学園祭準備。そして当日

スイートポテト at学園祭準備1

 「出店したかったし・・・・・・。」


 大きい溜息・・・・・・。


 「3年生が優先だって、先生も言っていたししょうがないよ。」


 「そーだけどさぁ・・・・・・。」


 サッサッ、と箒の先を力なく床に擦っている。


 「たこ焼きとか焼きそばとか作りたかったし。」


 その箒で運ばれてきたゴミをチリトリで掃き取り、教室の隅にあったゴミ箱へと入れる。


 学園祭まで1か月。今日はクラス毎の出し物が決まった。


 そして私たちのクラスは・・・・・・。


 「脱出ゲームって、何をするのかわからないし。」 


 「そうなの?」


 「テレビなんかじゃよく見るけど、行ったことはなくてさー。」


 私もテレビの内容しか知らないけれど、何度かそれで特集がやっていたっけ。


 確か、謎解きをして文字通り、脱出を目指すゲームなんだっけ。


 「あ、でもさ。後夜祭のプロジェクトマッピング、楽しみだし。」


 シシ、と彼女が八重歯を見せる。


 「うん。そうだね。」


 なんでも、学校の校舎丸々使うらしい。

 いつも見る学校がどう変わるのだろう。植えてある木とか窓とかも使うのかな。


 とても楽しみ。


 「やっぱあれかな。バーッって感じなんかな。」


 と、彼女の両手が唐突に大きく開かれた。


 その風圧で、彼女の髪が少したなびいた。


 「楽しみすぎるし!ねっ、上原っち。」


 「ふふ。」


 っと、急なはしゃぎ様に思わず笑みが・・・・・・。


 「うし、んじゃゴミ捨てて来るし!」


 「うん、ありがとう。」


 そうして、ゴミ箱を抱えた彼女は教室の外へと出て行った。



 ピロピロピロリン


 「今日は私の番だね。」


 「ゴチになるしー。」


 「ありがとうございますッス。」


 傍にあったカゴを一つ取り、持ち手を腕に通す。


 さて、今日の私の体は何を求めているのだろうか。


 うぅん・・・・・・甘い物。それも、砂糖みたいな直線的な甘さじゃなくて、優しい甘みを求めているような気がする。


 う・・・・・・遠くから白いクリームを覗かせたスイーツが見てくる。


 ダメダメ、今日は砂糖の甘さの気分じゃないんだ。


 「そういえば、さくさくはクラスで何すんの?」


 「あ、えっと。私の所は縁日ッス。射的とか、ヨーヨー掬いとか。」


 「へぇー、面白そうだし。あたしのとこは脱出ゲームになったんだし。ね。」


 「え?あっ、うん。」

 

 「出店は無理だったのッスか?」


 「駄目だった・・・・・・3年にならなきゃっぽいし。」


 「そ、そうッスか・・・・・・。」

 

 自然な甘さ、絶妙な甘さ・・・・・・。


 うぅん。悩みの袋小路に入ってしまいそう。


 ・・・・・・お、これって。


 手が伸び、それを一つ手に取る。


 「お、スイーツポテト?なんかかわいいし。」


 「和テイストのパッケージッスね。それ。」


 スイートポテト。


 日本が発祥のお菓子で、「スイートポテト」は英語でそのまんま「さつまいも」って意味だから、海外ではあまり浸透していないらしい。


 パッケージの袋には、底の浅く広い黒いお皿、そこに乗っている黄金のスイートポテト。


 スイートという文字。


 どんな甘さがするのだろう。


 「じゃあ二人とも、これでいい?」


 そして二人の頷きを見て、そこから二つを取り出してカゴに入れてレジへと向かった。



 「「「いただきます。」」」


 袋の端のギザギザを掴み、ピリ、と破く。


 あ、あれ。開かない。


 むむ・・・・・・よ、よし。開いた。


 あ、裏にビラビラがあった・・・・・・ここから開けた方が楽だったかな。


 わ、イモの匂い。


 開けた瞬間、そこに閉じこまれていた匂いがふわっと広がった。


 サツマイモの匂いと、それに乗った甘い香り。


 そして、黄金の中身。


 裏側は焼き芋の焦げた皮みたいな焦げ茶色をしている。


 よし、いこうかな。


 小さいから、口に入れるペース配分に気をつけなくちゃ・・・・・・。


 「んむ。」


 柔らか。 

 

 あ、サツマイモの匂いと香りがすごい。


 ほんの少し齧っただけなのに、口の中がそれで一杯になってる。


 最初にすごく甘いと思ったら、それが長く引き伸ばされていってサツマイモの甘い匂いが口の中を巡って、逃げ場を求めて鼻から抜けていく。


 この柔らかさ、危険だ。


 次の一口がつい大きくなってしまいそう。


 ダメダメ・・・・・・もっと自分を抑えなきゃ。一気に味わってしまったら勿体ないよね。


 すぅ、はぁ。


 「んむ。」


 ん・・・・・・奥歯では勿論、前歯でもその間の尖った歯でも、全部で噛めてしまう。


 もしかしたら、歯茎でも噛めるんじゃないかな。


 そして濃いサツマイモの甘さと匂い。


 美味しい。


 あ、あっ・・・・・・もう溶けちゃう。


 「学園祭、楽しみッス・・・・・・。」


 「あ、そっか。さくさくは初めてだもんね。」


 「そ、その。どう楽しめばいいか分からなくて・・・・・・。」


 「え?そう?授業のない学校って時点でなんか楽しいし!」


 「え、そ、そうッスか?」


 「出店とかお店の場所とか、事前に調べておくといいかもしれないね。」 


 「なるほどッス・・・・・・。」


 そうして最後の一口を食べ終える瞬間が来てしまい、それを口に放り込み何度か噛んだ後に飲み込む。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「じゃあ帰ろうか、二人とも。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る