STRONG 鬼コンソメ at察し
スマホの電源を付け、LINEのアプリを起動させる。
そこの『よりみちごはん』のグループの所を開くと、佐久間さんの「日直と掃除で遅れます」という文章とアニメキャラが両手を合わせて申し訳なさそうに目を瞑っているスタンプが張られていた。
そこに渡辺さんが返信として、カピパラがビシっと敬礼しているスタンプを貼っている。
そういえば、スタンプってどうやって買うんだっけ。
というか、スタンプってどう使うんだっけ・・・・・・。
「ねぇ、渡辺さん。」
と、横にいる彼女に話しかける。
その両耳にはイヤホンが嵌っており、手にはスマホを持っておりその画面をうっとりとした目で見つめている。
「あ、うん。どしたの?」
片耳のイヤホンを取り外し、こちらを見つめて来る。
「あの、スタンプってどこで買うの?」
「ん、それはね・・・・・・。」
と、私のスマホを覗き込んできたかと思うと、そのまま画面の上に指を置き、家みたいなマークの所をタップしたかと思うと、それから現れた『スタンプ』という項目をタップした。
「ほら、ここで買うんだし。」
彼女が画面を上から下にスクロールさせた。
「おぉ・・・・・・。」
ここで買うのかぁ。
あっ、このスタンプ・・・・・・佐久間さんが使っているスタンプのキャラだ。
色々な種類があるみたい。
へぇ・・・・・・動くスタンプ、というのもあるのかぁ。
面白いかも。
でも、どうやって使うんだろう。
「ねぇ、渡辺さん・・・・・・。」
再び彼女へ尋ねようとすると、再びイヤホンを嵌めてうっとりとした目で自分のスマホの画面を見つめている。
また今度聞くかな。
そうしてそのスタンプを人気順だったり新着順だったりと眺めていると、聞きなれた声が耳に届いた。
「お待たせしました・・・・・・ッス。」
佐久間さんが髪を揺らしながら小走りでこちらへ向かってくる。
でも、ピタリと彼女の動きが止まった。
「お、待ってたし。」
渡辺さんがイヤホンを鞄に仕舞い、スマホを制服のポケットに仕舞った。
その仕草を佐久間さんが凝視している、ような気がした。
「あ、あの渡辺先輩。」
「ん、何?」
「も、もしかして、この間の動画を見てたんですか?」
この間・・・・・・というのは、パソコン室で渡辺さんが見ていた動画の事なのかな。
「お、すごっ。さくさくよく分かったね。」
「そ、その。その人の事好きなんですか?」
「好きだよー。チャンネル登録もしてるし!」
彼女がいつもの調子で八重歯を見せると、
「そ、そそっ、そうで・・・・・・いや、ッスか。」
佐久間さんが顔を赤くし、上擦って聞き取れるか聞き取れないかくらいの声量でそう言った。
やっぱり、あの動画の人ってさくま・・・・・・。
「さ、もう行きましょ!先輩方!」
私の心を読んだのか、そうして急かす彼女に押される形で靴を履き替え玄関を出た。
ピロピロピロリン。
「今日はあたしの番だねー。」
と、渡辺さんが傍にあったカゴを一つ手に取り、持ち手を腕へと掛けた。
「ん、ありがとう。」
「お世話になります・・・・・・ッス。」
カツカツと高身長な彼女特有の足音が、うっすらと何かの音楽が流れる店内に小さく木霊する。
私や佐久間さんとの足音とは全然違う。
まるで、ハイヒールを履いている人の足音みたい。
「今日は何にしよっかな・・・・・・。」
と、顎に人差し指を当てつつ、その目を細めては目の前の陳列棚を見つめている。
「んー・・・・・・。」
お菓子コーナーに差し掛かると彼女はその歩みを緩め、小さな唸り声をあげつつ上から下へと目を動かしている。
そして、ポテトチップスがズラリと並んだ棚に差し掛かると、
「おっ、新発売なんだ。」
彼女がそこにあった物を手に取った。
それはコンソメ味のポテトチップスだった。
そういえば、コンソメ味って日本だけの味なんだっけ。
本場はアメリカだけれど、そこの味付けは塩、ガーリック、バーベキュー、サワークリーム・・・・・・みたいな比較的味のしっかりしたのしかないのだとか。
ちなみに、あのジャガイモのキャラクターが印象的な会社のポテトチップスは、うすしお、のりしおの二つに続いて3つ目にコンソメを発売したのだとか。
コンソメかぁ。
「いいじゃんこれ。二人はどっかな?」
「うん、私もそれがいい。」
「私も同じくッス。」
そして渡辺さんが八重歯を見せ頷き、それをカゴに入れてレジへと向かった。
「んじゃ、開けるね。」
渡辺さんが鞄から先ほど買ったポテトチップスを取り出し、その膝に置いた。
「んん・・・・・・っ!」
それから後ろの糊付けされた部分をバリッと開き、パーティ開けっていうのだっけ?その状態で口を開いた。
「んじゃ食べよっかー。」
その言葉に頷き、
「「「いただきます。」」」
早速その中に手を入れ、一枚取り出した。
おお、キザキザしている。
表面にはまばらに黒い粒が付いており、くるりと回すと裏にも同じくらいそれがついている。
なんだろう、黒コショウかな?
ポテチ本来のクリーム色が、その黒を引き立てて私の目にアピールしてくる。
パリパリ
二人の座る方向からいい音がする。
私も、早く食べちゃわないと無くなっちゃうな。
よし、いっちゃおう。
二人の座る方向からのその音に急かされ、手に持ったそれを口に入れた。
「んむ。」
ん、ギザギザしているからか、普通のポテトチップスよりも厚くて噛み応えがあるかも。
そしてしょっぱ辛さが私の舌を刺激する。
結構しっかりとした、ピリリという辛味。
鼻の横の汗腺がじわりと滲んだような気がする。
そして、鼻からその香辛料の香りと、
ふと気が付くと、私は二口目を手に持っていた。
私、ほぼ無意識に手に持っていた・・・・・・。
そして、二人の手の動きがさっきより幾らか早くなっているような、そんな気がした。
「んむ。」
ん、さっきよりもほんの少しだけ味が濃い、かもしれない。
当たりの一枚を引いたかも。
これはじっくりゆっくり噛んで行こうかな。
ピリピリと痺れそうな辛さと、じんわりと暖かくなっていく口の中。
やがてチップスの硬さと鋭さが徐々に無くなっていき、ポテトサラダ状となったそれを喉を鳴らして飲み込む。
そして、鼻から抜ける辛さとイモ。
美味しい。
「そういえば先輩、動画ってえっと、わた・・・・・・あの人のチャンネルってよく見るんですか?」
「んー、色々見るんだけどさ、ASMR動画はあの人だけだし。」
「ど、どんなところが好きになったんッスか?」
「そうだねー。なんというか、ズバッとハートを射抜かれたというかなんというか。とにかく好きになったし!」
「そっ、そうなんスね・・・・・・。」
そうして何口目かのチップスを手に入れようと袋に手を入れた時、欠片すらも残さず無くなった事に気が付く。
こうなるとあと1枚だけ食べたくなってしまう。
指に付いた残りの粉を、チップスの硬さと感触を思い出しながら舌で舐めた。
その時、いつものアナウンスが鳴った。
「んじゃ帰ろっか、二人とも!」
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