4種のフルーツバー at宿題片付け

 「あーもう!セミうるさ過ぎだし!」


 カリカリとシャーペンを走らせる音を割き、渡辺さんが頭を激しく掻く。


 「でも、今日中に数学の宿題終わらせちゃいたいんでしょ?」


 チラリと彼女の目の前で開かれたノートを見ると・・・・・・うわ、一ページも埋まってない。


 「でもさー、暑いしうるさいし汗はかくでさ、集中できないし!」


 と、頬杖をついたかと思えば、長めの溜息をついている。


 「あの、先輩。ここってどうやって解くのでしょうか?」


 もう一方の方に座っていた佐久間さんが、ノートを回転させて見せてきた。


 「ん、ここは・・・・・・この解き方とこれを組み合わせると解けるよ。」


 「ありがとうございますッス。」


 彼女がノートを元の方向に戻し、再びカリカリとシャーペンを走らせ始める。


 それを見て渡辺さんがこめかみを掻き、シャーペンを片手に持ってノートの上に筆先を当てているけれど、まるで彫刻になったかのようにそこから動かない。


 今日はラインルームで渡辺さんが「夏休みの宿題終わった?」という一言からこうして集まった。

 特に数学の宿題の量が多かったから丁度いい、と思ってこうして3人で宿題をこなしている。


 ちなみに、も彼女の宿題の進捗はほぼ0%だった。もう夏休み半分終わったのに。

 彼女らしいといえばらしいけども。

 

 「にしても、さくさくすごいし。暑くない?」


 指を器用に使ってシャーペンを回してるよ・・・・・・。


 「すんごい暑いッス。でも、一人でするよりもはかどる気がして。」


 佐久間さんがチラリとこちらを見たような気がした。


 「あー・・・・・・、確かに。」


 渡辺さんもこっちを見て・・・・・・なんだか縋るような目をしている。


 もうお昼になっちゃうし、全部するというのは難しいかもしれない。


 それじゃあ・・・・・・。


 「渡辺さん、先に後ろの方の問題をしちゃおっか。」


 「え、後ろ?なんで?」


 「前の方は基礎問題が多いから、先に難し目の方を解いちゃった方が楽かなって思って。」


 「う、む、難しいとこ?」


 「うん。そこを先に終えたら気分も楽になると思うし。」


 そうして宿題の問題集をパラパラとめくって、その問題のページを開いた。



 「ぐはー、解けたし。あと暑くて溶けそうだしー。」


 渡辺さんが両腕をだらっと前に伸ばし、顔をテーブルにくっつけた。


 テーブルが冷たかったのか、頬擦りをしている。


 「どう?公式分かった?」


 「あ、うん。なんとなくだけど。」


 「ん、それなら前半の問題分かるんじゃない?ほら。」


 と、問題集のページを前に何ページか捲り、そこを彼女に見せた。


 「お・・・・・・おおおっ!なんかわかるかもだし!」


 彼女が目の色を変えてそのページの両端を掴み、


 「すっご、分かりそうだし!」


 ほぅ、と息をつき額の汗を拭っている。


 「そ、そういえばもうお昼ッスね。」


 パタン、と佐久間さんが宿題の問題集を閉じ、鞄からスマホを取り出した。


 テーブルに置かれたその画面を見る。


 「ん、そうだね。それじゃあ・・・・・・。」


 「お、行く感じ?」


 「了解ッス。」


 そうして部屋を出て、一階へと降りて行った。


 すると、姉がスマホで誰かと電話しており、キャッキャッと楽しそうな顔を声で時折手を頬に当てたりしている。


 流暢な英語で話している。


 「わ、プロって感じだし・・・・・・。」


 私たちの存在に気が付いたらしく、こちらへウインクをして小振りで手を振ってきた。


 「あの話してる相手ってモデルさんとかッスかね?」


 「みたいだし。聞こえてきたけど、ステージとかドレスとか何月の何日って聞こえてきたし。」


 「す、スゴいッスね・・・・・・。」


 玄関の扉に手を掛けた頃には、姉は電話をしたままもう一つのスマホを取り出して何やら操作をしていた。


 

 ピロピロピロリン。


 傍にあったカゴを一つとり、持ち手を腕に通した。


 「今日はどうする?」


 と、渡辺さんがシャツのボタンを一つ開けてパタパタとさせている。


 「やっぱり、アイスッスかね?」


 佐久間さんが額の汗を拭い、目をシパシパさせている。


 ふと、雑誌コーナー越しに外を見てみると、もやもやと透明な蜃気楼みたいなものがゆらゆらしていた。


 エアコンの効いた店内だというのに、それを見ると汗がじわっと湧き出てきた。


 「ん、アイスかな。」


 自分の体と他二人との方針も決まった事で、とりあえず店内を見て回る。


 お、冷たい飲み物・・・・・・もいいけど、アイスの口になっちゃたしなぁ。

 

 冷たい感触が喉を一気に落ちていく感覚は捨てがたいけど、やっぱり気分はアイスだ。


 ん、っと。


 お・・・・・・。


 「二人とも、これなんてどう?」


 と、そこにあった戸を引いて、一つを取り出した。

 巨峰と、白桃と、みかん、マスコット味のアイスが入ったアイス。


 「お、美味しそうッスね、それ。」


 「しかも8本入りじゃん!丁度マコ姉と分けれるし。」


 あ、ホントだ。これ8本入りだったんだ。


 食べるかな、姉さん。

 

 でもとりあえず、


 「じゃあ、この値段だから・・・・・・このくらいかな?」


 「りょー。」


 「了解ッス。」


 そうしてお金を二人から受け取って、そのままレジへと向かった。


 

 「ただいまー。」


 「あら、お帰り。」


 戻るなり、玄関で靴を磨いていた姉の姿があった。


 「ただー、マコ姉。」


 「ただいまッス、マコ姉。」


 すると、マコ姉が体をくねらせた。


 「まあまあ、マコ姉だなんてっ!真誉なんて暫く呼んでくれなかったのに。」


 だからそのふくれっ面止めてって・・・・・・。


 「あ、マコ姉、アイス食べる?」


 アイスを取り出し、その頬が膨らんだ人に差し出した。


 「あら。マスカットがあるのね。じゃあそれと・・・・・・あとは余ったのでいいわよ。」


 それから部屋へと上がり、3人は各自椅子に、姉は少し離れた所に置いてあるソファに座った。


 そしてピッ、と開け口を開く。


 「じゃあ私は・・・・・・みかんと巨峰をいいかな?」


 「りょー。じゃああたしは桃と・・・・・・さくさく、先いーよ。」


 「あ、じゃあマスカットとみかんを。」


 「分かったし。じゃあぶどう貰おっかな。」


 各自2本づつ手に取り、残りのマスカットと白桃を、


 「はい。」


 ソファへと歩いていき、姉に手渡した。


 「ありがとね。」


 そして席へと戻り、


 「「「「いただきます。」」」」


 んと・・・・・・みかんと巨峰、どっちからにしようかな。


 時間を掛ければ溶ける。素早く決定しないと。


 ・・・・・・よし、巨峰からにしよう。


 ピッ、とギザギザの縁から破り、棒を手に持ちゆっくりと引き抜く。


 お、あまりカクカクしていなくて色も相まってなんだか優しい見た目をしている。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 んおっ。表面がパリっとしていたからさくっと歯で折れるかと思ったら、すごくねっとりとしている。


 わ、すっごい濃厚な味。


 もう溶けて喉に流れていったのに、まだ口の中で巨峰が生きている。


 次はもっと大胆に・・・・・・よし、半分くらいいこうかな。


 「んむ。」


 ん。このねっとりとした舌触りもいいけれど、このパリッとする表面も癖になるなぁ。


 このパリッを味わえるのが一口毎に一回だけというのが名残惜しい。


 そして、ずっと残る巨峰。


 でもまだその味が残ってるというのに、次のパリッを味わいたくて、あと溶けたらそれがダメになっちゃいそうで怖くてついまたハイペースで一口を行ってしまう。


 おいしい。


 「そういえばお祭りって来週だっけ?」


 「えっと・・・・・・確かそうだったはずッス。」


 「お、やっぱそうなんだ。ね、二人ともいける?」


 「ん、大丈夫だよ。」


 「私も大丈夫ッス。」


 「マコ姉も一緒にどうだし?」


 「あら、誘ってくれるの?嬉しいわっ。」


 そうして、みかんの方も最後の一口となってしまう。でも最後までパリッと感を味わえて食べることができた。

 最後のパリパリとねっとり濃厚を味わい、喉へと送り込んだ。


 「「「「ごちそうさま。」」」」


 「じゃああたし、用事ができたからこれで失礼するわねっ。」


 と、姉が早歩きで出ていった。


 「じゃあ夕方までやっちゃおうか、宿題。」


 「了解ッス。」


 「う・・・・・・うん。頑張るし。」


 そうして、佐久間さんは早速カリカリとノートにシャーペンを走らせ、渡辺さんは彫刻の様に動きを止めつつ私の方をチラチラと見ては、宿題を解いていった。

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