果汁100%仕様 パイナップル at大食い
「うぅん・・・・・・。」
まさかほとんどパンが無いだなんて。
今日は気分を変えてお弁当でなくてパンにしようとおもったのだけど、なんでよりによって今日・・・・・・。
今日の購買、どうしたんだろう。いつもならあのパン、何個か残ってるはずなのになぁ。
おにぎりを買うくらいなら、家でお弁当作って貰えばよかった。
「ね、上原っちこっちきて!」
わ、わ。急になに?
渡辺さんにグイグイと引っ張られて彼女の席へとやってきた。
すると、そこには佐久間さんもいた。
目が合ったかと思うと彼女が軽く会釈する。
そして、机に詰まれたパンの山。
あ、食べたかったパンもある。
「ほら、この間のお礼にって、皆が買ってくれたんだし。」
この間って・・・・・・TOEICのかな。
「流石にこの量は食べ切れないし持って帰れないからさ、一緒に食べない?」
佐久間さんを見るとその手には白いジャムパンを持っており、ムグムグと口を動かしている。
気づいてないのかな。口の端にジャムが付いてる。
「お、それおにぎり?パンばっかで飽きたんだよね。貰っていい?」
「え?あ、うん。」
そうして彼女にそれを手渡し、机に散らばっているパンの中から、ゴマがたっぷり付いているあんぱんを引き寄せる。
「おかか?初めて食べるし。」
彼女が海苔のところで苦戦しつつもおにぎりの包装を剥がし、口に入れる。
こちらもパンの袋を破り、袋越しにパンを掴んで一口齧る。
ん、求めてた味。
「おぉ・・・・・・おかかいいじゃん。美味し。」
パリパリと海苔のいい音を出しながら食べ進めて言っている。
「あ、あの・・・・・・もう一個いいですか?」
「いいよいいよ。何食べる?」
彼女の手がおずおずと伸びてきて、そこにあったクリームパンを手に持った。
・・・・・・なんとなく、今のやり取りに違和感を感じたので尋ねてみる。
「そういえば、佐久間さんって何個パンを食べたの?」
「あ、えっと・・・・・・」
袋を開こうとした手が止まり、右手がパーを繰り出してきた。
・・・・・・いや、まさか5つって意味?
その手の下から申し訳なさそうに、手の平に添えるように左手のチョキが添えられた。
まさか、もう7個も食べたって事?
か、体のどこに入っていくんだろ・・・・・・。
ピロピロピロリン
「今日は私の番・・・・・・ッスね。」
「う、うん。ありがとう。」
「・・・・・・ゴチになるねー。」
渡辺さんが溜息を吐いた・・・・・・。
かく言う私もお腹がまだ苦しいけれど。
歩くたびに昼食べたパンが後ろから引っ張ってくるみたい。
う、お腹がグルグル鳴ってる。
「あ、あの。大丈夫ッスか、先輩。」
佐久間さんがくるりとこちらを振り向いてくる。
その手にはカゴがぶら下がっている。
「ぜっ、全然大丈夫だしっ!」
「・・・・・・うん。平気だよ。」
佐久間さん、普段通りだよ。
私たちの食べた数を足した数よりも沢山食べている筈なのに。
いつもならここで渡辺さんから何か話題が来るけれど・・・・・・わ、すごく遠くを見つめてるような目をしてる。ちょっと怖い。
「あ、あの。今日はこれどうでしょうッス?」
そう言いながら、佐久間さんは目の前にある商品棚から、一つを手に取った。
そこには黄色を基調とした紙パックにパイナップル、100という数字、%という数字が印刷されていた。
「お・・・・・・ジュースかぁ。実は飲みたかったし。」
パイナップルかぁ。
確か、 1000年以上前からブラジル南部、アルゼンチン北部、パラグアイなんかで作られていたけれど、そこからコロンブスが西インド諸島で見つけて、それから大航海時代になるとそこから徐々にいろんな国に広まっていったんだっけ。
日本では1866年にオランダの船が座礁して沖縄にたどり着いて、そこに積まれていた苗が、初めて日本に足をつけたパイナップルだとか。
本格的に作られたのは1935年から。途中で第二次大戦が起きて中断されちゃったらしいけど。
ちなみに名前の由来は食べた時に「甘酸っぱいりんごみたいな味だったから」らしい。
今のお腹にその甘酸っぱさは凄く沁みそう。
「うん、私もそれがいい。」
そうして、彼女が3つのそれをカゴに入れると、そのままレジへと向かっていった。
「「「いただきます」」」
さっそくストローを袋から出し、紙パックを観察する。
んっと、開け口は・・・・・・あれ、無い。
丸い銀色の、ストローがさせる場所がない。
ど、どうすればいいんだろう・・・・・・。
1リットルの牛乳パックみたいにするのかな・・・・・・でも、あの開け口にストローを入れるってなんというか、少し下品なんじゃないか、なんて思ってしまった。
ちらりと二人の様子を見てみると、二人とも牛乳パックの様に口を開けてそこにストローを刺してゴクゴクと飲んでいる。
それが正解なのかぁ。
よし、そういうことなら。
うっすらとへこんでいるを両手で掴み、糊付けされた部分を切り開く。
そして、真ん中を鳥のくちばしの様に尖らせてゆっくりと糊を剥がしていく。
・・・・・・よし、うまくいったかな。
や、やっぱりこれ、下品なんじゃないかな。
大丈夫だよね?
よ、よし。
ストローを入れて、くるくると回遊させてみる。
うぅん・・・・・・横から見ると見た事のない組み合わせだから違和感がある。
よし、いこうかな。
「んむ。」
ストローを唇で挟むと、パイナップルの香りが鼻先を掠めた。
瞼の裏に、細かい繊維まで見えるパインの姿が浮かんだ。
一思いに、ストローを吸う。
お・・・・・・サラサラとした液体なのに、少しとろみがある。
そして、想像通りの甘酸っぱい味と、それが喉を通り過ぎた後に少しピリつく舌。
そうそう、パインって食べた後ちょっと舌が痛くなる時あるよね。
「んー。」
一気に飲んだらその分痛くなるというのに、ついゴクゴクといってしまった。
うっ、ピリピリ来た。
でもその分、さっきよりも強い甘みと酸っぱさと香りが、喉を通って鼻から抜けて行く。
すぐ居なくなっちゃうのが寂しくて、また一口の量を増やしてしまう。
う、ピリピリ・・・・・・。
真ん中らへんと、端っこが特にピリピリする。
でも、美味しい。
「そういえばさー、来週の4連休って二人とも予定ある?」
「予定ッスか?私は特にないッス。」
「上原っちはどお?」
「ん、私も特に用事は無いよ。」
「じゃあさじゃあさ、誰かの家に泊まらない?3人で!」
「お、お泊り・・・・・・は、初めてですけど大丈夫ッスかね?」
「面白いよー。あたし、中学と高校とで1回づつ泊りに行った事あってさー。」
「ど、どんな感じなんスか?」
「一つの部屋で川の字と寝落ち喋り。面白かったし!ね、どう?」
「川の字ッスかぁ・・・・・・。」
「川の字・・・・・・。」
やがて、紙パックからズズズズ、と空気交じりの音が鳴り始めたので、パックを傾けて最後の一滴を味わった。
「「「ごちそうさま。」」」
その時、いつものアナウンスが耳に届いた。
「それじゃあ帰りましょう、先輩方。」
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