ダブルクリームのカスタード&ホイップシュー atテスト本番

 ピピピピッ


 「ではテスト用紙を回収します。」


 ふうっ、上手くできたかな。


 後ろの応用問題も埋めれたし、悪くない点数を取れていると思う。


 後ろの人から回ってきたテストの束、その上に自分のテストを重ねて前の人へと手渡す。


 鞄からペンケースを取り出し、机にあるシャーペンと消しゴムを仕舞っていく。

 

 「助けてー、上原っち。」


 突然、背中にズシリと何かが圧し掛かり、細い腕が首に巻き付いてくる。

 そのままその人物が私の体を左右に揺らしてくる。


 「裏面全然分からなかったし!すんごい心配だし・・・・・・。」


 その腕を掴んでそっと振りほどき彼女の顔を見ると、いつもの綺麗な金髪がボサボサに暴れていた。

 テスト中、すっごい掻いたんだろうな・・・・・・。


 「表面の方はどのくらいできた?」


 すると、渡辺さんは右手で髪を掻き苦笑いを浮かべた。


 「い、一応は埋めれたけどさー。」


 やっぱ数学は苦手だし、と掻いたところを手で梳いている。

 

 かくいう私も、肝心の点数はまだ分からないから不安ではあるけども。


 「あ、でもでもっ、何個かこれキタわ、って問題ならあった!」


 あんがとね、と私の両肩をガシりと掴んできた。


 そう言って貰えると嬉しいな。

 私もこの間渡辺さんに英語を教えてもらってなかったら、今日のテストは壊滅してたかもしれないし。


 「こちらこそ英語、助かったよ。」

 

 すると彼女は、なんか照れるし、と今度は髪を指先でくるくると巻いている。

 シュルシュルと指に巻き付いては人差し指と親指に摘ままれ、ピンと引っ張られている。

 

 「あっ、そういえば今日の掃除って理科室じゃない?」


 ふと教室の前の当番表を見ると、今日は私たちがそこの当番の日だった。

 他の掃除場所と違って、理科室は時間がかかる時が多いんだよね。


 「そうだったね。急ごっか。」


 ペンケースを鞄に仕舞い、私たちは教室を後にした。



 ピロピロピロリン


 「今日は私の番だね。」


 傍にあるカゴを取り、持ち手を持つ。


 「ゴチになるねー。」


 「お世話になりま・・・・・・ッス。」


 今日の私は一体何の気分なのだろうか。

 私の中の私と向き合ってみる。

 

 「やっぱテストの日って特に疲れんねー。」


 ふと見ると、渡辺さんが肩に手を添えて首を回していた。

 コリコリと首から音が鳴り時折、その両目を閉じている。


 「そうッスね。集中力を使い切ったというか、なんというか・・・・・・。」


 「あー、わかるそれ。」


 佐久間さんが大きなため息を吐き、渡辺さんがそのままの仕草で相打ちをうっている。


 確かに、疲れているかも。

 こういうときは頭を真っ白にして、自然と体の向き合うままの物を食べるのがいいのかもしれない。


 よし、今日は難しい事を考えずに、体のシグナルに逆らわずにいこうかな。


 本能に従い、足の向くままに歩みを進めて、ピタリと足が止まったコーナーを見る。


 そこはスイーツのコーナーだった。


 「お、甘いもの?いいじゃん。」


 甘いもの・・・・・・なるほど。

 今体が求めているのはそれなのかな。


 甘いもの、甘いもの・・・・・・いや、複雑な事を考えるのはやめよう。

 欲望の赴くまま、体の向くまま・・・・・・。


 するとゆらり、と手が伸び、体の赴くままそれを手に取った。

 

 「お、シュークリームかぁ。」


 「美味しそうッスね、それ。」


 シュークリーム。


 本場のフランスでは「シュー・ア・ラ・クレーム」と呼ばれていて、「シュー」はフランス語で・・・・・・キャベツの意味だっけ?クレームはフランス語でクリームの意味だったよね。

 日本ではキャベツのような生地の中にクリームがぎっしりと入っているその様子から、シュークリームと呼ばれるようになったらしい。

 幕末の時代にフランスの人が横浜で洋菓子店をしていて、そこから広まっていったんだっけ。


 この生地と中に詰まった生クリームとカスタード、それが今の体が求めている物なんだろうなぁ。


 「二人とも、これでいいかな?」


 二人の方を見ると、


 「いいよー。」


 「お願いするッス。」

 

 と返してくれたので、そこからあと二つをカゴに入れレジへと向かった。



 「「「いただきます。」」」


 いつもの駅の長いす、そこに座りいつものように三人でその言葉を言う。


 パッケージをピッと開き、中身を取り出す。


 おおっ・・・・・・生地がこんもりと山になってる。


 わ、手に持つと結構ずっしりとしてるなぁ。

 どのくらいのクリームが詰まっているんだろう。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 柔らかな生地を歯が切り裂いて、中のひんやりとした部分を突き抜ける。

 そして切り離し、口の中に入ったそれを噛む。 

 

 ん、ちょっと生地を焦がしているのかな。ちょっと苦め。

 でも、その風味から遅れてやってくる甘み。


 最初はひんやりとしていたクリームが口の温度でゆっくりとその姿を溶かしてゆき、その味が舌に余すところなく広がっていく。

 ひんやりが口の中で常温になるまでそれを舌で転がしていく。


 それを一通り楽しんだ後に喉を鳴らして飲み込んだ。


 「んっ。」


 苦みと甘さ、そしてひんやりな喉越しが気持ちいい。


 これ、この生地の焦げがなかったら甘すぎたかもしれないね。

 

 ・・・・・・一口齧ったのに、まだそれをもつ手からずっしりとした重さを感じる。


 おおっ、食べた後の中身、白いクリームと黄色いカスタードとの2段重ねが上からの明かりに照らされてとても眩しい。 

 

 一口目に口に入ってきたクリームの量。


 それがまだこんなにあるんだ・・・・・・。


 すごく入ってるな、クリーム。


 「このクリーム、ひやっとしてるねー。」


 「そうッスね。今よりもっと暑くなってきたらもっと美味しくなりそうッスね。」


 「あー、それいいね。アイスも捨てがたいけどさ。」


 二口目は・・・・・・よし、生地の一番盛り上がってるところから歯を入れようかな。


 「んむ・・・・・・。」


 おお、やっぱりクリームがたっぷり入ってきた。


 むにゅりとクリームが口の中へ流れ込んでくる。


 っと、口の端にクリームが付いてしまった。

 もう片手の指でそこをふき取り、指に付いたそれを舌で舐めとる。


 苦みが最初に舌を刺激してきて、そこからとろりとした甘みがじわじわと溶けて広がっていく。

 

 最初はひんやり、それがどんどんと口の体温になっていくのがなんだか楽しいかも。


 冷たい甘さと暖かい甘さ、そしてそれを苦みの生地と共に飲み込む。


 美味しい。


 そうして最後の一口を飲み込み、一息つく。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「それじゃあ、帰ろう二人とも。」

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