濃いピザポテト at学園祭準備2

 「上原っち、これなんてどう?」


 「この問題?」


 んっと・・・・・・タヌキの絵と、毛虫の絵が描かれていて・・・・・・。


 あ、そっか。この文字列から「た」と「け」を抜いて読むんだ。


 この問題なら、小さい子も分かるかな。


 「うん、いいと思う。」


 と、彼女が上の小さなタブ・・・・・・って言うんだっけ?そこを開いて印刷というところに矢印を合わせた。


 少しして、パソコン教室の端にある印刷機が機械音を立て始める。


 「難しいし、問題考えるのって。」


 彼女が眉間に親指を当て、肘を机に付ける。


 「そうだね・・・・・・。」


 ただ難しくすればいいという訳でもないし、かといって簡単すぎたらつまらない。


 ヒントを聞いて閃くような、そんな難しさがいいのだろうけれど・・・・・・。


 「うぅん・・・・・・。」


 パソコンの画面には初級編と書かれているけど、今私たちがその答えを導き出せたとしても、実際に解くのは別の人の訳だから、判断が難しい。


 キンコンカンコーン


 「あ、もうこんな時間?」


 時計を見ると、いつも帰る時間よりも1時間経っていた。


 そういえば、さっきまでは締め切ったカーテンの隙間から茜色の光が漏れてたけど、それがもう見えない。


 もうすっかり寒くなってきたし、明日からマフラーをしてこようかな。


 「さくさく、そっちはどお?」


 いつの間には渡辺さんはパソコンを、えっと、シャット・・・・・・オフ?して佐久間さんの元へと向かっていた。


 「あ、えっと。ちょうどこっちもキリが良いところッス。」


 と、渡辺さんがその画面を覗き込んで、


 「えっ、これってVtuber?もしかして学祭で?」


 「あ、はい。生徒会から頼まれて・・・・・・。」


 わ・・・・・・画面を見ても、佐久間さんが何をしているのか全然分からない。


 このキャラクターが、動くようになるって事なのかな。


 「ね、もう動かせるの?これ。」


 「えっと、それはまだかかりそうッス。3Dなので、この絵に各部位毎に動かすところと動かさない所を設定しなきゃですし、モーションについての相談もしなきゃですし、VR動作チェックにそれに・・・・・・。」


 「そっかー。まだ掛かる感じなんだねー。」


 何を言っていたんだろ・・・・・・。

 

 でも、佐久間さんなんだか楽しそう。


 

 ピロピロピロリン


 「んじゃ、今日はあたしの番だし。」


 「うん、ありがとう。」


 「お世話になるッス。」


 彼女がカゴを取り、持ち手を腕に通す。


 「いやー、あたし、動画撮影ナメてた。」


 「えっ、そ、そうだったんッスか?」


 「そうそう。ぴゃーってやってバンって感じで30分もあれば動画なんてできると思ってたし。」


 「さ、30分ッスか・・・・・・。」


 「完全にナメてたわ、動画撮影。あんな大変だったんだねー。なんかゴメン。」


 「あ、いえ。そんな・・・・・・。」

 

 「あたしもVtuber興味あっからさ、今度おせーて欲しいし!」


 「えと、私でお役に立てるなら、嬉しいッス。」


 「えー?なんでそこで謙遜するし!変だよね?上原っち。」


 「そうだね。凄い事だと思うよ、佐久間さん。」


 少なくとも、私には何も分からなかった。


 あんなに複雑・・・・・・というか、あそこまで訳が分からないと感じるなんて思わなかった。


 「そ、そうッス・・・・・・?」


 と、彼女が顔を下に向けて頬をポリポリと掻いている。


 「お、ピザポテトあるし!」


 その時、渡辺さんの足が止まったかと思うと、そこの商品棚から一つの袋を手に取った。


 光沢のある黒光りのパッケージに、チーズがふんだんに使われたピザが、そのチーズをぐにっと伸ばしながら宙に浮いている写真。


 彼女が財布を取り出し、小銭をジャラジャラと鳴らしたかと思うと、その袋は元の位置へ置かれ、


 「あ、あのさ。こっちでもいい?」


 と、一回り値段とサイズが洗練されコンパクトになったのを手に取った。


 「濃い・・・・・・美味しそうッスね。」


 「あ、それにこれ、コンビニ限定だって。」


 左上に印字されていた文字を私は見逃さなかった。


 「じゃ、行ってくるし!」


 と、彼女は苦笑いっぽい笑みを浮かべて、それをカゴに入れてレジへと向かっていった。

   

 

 「じゃ、開けるし。」


 と、彼女の手が袋に伸び、その後ろを両方に開く。


 袋が底の深いお皿の様に展開される。


 わ・・・・・・すごいチーズの匂い。


 それによく見ると、中のポテトチップスが普通のポテトチップスよりもチーズ色に近いような気がする。


 「それじゃあ・・・・・・。」


 彼女の言葉に頷き、


 「「「いただきます。」」」


 早速、一枚を手に取る。


 おぉ、チーズ色の欠片が所々にくっついている。


 表面がギザギザなチップスだから、そこに歯車の噛み合いのように黄色が挟まっている。


 それと、黒と赤のポツポツ。


 黒は・・・・・・コショウかな。なんとなくわかる。


 でも、赤はなんだろう・・・・・・。

 ピザといえば、トマト、サラミ、それと唐辛子?


 うぅん、辛すぎるのは嫌だな。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 わ・・・・・・色んな味がする。


 まずはチーズ。それがふわっと鼻から抜けていった。

 

 次にしょっぱさ。これってもしかして、トマトなのかな?ほんのり酸っぱさみたいな、そんな刺激だった。


 それから、飲み込むときに喉に触れる辛さ。

 これはコショウと・・・・・・あ、でもそれだけじゃないな。

 ニンニクの辛さに似てるかも。 

 

 んっと、次は・・・・・・。


 うわ、おっきい。


 これは一口じゃ無理だな。


 「んむ。」


 おっとと・・・・・・危うく落とすところだった。危ない。


 あれ?これ、さっきと味が少し違う。


 チーズが弱くて、トマトの酸っぱさと、肉みたいな味がする。


 美味しい。


 一枚目と少しだけど、味が違う。


 ということは・・・・・・これもまた違う味がするのかな。


 「そーいえばさ、あのVtuberの声って誰になんの?」


 「あ、えっと・・・・・・実は口止めされてて。」


 「お願い!誰にも言わないし!やっぱ無理?」


 「じゃあ、耳を貸してくださいッス・・・・・・。」


 「・・・・・・えっ、生徒会長なの?」


 「こ、声が大きいッス、先輩!」


 「あ、ごめん。気を付けるし。」


 そうして、最後のピザポテトが佐久間さんの手に渡ってしまったので、指についたピザポテトの残りを舐めた。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「それじゃ帰ろっか、二人とも!」

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