Pocky 贅沢仕立て atお泊り後半

 ピロピロピロリン


 いつもは学校帰りの夕日に立ち寄っているから、こうして暗くなってからってなんだか新鮮に感じる。


 傍にあったカゴを一つ取り、持ち手を腕に通す。


 「じゃあ私は・・・・・・飲み物を買ってくるッス。」


 「ん、分かった。」


 と、佐久間さんが飲み物の並ぶ棚の方に歩いていった。


 「やっぱすごいし、さくさく・・・・・・。」


 「う、うん。」


 あんなに食べたのに、まるでそれを感じさせない軽やかな動き。


 彼女、今日何合くらいお米食べたんだろう・・・・・・。


 「ところで、お菓子どするー?」


 夕食後、お風呂上がりの軽食にと、渡辺さんの提案でこうしてコンビニにやってきたのだけど・・・・・・。


 うぅん。いつもと時間も違うせいか、何を食べるか迷ってしまう。


 なんて悩んでいたら、


 「お、あたしこれ買うし。」


 と、彼女がそこにあった商品をカゴの中に入れた。


 この間のチーズ味のポテトチップス?


 「この味が忘れられなくて。」


 そう言って、頭を掻いて八重歯を見せる。


 そんなに気に入ったんだ、このポテチ。


 って、大丈夫なのかな。

 さっきの彼女の光景を見た後だと、こんなにボリュームのあるのを食べて大丈夫なのか心配になる。


 「先輩、こういうのどうッスか?」


 と、佐久間さんが3本の・・・・・・グレープ味のファンタかな?


 「お、ファンタいいじゃん。赤ワインみたいな色だし。」


 赤ワインかぁ。


 そういえば、父が家に帰った時はいつも飲んでいたっけ赤ワイン。


 確かに、この深い赤色はそれにとても似ている。


 「うん。私もそれ飲みたい。」


 そうして、3本のそれがカゴの中へと入れられる。


 続いて、渡辺さんがポテチをそこに入れる。


 「あ、この間のッスね。」


 「そそ。美味しかったからさー。」


 「わ、私もそれ食べたかったッス。」


 あとは私か・・・・・・。


 何を買おう。


 チーズ味のポテチ、グレープファンタと来ているから、味や食感が被ってしまったら勿体ないよね。


 お、これは・・・・・・。


 「お、かわいいパッケージだし!ピンクいーじゃん。」


 「贅沢・・・・・・ッスか。」


 ポッキー。更に贅沢仕立てと大きな文字で書かれている商品を手に取った。


 ミルクショコラ味のチョコが、発酵バタービスキュイという味付けの棒クッキーを覆っているらしい。


 ビスキュイというのは「ビスケット」の語源となった言葉だっけ。

 卵の白身と黄身を別々で泡立てて作るスポンジ生地の事を言うんだよね。


 それで確か、黄身と白身を一緒に泡立てるのをジェノワーズと言うんだっけ。


 ミルクショコラとバターかぁ。どんな味がするんだろう。


 「じゃあ二人共、これでいい?」

  

 「うん、おっけー。」


 「了解ッス。」


 そうして、3人でレジへと向かった。



 「お待たせしたッス、先輩。」


 キィ、と扉を開けて佐久間さんが入ってきた。


 フードのついた白いポンチョかぁ。


 彼女らしい可愛いパジャマかも。


 その手にはお盆が乗っており、一つの大きなお皿と、3つの・・・・・・あれはワイングラス?


 「お、ワイン飲むやつ!テンション上がるし。」


 シシ、と歯を見せて横の彼女が笑う。


 ストライプ柄で襟の付いた半袖に、同じ柄のショートパンツ。


 パっと見、野球女子と言われる人が来ている服のようにも見える。


 ショートパンツだから、こうしてみると渡辺さんの足の長さが目立つなぁ。


 あ、内ももにほくろがある。


 「上原っちのパジャマすんごいね。ウエディングドレスみたいだし。」


 と、私の袖を持ってヒラヒラとさせてくる。


 「えっ、そ、そう?」


 「ネグリジュってやつッスよね?綺麗です。」


 き、綺麗・・・・・・。


 嬉しい・・・・・・かも。


 えへへ。


 そして、コトンとお盆が目の前のテーブルに置かれる。


 カシュカシュ、プシッと渡辺さんがファンタのフタを開けて、それぞれのワイングラスに注いでいく。


 それと同時に、渡辺さんがポテチの袋を開けて、お皿の上にカラカラと中身を出していく。


 ポッキー、どこにいれようかな。


 先ほど買ったそれの口をビリッ、と開く。


 んっと・・・・・・お、小分けにされてる。


 えっと、2本が一袋で10個かぁ。


 10袋だと、このままじゃ一袋余っちゃうな。


 よし、全部開けようかな。


 ピリッ、と一つを取り出し、中身の2本を・・・・・・わ、太っ。


 チョコが普通のポッキーと比べ物にならないほどにたっぷりついている。


 そして、ショコラかな?その匂いがふわりとここまで届いてくる。


 「チョコすんごいねそれ。太いし。」


 「わ・・・・・・すごいッスね。」


 「う、うん。すごいね。」


 そして、お皿の上に並べて置いていく。 


 ・・・・・・よし、終わった。


 「なんか、すっごいワクワクするし。」


 と、渡辺さんがカーテンの掛かった窓、続いて掛け時計の方を見る。


 そこを見ると、午後の9時を指していた。

 

 ・・・・・・夜にお菓子かぁ。


 確かに、上手く言えないけれど楽しみ。


 「じゃあ、食べましょッスか。」


 「ちょい待って!」


 佐久間さんの言葉を遮ったかと思うと、次に彼女はファンタの入ったグラスを手に持ち、


 「乾杯しよ!」


 そのグラスを高く掲げた。


 「あ、そッスね。しましょう。」


 「うん、わかった。」


 そして、グラスを同じように掲げて、


 「「「乾杯」」」


 チン、とグラスを軽くぶつける。


 中身はファンタなのに、これからいけない事をしようとしてるんじゃないかと、ドキドキしてしまう。


 グラスを傾けて、深赤の液体を口に含む。


 「ん。」


 シュワシュワして・・・・・・お、ぶどうの香り。


 さてと・・・・・・どっちを食べようかな。


 うぅん。


 ・・・・・・よし、ポッキーをまず一本いこうかな。


 お皿から一本・・・・・・や、やっぱりすごく太いな、チョコ。


 「んむ。」


 わ、すごい。チョコに前歯が沈む。


 普通のポッキーなんかじゃできないよこんな事。


 そして、チョコの風味。


 すごく、上品な深みを感じる。


 ただ甘いだけじゃなくて、もう一つの隠された甘さが、舌に触れそうで触れない。そんな上品さを感じる。


 そして、ザクザクという気持ちいい食感。


 ポキポキ、と細さならではのあの音も気持ちいいけれど、これの触感はまた別の爽快感がある。


 じゃあ次は・・・・・・よし、ポテチいこう。


 「んむ。」


 ん、美味しい。


 前に食べたから味は知っているけれど、まだ口の中にチョコの味が残っているから、また違った味がする気がする。


 よし、次は・・・・・・口直しに一口。


 「んく。」 


 シュワシュワ・・・・・・。


 えへへ。


 「ね、さくさく。お願いがあるんだけどさ。」


 「あ、はい。なんでしょうッス?」


 「歯ブラシ忘れちゃってさー、ある?」


 「えっと・・・・・・どうでしたっけ・・・・・・。」


 「なら私、予備にもう一本持ってきてるよ。使う?」


 「ホント?助かるし!ありー。」


 そうして、みるみる内にお皿が綺麗になっていき、3本もあったファンタが空になった。


 「「「ごちそうさま。」」」


 ポッキーの空袋にポテチの袋を丸めて入れ、ファンタの空きペットボトルを纏める。


 「じゃあ私これ、捨ててくるッス。」


 「うん、ありがとう。」


 「あたし歯磨くの最後でいいし。上原っち行っちゃいなよ。」


 「わかった。」


 そうして、佐久間さんと一緒に一階へと降りて行った。


 

 「そーいえばさくさくって好きな人いるの?」


 布団からうつぶせの状態で、渡辺さんが彼女の方をみる。


 「え、えっと・・・・・・今はいない・・・・・・ッス。」


 「えー?今って事は前はいたの?」


 「え、えっと・・・・・・。」


 渡辺さん、意地悪そうな顔をしてる・・・・・・。


 あ、こっち見た。


 「じゃあじゃあ、上原っちはどーなの?」


 「え、わ、私?」


 う、欠伸をしながらだけどジっと見つめてきてる。


 「す、好きな人かぁ・・・・・・。」


 うぅーん・・・・・・そっ、そうだ。


 「この間テレビで見た「学校の人で!」


 「う・・・・・・。」


 学校の人かぁ。


 そもそも最近、男子とって喋ったっけ。


 あ、掃除の時に「ゴミ捨てありがとう。」て喋ったな。


 ・・・・・・それって喋った内に入るのかな。


 彼女の期待に沿えなくて申し訳ないけど、ここは・・・・・・。


 「ご、ごめん。今は・・・・・・」


 すぅ、すぅ。


 早っ。もう寝てる。


 渡辺さん、寝つき良いんだね・・・・・・。


 「私たちも寝ましょうか、先輩。」


 「う、うん。そうだね。」


 そうして少し重かった瞼に従い、そのまま目を閉じた。

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