期末テスト
とろーりクリームonプリン at期末・・・・・・
「あぢー、つらー・・・・・・。」
昼休み、渡辺さんが購買で買ってきたパンを齧りながら額の汗を拭った。
「もう夏だねー。シャツがベットベトだし。」
そう言い、肩を摘まんで制服をパタパタとさせると、そこに置いてあったペットボトルのお茶のフタをカシュカシュと回して外し、その口を口に付けた。
「んく、んくっ。」
ぷはっ、と元の位置にそれが置かれると、元々8分目程まであったそれは半分ほどにまで減っていた。
「というかさ、こんなあっつい時期に期末テストなんてあり得ないし!」
と、半ば焼け気味にパンへと齧りつき、
「もうあたし達にいい点を取らせる気ないでしょ!暑い日にするなんてさ。」
むぐむぐ、と口を動かしながらブツブツと言っている。
ゴクン、と喉が動いたかと思うと、
「つーかさ、なんであんなにテスト範囲多いの・・・・・・もうイヤだし。」
呟くようにそう言い、大きなため息を吐いた。
「ま、まぁ。テストってそういうものだからね。」
正直、私も今回出された英語の範囲には幾らかショックを受けたりした。
何度も躓いた文法の所が重点的に今回のテストに出されると告げられて、夏だというのにひんやりとした汗を流してしまった。
でも、渡辺さんはあそこを難なく解いちゃうんだろうなぁ。
羨ましい。
箸でお弁当の中の出し巻き卵を一口サイズに切り分けて口に入れ、彼女をチラリとみる。
すると、彼女は私のお弁当を見つめていた。
「そういえば上原っちのお弁当ってさー、いつもオカズが豪華だし。」
「そ、そうかな?」
「よくテレビで見る、芸能人の差し入れ弁当みたいだし。誰作ってんの?それ。」
「えっと、家のシェフさんかな。」
「えっ!」
すると彼女が身を乗り出してきた。
顔が近づき、彼女の息遣いが耳に入ってくる。
「じゃ、じゃあつまり上原っちって、お金持ち?」
「あ・・・・・・うん。そうなる・・・・・・のかな?」
やっぱり、家にシェフの人がいるのは珍しいのかな。
「マジ!?うわ、家メッチャ気になるし。今度行ってもいい?」
わ、渡辺さん、目がキラキラしてる。
ピロピロピロリン
「今日は私の番・・・・・・ッスね。」
佐久間さんがそこにあったカゴを一つ手に取り、持ち手を腕に通した。
「ん、ゴチになるねー。」
「ありがとう、佐久間さん。」
ふわふわと髪を揺らしながら、彼女がお菓子の棚や飲み物の棚の前で足を止めたかと思えば、再びコツコツと歩いていく。
「そういえば、さくさく。テスト範囲どうだった?」
渡辺さんのその声に、佐久間さんは小さなうめき声を上げた。
「そ、その・・・・・・すごい範囲です。」
彼女がこちらを振り向いた。
その顔は苦笑いを浮かべており、口の端がヒクヒクと痙攣している。
「そっかー・・・・・・だよね。」
「期末テストだからね。」
二人の肩が目に見えてがっくりと下がった。
でも、
「ま、まあテスト終わったら夏休みだしさ。」
「「テストいらない(ッス)・・・・・・」」
はぁっ、と二人の口から大きな溜息が出た。
さっきよりも心なしか元気のなくなった足音で、佐久間さんが歩いていく。
そして、スイーツの並ぶひんやりとした商品棚の目で止まり、その口から「おっ」と声を漏らしたかと思うと、そこから一つを手に取った。
「これ、どうでしょうッス?」
「お、プリン?なんかかわいいし。」
プリンかぁ。
そういえば、プリンの起源はイギリスだとか。「プディング」という言葉が元になっているんだっけ。
船乗りの人が考えた食べ物で、船の上では手元に残った肉の切れ端や野菜の切れ端なんかを有効活用するために、茶碗蒸しの様に一緒に蒸してそれを食べていたのだとか。
それが陸でも作られるようになって、フルーツやナッツを入れた物が作られて行って、今のプリンの様に何も入っていないものは18世紀から19世紀頃から作られ始めただとか。
ちなみに、日本には明治時代ごろに広まったらしい。
「上原先輩もこれでいいでしょうか?」
「うん、私もそれ食べたいな。」
すると佐久間さんは小さく頷き、もう二つを棚から取りカゴに入れ、レジへと向かっていった。
「それにしても、レジ袋お金かかるようになったんだねー。」
いつもの駅の椅子に座り、渡辺さんが頭を掻いた。
「でも、3円ですし私は払っちゃいそうです・・・・・・ッス。」
佐久間さんがレジ袋からプリンとプラスチックのスプーンを一つずつ取り出し、私に手渡してきた。
ありがと、とそれを受け取り、膝に置いた。
ひんやりとして少し気持ちいい。
「いやー、あたしは次からエコバック持ってくるし!」
と、渡辺さんが握りこぶしを作った。
「やっぱり、節約しなきゃなんですかね・・・・・・ッス。」
佐久間さんが袋から同じようにプリンとスプーンを取り出し、渡辺さんに手渡す。
「ん、ありー。」
そして、袋から3つ目のそれらを取り出し、その袋を丁寧に畳み鞄の中へと仕舞った。
「「「いただきます。」」」
スプーンの袋をピッと破って中身を出し、続いてプリンのフタをペリッと開いた。
一面に広がる白い景色。
雪が積もって、でもまだ誰も踏んでいない真っ白な地面みたい。
いや、プリンの上だから、山に掛かっている雲かな。
ん、甘い匂い・・・・・・。
よし、いこうかな。
スプーンを手に持ち、その白に突き立てる。
そして一口ほどの黄色と白のぷるぷるを掬い、口に運んだ。
「んむ。」
おおっ、溶ける。
白いクリームは勿論、プリンまでもが舌の体温でトロトロと溶けてゆく。
それが舌全体を余すことなく覆い、甘さを纏わせていく。
ふふ、甘いなぁ。
お、底の方にカラメルが・・・・・・。
砂糖を焦がしたものだっけ、カラメルって。
そこの黒めの所を掬い、口に入れる。
「んむ。」
ん・・・・・・少し苦い。焦がしたような味がする。
あ、でも、香りがすごい。
鼻から濃いその香りが抜けていく。
そうだ、上のクリームをスプーンでクシュっと崩して・・・・・・下のカラメルとこうして混ぜて・・・・・・。
よし、これなら。
「んむ。」
ん、甘い。
そして香りにクリームの甘さが乗って、また違った香りになった気がする。
美味しい。
「なんか、プリンって響きがかわいいし。」
「そうッスね。そういえば、サンリオのキャラにいましたよね。」
「あー、キティちゃんのね。そんなキャラいるの?」
「確か居たような・・・・・・ぱみゅぱみゅプリンでしたっけ。」
「へぇ・・・・・・かわいい名前だし。」
最後の一口、プリンの破片と残ったクリームをかき集めてスプーンに乗せ、口に運んだ。
それがトロトロに溶けて余すところなく味わった後、喉を鳴らして飲み込んだ。
「「「ごちそうさま。」」」
その時、いつものアナウンスが鳴った。
「それじゃあ帰りましょう、先輩方。」
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