こだわりのカスタードエクレア at「ぱそこん」なるもの2

 「よし・・・・・・と。」


 今日の菜園部のホームページ、そこの投稿する文章を見直す。


 今日の日付よし、花の名前の間違えはなし、全体的にかわいくもできている・・・・・・かな?


 「ん・・・・・・。」


 やっぱりまだ、少し寂しいかも。

 

 「佐久間さん、ちょっといい?」


 少し離れた席でスマホを弄っている彼女が顔を上げ、スマホを近くにあったテーブルに置いて小走りでこちらへ走って来てくれた。

 

 「この、ここをもっとかわいくしたいんだけど、どうすればいいんだっけ?」


 「えっとですね・・・・・・。」


 と、彼女が私の手越しにカチカチなる機械マウスに手を添え、もう片手であいうえおとアルファベットの書かれた板キーボードに文字をカタカタと打ち込んでいる。

 

 パソコン部に入っている彼女と比べるのもアレだけど、私がそれを使って文字を打ち込む速さと比べ物にならない。


 「っと、こんな感じはどうですか?」


 画面を見ると、そこにはさっきよりも賑やかでかわいい文章が一面に広がっていた。


 「ありがとう、助かったよ。」


 「い、いえ。また何かあったら呼んでくださいッス。」


 首を掻きながらそう言い、彼女がさっきまで座っていた席へと戻っていき、再びスマホを弄り始めた。


 カタ、カタ、と誤字を直し、最後にもう一度全体を見直す。


 うん、これでいいかな。


 そして、カチカチ鳴る機械を使って画面にある投稿のボタンに矢印を合わせてボタンを押した。

 程なくして「投稿完了」という文字が表れ、園芸部のページの一番上にその投稿が表れた。


 「ふぅっ。」


 猫背気味でパソコンを使っていたせいか、腰がなんだか重く感じる。


 えっと、電源シャットダウンは・・・・・・。


 このボタンだっけ。


 あれ、違った。


 こっち・・・・・・でもないや。


 えーっと。どこだっけ。


 あっ、そうそう思い出した。


 ここだ。


 するとシャットダウンの文字が出てきたので、そこに矢印を持っていってボタンを押した。


 「んー・・・・・・。」


 席から立ち、伸びをしながら二人の元へと歩いて行った。


 渡辺さんはパソコンを付けたまま目を瞑って頬杖をついており、その耳にはイヤオンが嵌っている。

 そしてスースーと規則的な呼吸音を立てている。


 寝ているのかな。


 画面を覗き込むと、いつぞやに彼女から見せられたASMR、という動画だっけ。その動画が映されていた。

 そこには動画投稿者の口元と髪しか映ってはいないけれど、その口元のホクロがやけに印象に残っていたから思い出せた。


 「先輩、それじゃあ・・・・・・。」


 と、スマホをバッグに仕舞いながら佐久間さんがこちらを見た。


 ・・・・・・あれ。


 動画の人と同じ位置にホクロがあるんだ、佐久間さん。


 再び動画を見ると、やはり同じ位置にホクロがある。


 それに、なにやら髪質がなんとなく似てる・・・・・・ような。


 その画面を見ていると突然それが消え、画面上の矢印が物凄い速さでシャットダウンのボタンの上に移動したかと思うと、画面に「シャットダウンをしています」という文字が現れた。


 「い、いやぁ。お、お腹減っちゃって!すぐ行きましょ先輩!」 


 と言うと、佐久間さんは渡辺さんの肩を激しくゆさゆさを揺さぶった。


 それにしても、スマホからじゃなくてパソコンからも動画サイトって見れるんだ。

 知らなかった。


 

 ピロピロピロリン


 「それじゃあ、今日は私の番だね。」


 「ふわぁ・・・・・・ん、あんがとね。」


 「お世話になります・・・・・・ッス。」


 そこにあったカゴを一つ取り、自らの体に語り掛ける。


 私は今日、何が食べたいんだろう。


 なんだろう。今何を求めているんだろう。


 ふらりとお菓子売り場の塩味、レモン味と書かれているそれらとすれ違う。


 しょっぱい物・・・・・・ではないかな。

 酸っぱい物もなんだか違う。


 となると、やっぱり。


 その足が私の想定した場所で止まった。


 そこには白いクリームや、カスタードなどの姿や文字がズラリと並んだスイーツのコーナーだった。


 それらを見ると、自分の舌と口が唾液でじゅくじゅくとしてきた。

 今日は甘い物の気分なのかぁ。


 そして、上の段から一つずつ見ていく。


 こうしてみると、前に食べたものなんかが目に入ってその時の味を思い出す。

 でも、せっかくなら新しいのを食べてみたい。


 「お・・・・・・。」


 ふと、私の目と手が止まり、その先の商品を手に取った。


 「お、エクレア?いいじゃん。」


 「チョコが美味しそうッスね。」


 カスタードエクレア。


 そういえば、エクレアって19世紀にフランスのパティシエの人が思いついて作ったのが始まりらしく、この『エクレア』というのはフランス語で稲妻を意味する『エクレール』という単語から来ているんだっけ。

 エクレアを食べる時に、その中に詰まったクリームが飛び出さない様に素早く食べなければならない。その速さを稲妻に例えられたらしい。


 ギュウギュウに、飛び出すか飛び出さないかという程に入ったクリーム。今回はカスタードみたいだけれど、それがたっぷりと詰まっている。


 「それじゃあ、二人ともこれでいい?」


 「ん、わかった。」


 「はい。」


 そこからさらに二つ取りカゴに入れ、そのままレジへと向かった。



 「「「いただきます。」」」


 早速パッケージを破ろうとしてふと、そこに印字された文字が目についた。


 クリームがとてもやわらかいのでこぼれない様に注意してお召し上がりください。


 まさに、稲妻みたいな速さが求められるってことなのかな。


 どうなっちゃうんだろう。


 とりあえずピッとパッケージを破り、中身を取り出す。


 わ、見た目よりもずっしりと重たい。


 クリームがたっぷり入っている、と無言で警告を送ってくる。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 お・・・・・・冷たい。


 さっきまで冷たい棚に置かれていたせいか、中のカスタードはひんやりとした舌ざわりだった。


 そして、チョコの苦み。

 これ、ビターチョコなのかな。


 でも、カスタードのとろりとした甘さのお陰もあって、それが程よく舌に刺激を与えて来る。


 ん、結構生地がしっかりしているからかな。それとも冷えているからなのかな。


 カスタードがあまり溢れてこない。


 この調子なら急いで食べなくても良さそう。

 

 「ん。」


 お、コリコリとした食感。


 これはチョコかな。

 さっきの一口目には無かった食感だからなんだか楽しい。


 そして、最初にチョコの苦みが舌を刺激し、鼻からその風味が抜けていく。

 そこへすかさずカスタードの甘さが舌へ満遍なく塗られていく。


 おいしい。


 これ、もしかしたら少しの間常温に置いておいたらカスタードが程よく溶けて、それこそ本当に稲妻みたいに素早く食べなくちゃならないような、そんな事になるのかもしれない。


 時間に追われる訳とかなんかじゃなくて、クリームがどんどん溢れてくる故に一気に食べる・・・・・・ちょっとしてみたい。

 

 「なんかさ、シュークリームと違ってエクレアって高級感あるし。」


 「もしかして、名前にレアって付いてるからかもッスね。」


 「あっ、確かに!なんか響きが違うな、と思ってたんだよね。」


 「ソシャゲでもレア武器とかレアキャラとかって言うッスよね。」


 「う・・・・・・た、確かに。」


 最後の一口を口に入れて何度も咀嚼した後に飲み込み、最後に指に付いたチョコを舌で舐めとった。


 その時、いつもの列車のアナウンスが鳴った。


 「それじゃ帰ろう、二人とも。」

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