DailyClub SELECT と アルフォート ミルクチョコ&リッチミルクチョコ atテスト勉強

 「おっ、待ってたよー。上原っち。」


 駅の改札を出ると、渡辺さんが手を振ってくれた。


 もう片方の手にはスマホが握られている。


 こちらが持っているスマホ、ラインの既読という文字の付いた画面をオフにして鞄に仕舞い、手に持ったカードを改札にかざして通る。


 「時間ぴったじゃん。やっぱ上原っち、って感じだねー。」


 チラリとスマホを見て私に八重歯を見せる。


 学校の制服姿を見慣れているせいか、私服姿の彼女の姿に思わず目を疑う。


 道行くサラリーマンと肩を並べる、いや、高いくらいの背に、細くスラリとしたシルエット。

 制服の時のスカートしか見たこと無かったから、そこにスキニージーンズが履かれて引き締まる下半身は、およそ私と同じ年の子には見えなかった。

 そして、ピンと毛先の整った金髪にブラウンの瞳。

 日本人離れした高い鼻と整った鼻筋。


 やっぱり渡辺さんって、ハーフなんだなぁ。

 

 「お早う、渡辺さん。」


 できるだけ自然に見えるようにと口角を上げて、こちらも彼女ほどではないが、手を振り返す。


 「今日はお世話になるね、せんせっ。」


 シシ、と目を細めて笑う顔を見ると、やっぱり私たちと同じ年なんだな、って思った。


 って、先生って言われると顔が熱くなっちゃうな。


 「う、うん。こちらこそ、教えて貰いたい教科があるから、よろしくね、先生。」


 「ちょっ、照れるし・・・・・・。」


 なんて言って、彼女は頭を掻いている。


 金の髪が踊り、さらさらとたなびく。


 そのとき、ピロン、と私と彼女のスマホから音がした。

 

 取り出して確認してみると、ラインルーム「よりみちごはん」に新しいメッセージが届いていた。


 【今着きました!】


 という文字と、アニメキャラが「参るっ!」と言っているスタンプが送信されてきた。


 【了解。】


 と返信した私から一瞬遅れて、渡辺さんがカピパラをモチーフにしたキャラがビシッ、と敬礼して【りょ!】と言っているスタンプを投稿した。


 「そいえば上原っちって、スタンプ全然使わないよねー。」


 つまんなくない?と言って彼女がスマホで何やら操作をしたかと思うと、


 「ほら、色んなスタンプがあるっしょ?これなんかどうよ?」


 といって目玉焼き?のキャラのスタンプが表示された。


 うわっ、スタンプって動きがあるのもあるんだ。


 使いこなせたら面白そうだなぁ。


 「でも、スタンプってどこから使うの?」


 文字ならたなんとか打てるから大丈夫だけれど、スタンプは使おうにも肝心のその使い方が分からない。


 「えっ、そこから?」


 彼女がその眉をヒクつかせている。


 私って結構、機械音痴なのかな? 

 

 

 「結構あたしの家って駅近なんだよねー。」


 ユーリョーブッケン、ってやつ?と私と佐久間さんの前を歩きながら彼女が誇らしげに?言っている。

 

 「ほら、あそこのマンションの2階なんだ。もうすぐっしょ?」


 その指が指す先には、くすんだ白色の壁がおそよ6階層分にまで伸びた建物が建っている。


 「でも、その・・・・・・私、一年ですし、今日ご一緒しても良かったんですか?・・・・・・ッスか?」


 佐久間さんが両手で鞄の持ち手を掴み、キョドキョドとした様子と口調で私と渡辺さんとを交互に見る。


 「いいのいいの!人が多い程楽しいっしょ!」


 彼女が後ろを振り向き、佐久間さんへと笑いかける。


 「勉強、するんだよね?今日。」


 しかも苦手な数学を。


 私の言葉に、うっ、と言葉を詰まらせたかと思うと、頭を掻いて苦笑いを浮かべた。


 見慣れない屋根の数々と見慣れない雑草の生えるコンクリートの道。


 とある一軒家の前の地面には、白い軽石で描かれたのかな?へにょへにょの白い線で猫のような生き物が描かれている。


 歩いてゆくと小さな広場ともすれ違い、そこでは母親とその子供とがしゃいでおりキャッキャッ、という声が聞こえてくる。


 やがて、渡辺さんの言っていた建物の前へと到着し、彼女がジーパンのポケットから鍵を取り出す。


 「2階だから、もーちょいで着くし。」


 彼女がその建物の中にガラス張りの扉を開けて中へと入ってゆく。


 後を追って中へと入ると郵便受けが並んでおり、そのそれぞれの上には3桁の数字が彫られている。

 そしてその奥には1~9と0のボタンと鍵の差込口のあるパネル。

 奥には101、102と書かれている扉と階段があり、それらと私たちの間を透明な板が遮っている。


 彼女が手にした鍵をその差込口へと差し込むと、ウィーン、という機械音と共に透明な板がスライドしてゆく。


 渡辺さんの後を付いていって階段を上る。


 そして、202と彫られた扉の前で彼女が止まり、そこの鍵穴に再び鍵を差し込む。


 ガチャリ


 「はい、入って入って。」


 あたしの部屋は右の部屋だからさ、と扉を開けてくれた。


 人の家特有の何とも言えない木の香りに加え、ほのかな柑橘系の香り。

 ふと見ると、靴箱であろう物の上にオレンジの絵が描かれた小瓶と、そこから数本の細い棒が伸びている。

 

 「お邪魔します。」


 靴を脱いでそれを揃え、家へと上がる。


 「お邪魔しますッス。」


 同じように佐久間さんもそれを揃える。


 「あの、洗面所はどこッスか?」


 「ああ、そこの部屋にあるし。」


 と、彼女が指を指す。


 そして手を洗った後に、彼女の部屋へとお邪魔した。


 「ちょっと待っててー。」


 と言うと、彼女が部屋のクローゼットから大きな板を取り出してきた。

 

 裏側の4つの短い柱をカチ、カチ、と音を立てて板と垂直にしたかと思うと、そのまま部屋の真ん中にその柱を下にして設置した。


 「これ使うの久しぶりだし。」


 なんかワクワクするなー、と部屋にある引き出しから数学の教科書とノートとを取り出して、その置いたテーブルの上へと置いた。


 私は・・・・・・、と呟きながら佐久間さんは、鞄から一年の数学の教科書を取り出した。


 「おっ、さくさくも数学?」


 渡辺さんがテスト範囲である教科書のページと、ノートの白紙のページとを開きながら、佐久間さんの取り出したものをまじまじと見る。


 「は、はい。今日でスッキリさせたいことがあって。」


 と、佐久間さんが私の方をチラリ、と見た気がした。


 私はというと、鞄から英語の教科書とそのノートとを取り出す。


 今日であの文法を理解できればいいのだけれど・・・・・・。


 「んじゃ、やろっか!」


 ふと時計を見ると、二つの針は午前10時を指していた。


 

 「ねぇ、上原っち。ここ分かる?」


 渡辺さんが教科書を見せてくる。


 これは、あの解き方ができるかな。


 「そこから3ページぐらい後ろに戻ってみると解き方が書いてあるよ。」


 彼女の教科書のページをめくり、その解き方が書いてあるところを手に持っていたシャーペンで指さす。


 「ほら、これだよ。」

 

 数秒ムム、と眉間にシワを作ったかと思うと、


 「えーでもさー。」


 目を細め、指で自身の髪の毛をくるくると巻きながら、


 「これってぶっちゃけ遠回りじゃん?めんどいし・・・・・・。」


 低く唸りながら一層、その目つきを険しくする。


 めんどいって言われても・・・・・・そういうものだからとしか言えないしなぁ。


 「でもね、この解き方じゃないと答えが違ってきちゃうんだ。」


 試しにそこに書いている式を抜いて、彼女の見ている前で問題を解いてみる。


 「ほら、符号も違うし文字も残っちゃうでしょ?これだと中途半端になっちゃう。」


 「うぅ・・・・・・。」


 その教科書の両側を紙がクシャクシャになるのではないかという程に掴み、再び唸る。


 「じゃあ、じゃあさ・・・・・・これ使って解くからさ、変なとこあったらおせーて欲しいし。」


 そう言うなり彼女がシャーペンを手に持ち、ノートにそこに書かれている問題を解いていった。


 「あ、あの先輩。この問題なんですが・・・・・・。」


 佐久間さんがノートを見せて来る。


 佐久間さんの字、丸っこいなぁ。


 「解き方はあってるし、使う公式もこれでいいと思うよ。」


 「そ、そうなのですか・・・・・・?」


 彼女が首を捻り、ノートに描かれた文字をシャーペンでなぞる。


 「あ、そっか!」


 そう呟いたかと思うと、そこにサラサラと式を追加する。


 「こうですか?」


 「うん、それで〇を貰えると思うよ。」


 彼女の頬が僅かに上がり、そのまま2問目へと取り掛かった。


 さて、と・・・・・・。


 ここの文法、どうすればいいんだろう。


 これってどっちを使えばいいんだっけ。


 「ねぇ、渡辺さん。ここってどっち使うの?」


 教科書を彼女の方に向け、シャーペンでその英単語を指さす。


 「お、ここはややこしいけれど、こっちだね。」


 そして、そこから3行ほど下の所に書いてある文章をシャーペンで囲んで、


 「これを口で発音しながらするとイメージ付きやすいよー。」


 と、私なんかと比べ物にならない程、耳さわりのいい発音でそこの単語を読み上げてくれた。


 そうすればよかったんだ・・・・・・。

 ここ、一人じゃ分からなかったな。


 「ありがとう、渡辺さん。」


 いえいえー、と八重歯を見せたかと思うと、再び数学の教科書とノートとを相手ににらめっこを再開した。


 

 「ねぇ、今ってどんくらい・・・・・・うわ、もうこんな経ったんだ。」


 集中力エグッ、と渡辺さんが大きな伸びをした。


 時計を見ると、1時を指していた。


 そういえば水分もロクに取ってなかったから、お腹は勿論、喉も乾いちゃってるかも。


 「そ、そんなに時間が経ってたんですね。」


 佐久間さんが数学の教科書の間にシャーペン、ノートに消しゴムを挟んでそれぞれ閉じる。


 「お昼、買いにいこっか?」


 パタン、と教科書を閉じて彼女が立ち上がる。


 「5分で行って帰って来れるとこにコンビニあっからさ、いこ?」


 その言葉に頷き、早速出かける準備を始めた。



 ピロピロピロリン。


 「今日は3人で出し合おっかー。」


 渡辺さんの提案に私は頷き、佐久間さんは、了解ッス、と返事をする。


 「うし、決まりね。」


 そして、そこにあったカゴを取り、いつものように店内の陳列棚を見て回っていく。

 とは言っても同じコンビニとはいえ、学校の近くとはまた違うラインナップをしていた。


 やっぱりよく売れる商品だったり全く売れない商品だったりが場所によって違うんだろうな。


 「せっかくだからさ、たまに豪華にいかない?」


 家でゆっくりできるしさ、と彼女の足がとある棚の前で止まる。


 そこはコーヒーやラフェラテなど、お湯を入れて初めて完成する商品がズラリと並んでいる所だった。


 確かにこういった飲み物って、駅構内なんかじゃできないことだ。


 ムム、と彼女はそこに並んでいるものを黒目を動かして見ていき、その中から一つを手に取った。


 「これどーよ?」


 優雅じゃない?とその箱をシャカシャカと振り、私たちに見せて来る。


 「紅茶かぁ。」


 お茶全般なのだけど、その殆どは中国でお金持ちの人が不老長寿の薬として飲んでいたのが始まりで、そこから17世紀あたりから貿易でゆっくりと世界に広まっていって、18世紀頃には、あのアフタヌーンティーで有名な国、イギリスへと伝わったらしい。


 日本には明治時代にやって来て、そこから広まっていっただとか。


 「いいで、ッスね。紅茶。」


 佐久間さんの言葉に、

 

 「うし、決まりね。」

 

 と、それをカゴへと入れた。


 「次はお菓子かな?」


 続いてお菓子の並ぶコーナーへと向かい、その中でも量の入っているのが集まっているところを注視する。


 やはり紅茶といえばチョコかな。


 チョコと一口に言っても、いろいろな物があった。


 3人で分けられそうな板チョコに、ナッツの入った一口サイズのチョコ、それがたくさん入ったもの。


 チョコ以外にもさくさくしそうなパイやふわふわしていそうなドーナツ、網目が特徴のベルギーワッフルも目に移って、それぞれが私達にアピールをしてくる。


 「お・・・・・・。」


 直感的に思いついたそれを手に取る。


 「おー、かわいいじゃんそれ。」


 「なんかイギリスっぽい雰囲気あるッスね。」


 アルフォート。


 立派な船の絵がレリーフされたチョコとクッキーとが一緒になったお菓子。


 「どうかな?」


 私の質問に二人は、


 「異議なしー。」


 「私もそれ食べたいです。」


 という返事が返ってきたので、それをカゴの中へと入れた。


 「んじゃ、一人167円だね。」


 渡辺さんがスマホの画面を見せて来る。


 電卓を使い、そこの式は消費税込みで計算されている。


 この短時間でスマホで電卓を弄ってたんだ・・・・・・。

 しかもそこそこ長めの計算式。


 「う、うん。わかったよ。」


 

 「それじゃ、紅茶入れてくっからアルフォートの準備お願いだし。」


 渡辺さんはそう言うなり、キッチンがあるであろう部屋へと消えていった。


 彼女の部屋に二人でもどり、各々の教科書、ノート、筆記用具を一旦机の下に仕舞う。

 残った彼女の一式も同じようにそこへと置く。


 そして、コンビニの袋からアルフォートを取り出し、その口をピッと開く。

 袋の中は一つ一つが小さな袋に入っており、それらが所狭しとその中に入っている。


 「それにしても。」


 佐久間さんがパッケージを見つめながら、


 「この絵ってすごいですよね。見ていて飽きないというか。」


 そのチョコ部分の船を指でなぞる。


 「あっ、そういえば!紅茶って中国が起源で、そこから貿易で世界に広がったみたいですよ。」


 キラキラとした目で私を見てくる。


 「そっ、そうなんだ。」


 知ってたよ、なんて言えるわけない。

 ものすごくキラキラしてる。


 口角を上げ、いや上げたつもりだけど、大丈夫かな。

 また苦笑いみたいになってしまったかも。


 「お待たせー。」


 その時、ガチャリ、と扉を開けて渡辺さんが入ってきた。


 手で支えているお盆からは3つの湯気が立ち込めている。


 カチャ、という音と共にカップが私、佐久間さん、そして彼女の前にと置かれる。


 「あ、砂糖使う人いる?」


 その彼女の言葉に佐久間さんが控えめに手を上げた。


 彼女の手から中に白いザラザラとした粉末の入った、可愛らしい小瓶が佐久間さんの手に手渡される。


 そこに備えられているスプーンを使い、ザパッザパッと二回紅茶に砂糖を落とす。


 「それじゃあ、食べよっか。」


 その言葉に二人で頷き、


 「「「いただきます。」」」


 早速、袋の中から一つ取り出す。


 お、買ったときは気が付かなかったけれど、これって二つの味が入ってるんだ。


 リッチミルクチョコか普通のチョコかぁ。


 これは・・・・・・普通のチョコだね。


 その袋をピッと破る。


 おおっ・・・・・・。


 こうして目の前にすると、やっぱりすごいなぁ。


 佐久間さんの言っていた通り、見ていて飽きない。

 

 波の形は今にも動きそうなくらいに迫力があって、そして主役の帆がいくつも張られている船。

 絵柄の書かれていないところはチョコが一面に綺麗に張られており、指を這わせればツルツルしていそうなほどに綺麗。


 それをしたくなったけれど、うっかり指の熱で溶けてしまいこの絵が崩れてしまうのは嫌なので、グっと堪えた。


 よし、いこうかな。


 「んむ。」


 お、クッキーが薄かったから食感が気になったけれど、しっかりサクサクしている。


 そしてチョコが溶け、その風味が鼻から抜ける。


 ん、チョコの香りの中にミルクの匂いがいる。


 ふと、傍で湯気を立てているカップに目が留まる。


 そうだ。今日はこれがあるんだ。


 ミルクチョコって今までなんどか食べてきたけれど、この紅茶でまた違う味に変わるかもしれない。


 アツアツのカップ、その持ち手を手に持ち、口先へと持ってくる。

 立ち込める湯気で鼻と目が蒸気でしっとりとなる。


 その縁に口をつけ、カップを傾ける。


 「んく・・・・・・。」


 紅茶のいい香りと少し遅れてやってくる渋み。


 でも、それが口に残ったチョコとミルクの風味とすごく合うかも。

 

 半分になった帆船を口に入れてほどほどに咀嚼し、再び紅茶を口に入れる。


 おお・・・・・・。


 口の中の僅かなミルクの風味が引き立って、この舌が今だけ大人に成長しているような、そんな錯覚を覚える。


 よし、次は・・・・・・。


 リッチミルク、いっちゃおうか。


 「おおっ。」


 ピッと開けて取り出すと、まさにリッチだった。

 さっきの普通のよりもチョコの色が薄く、そこに描かれている絵もどことなく高級感を増していた。


 ふぅ。


 っと、つい口からため息が漏れてしまった。


 よし、いっちゃおう。


 名残惜しいけれど手で摘まみ、一口齧る。


 「んっ。」


 お・・・・・・ミルクの香りが本当にリッチだ。


 これはチョコというよりかはむしろ、キャラメルに近い味なのかもしれない。


 そして、つかさず紅茶を一口傾ける。


 「はぁ・・・・・・。」


 暖かい。


 そして舌がさらにワンランク、リッチで大人となる。


 美味しい。


 まだ学生なのに、こんなに贅沢になってしまってもよいのだろうか。

 これから私は、普通のお菓子で満足ができる舌に戻れるのだろうか。


 それから3人で各々食べ進めていき、最後の一つを渡辺さんが食べた。


 「「「ごちそうさま。」」」


 空になった袋を渡辺さんがコンビニの袋に詰め込み、


 「じゃあ、捨てて来るね。」


 戻ったら勉強再会だし!と言いガチャリ、と部屋から出ていった。



 ピピピピ、と突然アラームが鳴り響く。


 「うわ、もう4時だし。」


 渡辺さんが携帯を取り出し、そのアラームを止める。


 窓を見るとそこから赤い光が差し込んでいるのに気が付いた。


 苦手な科目を勉強していたというのに、こんなに時間が経つのが早く感じるなんて。


 「ホントッスね・・・・・・。」


 佐久間さんが開いていた教科書のページの端っこを折り、鞄の中に仕舞う。


 「んじゃ、駅まで見送るねー。」


 彼女が立ち上がり、クローゼットから上着を取り出して身に着けた。


 「んーっ・・・・・・。」


 なんて声を上げて伸びをした後、私も鞄に道具一式を仕舞い帰り支度を始めた。



 「これでなんとか赤点はなさそうだし!」


 ありがとね、と上着に手を突っ込んだまま、渡辺さんが私の方を見て八重歯を見せる。

 金の髪が夕日に照らされてとても眩しい。

 

 「ううん、こちらこそ。」


 おかげで英語のあの文法を理解できた。

 今夜は久しぶりにぐっすり眠れそうな気がする。

 

 「私も助かりました!センパイ方、ありがとうございました・・・・・・ッス。」


 佐久間さんがコクン、と軽く頭を下げる。


 「一週間後かー・・・・・・。」


 「そうだね・・・・・・。」


 「赤点だけは、嫌ッスね・・・・・・。」


 はぁ、と3人分の溜息が偶然にも重なり、自分の口から笑みが零れていた。


 やがて、夕日に照らされて赤く染まった駅へとたどり着く。


 「んじゃ、また明日学校で!」


 「うん、また明日ね。」


 「またよろしくッス、先輩!」

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