ポテトチップス チーズバーガー味 atTOEIC

 「お、おはよー上原っち。」


 わ、すごい人。渡辺さんの机に何人も集まってる。


 何をしているんだろう。


 女子が多いけれど、男子も並ぶようにして傍にいる。


 「おはよう、渡辺さん。」


 自分の席に鞄を置き、そこへ向かってみた。


 すると、その机の上には英語がビッシリと並んだ本が開かれている。


 ん・・・・・・これって問題集?でもこれ、まだ習ってない文法の様な。


 う、この単語なんて読むんだろう。


 「・・・・・・て感じだし!どう?分かった感じ?」


 彼女がそう言うと、目の前の子が首を縦に振り感謝の言葉を述べた後に、その問題集を閉じて持ち教室から出て行った。


 問題集の表紙にはTOEICと書いてあった。


 そういえば、夏前に学校でTOEICのお知らせがあったっけ。

 確か、先着順で受験費用を負担してくれる、というのだったような。


 でも、渡辺さんが勉強を教えているって新鮮というか、違和感というか。

 

 キンコンカンコーン


 「お。んじゃ後の人はお昼休みにって事で!」


 そうして彼女の周りにいた人達はぞろぞろと教室から出て行った。


 「いやぁ、あたしもそんな英語なんてわかんないんだけどなー。」


 そう言いながら鞄から国語の教科書を取り出し、次に筆箱と机に並べていってる。


 「ほら、なんていうの?会話ってさ、文法とかじゃなくてpassionパッションだし?」


 なんて彼女は言ってるけれど、英語の文法で私が躓いたときにすごく分かりやすく教えてくれたから、今のその八重歯を見せている笑顔で照れ隠しをしてるんだろうな。


 「そういえば、渡辺さんは受けた事あるの?」


 「ん、TOEIC?あるよー、前の高校に居た時に。」


 ということはまだ1年の時に受けたのかな。


 「何点だったの?」


 「えーっと・・・・・・大体940点くらいだっけ?一の位忘れちゃったし。」


 えっ!


 「そ、それってすごいんじゃない?」


 「えっ、そ、そう?」


 確か800点もあればすごくて、一流企業なんかはそのあたりの人が欲しがってたりするんだっけ。


 それが940点って・・・・・・。


 「すごいよ!国際弁護士さんとかにもなれると思う。」


 「へへ、そう?」


 やっぱり渡辺さんって英語凄いんだな。


 ・・・・・・あ。


 先生、もう来てたんだ。 


 

 ピロピロピロリン


 「今日はあたしの番だねー。」


 と、彼女がカゴを一つ掴み、持ち手を腕に通す。 

 

 「ん、ありがとう。」


 「お世話になるッス。」


 スタスタ、と二つの足音よりも音階の高い足音が先を進んでいく。


 「にしても今日は2倍疲れた気がするし・・・・・・。」


 「まだ夏休みからそんな経ってないッスもんね・・・・・・。」


 「そっか。それもあるかー。」


 「もしかして、何か大変な事が起きたりな感じッス?」


 「ん、違うよー。皆に勉強教えててさー。」


 「えっ、先輩がッスか?」


 あ・・・・・・うっかり首を縦に振ってしまった。

 同意見だったものだからつい。


 「ちょっ、失礼だしっ!英語だけはあたしすごいんだし!」


 ね?と渡辺さんが後ろを振り向いてきた。


 「あ、う、うん。英語はすごいと思う。」


 「そ!英語はまーじですごいんだし!」


 ふんす、と鼻息を上げているよ・・・・・・。


 「あ、その。スミマセンッス。」


 「フフン。英語で分かんないとこあったらジャンジャン訊いてもいいし?頼っていいし?」


 と、その時。彼女の歩みが止まった。


 そして「おっ。」と口から声が漏れたかと思うと、目の前にあった商品棚から一つを手に取った。


 それから空いている手でポケット中をまさぐって財布を取り出し、その小銭入れらしきところを開いて中身を数えている。


 あ、小さく頷いた。


 「どうよこれ?今日これにしない?」


 ポテトチップスのチーズバーガー味というものだった。


 「チーズバーガーッスかぁ。美味しそうッスね。」


 そういえば、チーズバーガーというのは1920~1930年の間に流行り始めたらしい。アメリカが明確な起源地らしいけど、どこの誰、とまでははっきりしていない。

 ちなみに、パテ・・・・・・つまり肉とチーズを使った枚数によって名前が変わって、2枚ずつだとダブル、3枚だとトリプル、4枚だとクアドラプルと呼ばれているだとか。


 ただでさえカロリーの高いハンバーガーに、さらにカロリーの高いチーズを挟む。アメリカらしいといえばそうなのかもしれない。


 「うん。私もそれがいいな。」


 そうして、そのまま彼女はレジへと向かっていった。


 

 「うし、んじゃ開けるし。」


 と、彼女は袋を後ろに向け、そこを両手で掴み両側へ開いた。


 お、チーズの匂い。チーズ特有のコクと、ねっとりとした甘い香りがする。


 「うっし。んじゃあ・・・・・・。」


 その言葉に小さく頷き、


 「「「いただきます。」」」


 二人の手が袋から引いたのを見てから一枚を摘まみ上げ、口元に持ってくる。


 ギザギザと波打っていて、その形からゴリゴリとした噛み心地が簡単に想像できてしまう。


 ん、何個か黒いのがぽつぽつとチップスに乗っている。

 コショウかな? 

 

 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 お、チーズがぐぐいっと来た。もはやチーズをそのまま切り取ったんじゃないかって位に濃い匂いが噛んだ瞬間に口の中に立ち込めて、鼻から逃げていった。


 次のは・・・・・・お、あれおっきい。


 「んむ。」


 ん、チーズ。それと、ほんのりとコショウと塩の辛さがピリっと舌に触れる。


 お、よく噛んでみるとまだもう一つの、チーズとはまた違ったクリーミーな味が隠れてるかも。


 美味しい。


 あ、あ、唾液で溶けちゃう。


 まだおっきいのあるかな・・・・・・。


 「そういえば、さくさくはTOEIC受けないの?」


 「私ッスか?興味はあるんですけど、なんとなく怖くて・・・・・・。」


 「えー、そうなの?来年受けてみたらどう?あたしもサポートするし!」


 「あ、でも来年って先輩方受験が・・・・・・。」


 「あ、そっか。・・・・・・ま、上手くするし!」


 そうして最後の一枚をと手を伸ばすと、寸前で渡辺さんの手が伸びて来たので、そのままチップスを摘まんでた指を手元に持ってきて舐めた。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「それじゃ変えろっか、二人とも!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る