肉厚チップス 安曇野生わさびの牛ステーキ味 atテスト結果

 「上原っち、テストの点どうだったー?」


 渡辺さんがほうきで床をきながら私の方をみる。


 「私は・・・・・・まあまずまず、って所だったかな。」


 いくつかケアレスミスをしてしまった教科もあったけれど。


 「えー、上原っちのまずまずって、想像できないなー。」


 90点くらい取ってそうだし、と頭を掻いている。


 少し嫌な言い方をしてしまったかな。

 

 「で、でも。渡辺さんのおかげで英語はいつもより20点くらい高かったよ。」


 「お、マジ?あたしも上原っちのおかげで数学は赤点回避できたし!」


 70点取れたし!とその八重歯を見せる。


 「確か・・・・・・数学って平均点62点だっけ?」


 「そう!平均点越えなんてしたこと無かったからマジで嬉しかったし!」


 そうそう、と不意に彼女がポケットからスマホを取り出した。


 「さくさくも数学の点数、良かったみたいだし!」


 と、その画面を見せてくる。


 彼女が掃いた埃や紙きれをチリトリで掃き取りながらそこに目をやると、佐久間さんが「数学勝ちました!」という文字の下にアニメキャラが「やった!」と両手を上げてジャンプしているスタンプを貼っている。


 良かった。佐久間さんも点数取れたんだ。


 そういえば、このアニメキャラってなんのアニメのキャラなんだろう。


 「上原っちと同じ教室でマジでラッキーだったし。」

 

 彼女がスマホを仕舞い、手にした箒を用具入れへと仕舞う。


、チリトリに溜まったゴミを燃えるごみのゴミ箱に入れ、彼女と同じようにチリトリをそこへと仕舞った。


 「じゃあ、ゴミ捨ていってくんねー。」


 彼女がそう言って燃えないゴミのゴミ箱を持ち、そのまま二人でゴミ収集車へ積み込むゴミ箱のある1階へと向かった。



 ピロピロピロリン。


 「んじゃ、今日はあたしの番だねー。」


 渡辺さんがそこにあったカゴを一つ手に持ち、持ち手を腕へと通した。

 

 「ん、ありがとう。」


 「お世話になるッス。」


 カツカツと歩いていくその背に、私と佐久間さんが付いていく。


 「いやー、今日は数学に勝利したってのもあるからさー。いつもだったら罪悪感感じちゃうのいっちゃう?」


 罪悪感かぁ。


 カロリーを摂りすぎて太らないか心配したりするっていうアレなのかな。

 今までの私だったらそんな事、感じるような事もなかったかも。


 「あっ、いいですね・・・・・・いいッスね。」


 ぱぁっ、と明るい笑顔で佐久間さんが軽くうなずく。

 彼女の鞄に付いているキーホルダーがチリンと左右に揺れている。

 

 「私も、その罪悪感感じてみたいかも。」


 それに一人だったら怖いけれど、3人だったらなんだか大丈夫な気がしてきた。

 これが集団心理、というものなのかな。


 「うっし、決まりね。」


 ニシシ、と彼女がこちらへと振り向いて八重歯を見せて笑った。


 ふと、さっきの教室で見たスタンプを思い出し、佐久間さんを見る。


 「そういえば、佐久間さんの使うスタンプのキャラって、何のキャラなの?」


 「えっと、桃滅の刃、ってやつッスね。それのダイヤ三郎ってキャラです。」


 面白いッスよ、と口にする彼女の口元はいつもよりも緩んでいた。


 そういえばテレビでも話題になってたっけ。芸能人の人にもそのアニメのファンがいるってしてたような・・・・・・。


 それから先を歩いていた渡辺さんの歩みがとある棚の前で止まり、彼女が財布を取り出して小銭入れ?の口を開いてチャリンチャリン、と音を立てている。


 そこには袋に入ったポテトチップスやスナック菓子が所狭しと並べられていた。


 ポテトチップスかぁ。


 そういえば、ポテトチップスって偶然の産物でできたものらしく、1800年の半ばにとあるレストランで起きたトラブルからできただとか。

 そのレストランではフライドポテトがメニューにあったのだけど、それを頼んだお客が「分厚くて脂っこい。」と酷評したらしい。

 それに腹を立てて、嫌がらせとしてジャガイモをこれ以上ない程に薄くスライスして、そこに更に油で硬くてバリバリになるまで揚げ、更に塩を大量に振りかけてお客に出したところ、それがまさかの新感覚のスナックとして好評。

 以降、そのレストランの看板メニューになったらしい。


 油にジャガイモの炭水化物。カロリーが爆発している。


 「よし、これなんてどうかな。」


 そう言って彼女が手に取ったのは、ワサビとステーキ味のやつだった。


 「これすごい罪悪感じゃない?」


 確かに。


 ただのチップスだけのとどまらず、そこにステーキという分厚い肉のフレーバー。

 おまけに、パッケージに肉厚とデカデカと描かれている。


 「すごい、罪悪感ッスね。」


 佐久間さんの目が普段よりも開き、そこに描かれている文字を目で追っている。


 「んじゃ、これでいいかな?」


 「うん、分かった。」


 「了解ッス。」


 そしてそのままその袋をカゴに入れ、彼女はレジへと向かっていった。


 

 「んじゃ、開けるね。」


 今日は真ん中に座った渡辺さんがコンビニの袋からチップスを取り出し、その縁にあるギザギザに手を添えてピッとその口を開く。


 ふわりと醤油の様な匂いと、ツンと鼻を刺激する香りがしてきた。


 「やっぱこのギザギザって発明だし。」


 と、彼女は膝にそれを置いた。


 「じゃあ、早速・・・・・・。」


 「「「いただきます。」」」


 2人の手が一斉にそこに突っ込まれ、それらが去ってから同じように手を入れ一つ取り出す。


 お、細長くてギザギザしてるんだ。それが長方形になっていて、ピンと伸びてはなく少し捻じれている。


 表面には白い粉と黒い粒が付いている。

 塩と黒コショウかな?


 手がザラザラとする。そんなにたっぷりついてるんだ、これ。


 手に持つそれをもう片手に持ち替え、ザラザラとするそれを舐める。


 「んっ。」


 お、塩とコショウだね。

 しょっぱくて少し辛い。


 その味が徐々に薄まっていき、口の中がまっさらな状態へと戻る。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 お、サクサク・・・・・・。


 っと、少しだけ噛もうとしたら手に持っているのが3つに崩れてしまった。


 いいや、全部口にいれちゃえ。


 ん、奥歯で噛むとゴリゴリと音がすごい。


 そしてわさびの香りがツン、と鼻へと突き抜けていく。


 すごくしっかりとワサビが生きている。

 ちょっと目がじわっとしそう。


 そして、口の中で粉々になったそれを飲み込む。


 ん、飲み込むときに牛肉のミルキーな風味が通り抜けていったような。


 続けて袋に手を突っ込み、次の1つを取り出す。


 お、さっきのと形が違う。

 さっきよりも捻じれていてまるでDNAの螺旋らせん構造みたいな、そんな見た目をしている。


 面白いかも。


 さてと・・・・・・。


 さっきの失敗から今度は勿体ぶらず、思い切ってそれを口へそのまま入れる。


 「ん。」


 前歯でサクサク、奥歯でゴリゴリ。


 そして、唾液に混じって溶け出してくるわさびの攻撃的な香り。


 鼻で呼吸をするたびにツンツンと鼻頭を刺激してくる。

 それがどんどんと口の中に広がっていってはある時を境にふと弱くなって、牛肉のミルキーさが鼻から抜けて来る。


 美味しい。


 これが、罪悪感なのかな。でも、食べれば食べる程、次の一口が欲しくなってしまう。


 「これワサビ強いです・・・・・・ッスね。」


 「えーそう?あたし結構辛いの平気だから大丈夫かなー?」


 「先輩、辛いの食べられるんスね。私は苦手で・・・・・・。」


 「いやまあ、あたしも調子に乗ってカレーの10辛完食したら、その日ずっと舌がピリピリしっぱだったし。」


 「完食ッスか?本当ッスか。」


 と、二人の手が袋から引いたタイミングで、勇んで手を突っ込むと何も掴みことは無かった。

 袋の中を見ると、もう空になっていた。


 指に付いた粉と欠片を舌で舐め、最後の鼻ツンわさびと喉越しを味わった後に息を吐き出す。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「んじゃ、帰ろっか二人とも!」

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