったけ。なんかごめんね。」


 と、渡辺さんはぎこちない笑みを浮かべて頭を掻いた。


 佐久間さんがそこにあったカゴを一つ取り、持ち手を腕へと通す。


 「そういえば、さっきはどうしたの?佐久間さん。」


 いつもよりも歩く歩幅が狭い、その後ろ姿に尋ねる。


 「え、えっと・・・・・・た、ただ私がダメなだけですから。」


 「えー?さくさくすごいじゃん?何がダメなの?」


 「そ、その。やっぱり、えっと。私じゃ、まだ・・・・・・。」


 ・・・・・・涙声になってる、佐久間さん。


 「何か言われたの?さくさく。」


 「・・・・・・キャラクターを上半身だけじゃなくて全体を動かしたい、って言われたッス。」


 「全体って、足から全部って事?」


 「は、はい。足から動かしたいって言われて。」


 「それって難しいの?」


 「その、機材とソフトがあればできるんですが、どっちも今なくて・・・・・・。」


 「じゃ、無理じゃんそれ。」


 「で、ですよね?それをどうにかしてほしいって言われて・・・・・・。」


 「えっ、何それ無茶苦茶だし。」


 「で、でも。それをvtuberのあの人は出来てるのにって言われて、あっちはプロさんだけど、私はまだ素人同然ですし、そもそも、機材もソフトも無いですし・・・・・・っ。」


 「そ、それは・・・・・・。」


 つまり、出来ないことをしろって言われている事になる。

 パソコンに詳しくない私でも、滅茶苦茶な事だというのは明確に分かる。


 ありえない。


 「はぁ?誰言ったのそれ?」


 と、彼女が強い語気で言い、


 「そいつにさ、しっかり言ってやろーよ!あんた何言ってんだって。」


 「で、でも。なんて説明すればいいか分かんなくて・・・・・・。」


 「じゃあさ、パソコンに詳しいせんせーに、それは無理だって説明してもらお!」


 「あ・・・・・・そっか。そ、そうですね。」


 「休憩が終わったら付き合うよ、佐久間さん。」


 「あ、ありがとうございますッス。」


 ・・・・・・良かった。目が腫れてはいるけど、笑顔になってる。


 「んじゃ、何にすんのー?さくさく。」


 「あっ、そうッスね・・・・・・。」


 と、さっきよりも広い歩幅で彼女が歩いていきそして、


 「これどうでしょうッス?」


 そこにあった商品棚から、一つ手に取った。


 「お、チョコレートドリンク?初めてだし、飲むチョコって。」


 飲むチョコかぁ。


 そういえば、チョコレートって紀元前からもう既にあったのだとか。

 古代メキシコではチョコの原料であるカカオは「神様の食べ物」と言われていて、とても貴重な物だったらしい。

 その時のチョコは今ある板チョコみたいな形のあるものじゃなくて、ドロドロとした液体、それがチョコの最初の形だっただとか。

 ちなみに、今の形のチョコレートとなったのは、1828年、オランダの人がカカオから「ココアパウダー」を取り出した事から、それを使ったカカオと砂糖との組み合わせが流行っていって徐々に「飲むチョコレート」から「食べるチョコレート」として広まっていったらしい。


 つまり、原点回帰をした飲むチョコ・・・・・・。


 どんな味がするのだろう。


 「うん、私も飲んでみたい。」


 そうして、佐久間さんが3つのそれをカゴに入れて、レジへと向かっていった。


 

 「お、あそこにする?」


 学校に入って一階にあった長いす。


 こんなところに長いすってあったっけ?という位にその存在感は薄かった。


 ん・・・・・・少し埃っぽい。


 手で座る場所を払い、そこに腰かける。

  

 「はい、先輩。」


 と、彼女がさっき買ったのを手渡してきたので、


 「ありがとう。」


 とそれを受け取り、膝の上に置く。


 「ありー。」


 渡辺さんも受け取ったのを確認し、3人で頷き、


 「「「いただきます。」」」


 まず、側面に付いていたストローを取り外し、袋を・・・・・・あ、ちょっと失敗した。袋が破れちゃった。


 でも、破る手間が省けたし、結果おうらいかな。


 ストローと取り出して、フタをえっと・・・・・・あ、剥がすところがある。


 持って、ペリっと。


 おぉ・・・・・・見た目はココアみたいな色味をしてるかも。


 あっ、でも匂いはココアとは少し違うかも。


 ストローを長く展開し、茶色に水面に白い棒を突き刺す。


 ・・・・・・底に付いた。


 容器の縁からちょこん、とストローの口がはみ出る。


 丁度唇をそこに添えて吸い込みやすい長さ。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 お・・・・・・ねっとり。それとザラザラしてる。


 そして、チョコの味とココアと、それからミルクの様な味が、舌に触れる。


 飲み込むとさらり、と驚くほど速く下へ下へと喉を通って落ちていく。


 「んむ。」


 む・・・・・・一口目よりも多めに含んでしまった。


 喉越しが良くて、つい行ってしまった。


 せめて、口の中で転がして・・・・・・。


 お、舌が物凄いザラザラする。


 もし舌を今噛んだら、ココアの味が染みてくるんじゃないかな。


 あと、歯の色なんかもちょっと気になった。


 チョコ味が染みてたりしないかな。


 そして、ゴクン、と飲み込む。


 下へ下へ、落ちていく。


 おいしい。


 「そいえば、チョコって頭の疲れを取るのにいいんだっけ?」


 「あ、えっと。どうなんでしょッス・・・・・・。」


 「どうしよ、こっそり毎日チョコ持ってこようかな。」


 「あ、じゃあ、お弁当に入れて来るというのはどうでしょッス。」


 「いいじゃん・・・・・・あ、でも溶けるの怖いし。」


 そして、ズズズ、と空気の音と白い底が覗かせ始めたので、ストローで最後の一吸いを味わい、喉へと流し込んだ。


 「うっし、んじゃいこっか!」


 「うん、わかった。」


 「あ、そ、その。ありがとうございますッス。」


 そうして、そのまま職員室へ向かうべく、階段に足を掛けた。

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