中間テスト期間

のむヨーグルト 白桃 at中間・・・・・・

 「くあぁぁぁ・・・・・・。」


 先生がチェックし、OKを貰う。

 よし、今日は早めに掃除が終わったかな。


 その時ピロリン、と鞄から音がした。


 スマホを取り出すと、佐久間さんからのラインが来ていた。


 【今日は私が先輩方に、の番ですね。】


 うーん・・・・・・。一応はそうだけれど。


 【無理しないで大丈夫だよ。】


 悩んだけれどその一文をスマホを操作して打ち、そのまま送信の紙ヒコーキのボタンをタップする。


 「はあぁぁぁぁ・・・・・・。」


 少しした後に、ピロリンという音と共に向こうから新しい文章が送られてくる。


 【いえ!お世話になりましたし、出させてください!】


 と送られてきたかと思えば、


 【じゃあ私、今日は音楽室掃除なんでまたいつもの場所で!】


 という文章が続けざまに送信され、その次にアニメのキャラ?が「行って来ます!」と言っているスタンプが送られてくる。 


 「ふぅぅぅぅ・・・・・・。」


 じゃあ、一階に降りて待ってればいいのかな。


 「ところでさ、渡辺さん。」


 「えっ、あ・・・・・・何?どったの?」


 うわっ、目に見えてやつれてる。

 髪を掻いたのかな。額に何本も垂れ下がっている。


 そんなにショックだったのかな。


 「中間テストの事?」


 「う、い・・・・・・言わないでそれ。」


 頭を押さえてうめき声を上げる彼女。


 今日から中間テストの日程が知らさせた。

 当日はまだ一か月後だが、殆どの子は彼女と同じ反応をしていた・・・・・・ような気がする。


 国語の古典と英語、復習しないとな。


 「テストなんて消えればいいのに。」


 ぼそりと、特に数学、と口早に言っている。


 「で、でもさ。これでいい点とったら内申良くなるし・・・・・・。」


 「でもそれって、いい点とれたらだし!」


 そりゃそうだけども。


 「あたし、赤点だけは嫌だし・・・・・・。」


 ゆらりとこちらへ顔を向け、ハッとした顔で今度はガシっと私の両肩を掴んできた。


 「うわっ!な、何!?」


 「今度の日曜、ガッツリ数学教えてくんない!?お願い!」


 そんな真剣な顔で言われるから何か大変な事かと身構えてしまったけれど、そんなことかぁ。


 「うん、いいよ。」


 いつも渡辺さんからは色々な物を貰っているし、そんな事はお安い御用だ。

 何かを思いとどまることもなく、私は首を縦に振っていた。 

 

 すると、私の肩に置かれた両手が今度は私の手を握り、


 「あり!言ってみるもんだね~。」


 と言ってブンブンと手を激しく上下に降らされた。


 そういえば、私も英語で分からないところがあるし、その時に私も教えてもらおうかな。


 「ところで、テスト範囲ってどこだっけ?」


 えっ、そこから?



 ピロピロピロリン。


 「それじゃあ、今日は私に任せてください・・・・・・ッス。」


 と、佐久間さんが傍にあったカゴを一つ意気揚々といった具合で取り、その持ち手を片腕に通す。


 「ん、ゴチになるねー。」


 いつもの調子で・・・・・・いや、短く溜息を付いている。そんなにテストが嫌なのかな。

 彼女の八重歯を見せて笑う顔はいつも通りだけれど。


 「うん、ありがとうね。」


 ふるふると内側へくるんとなっている髪、それを揺らしながら歩くその背中に礼を言うと、はいっ、と威勢の言い返事をしてくれた。


 お菓子コーナーの前で彼女が止まったかと思えば再び歩き出し、菓子パンコーナーにたどり着いたかと思えば、また歩き出す。


 「なーに?迷ってるの?」


 渡辺さんが佐久間さんの背中を指でツンツンとつつく。


 「気にしない気にしない。さくさくの普段食べてるのってどんなの?」


 その背中の刺激と声に反応して、彼女が顔だけでこちらを向いて眉の僅かに下がった顔で、はい、と言ってはそれから普段の喋り声よりいくらか低い声で、うーん、とくぐもった呻き声が聞こえて来る。


 後ろからじゃどうか分からないけれど、顎に手を当てているのかな。


 突然、あっ、と彼女が声を上げる。


 「センパイ、飲み物系なんてどうでしょう?」


 「お、飲み物?コーラとかポカリみたいな?」


 渡辺さん、コーラとか飲むんだ・・・・・・。

 炭酸なら、ジンジャーエールとか飲んでるんじゃないかと思ってた。


 「えっと、ちょっとそれとかとは違くて・・・・・・。」


 と、今までの迷ったような足取りから打って変わって早歩きになり、とある陳列棚の前でピタリと止まる。


 「私、普段これを飲んでるんですが、どうでしょうッスか?」


 そう言って彼女が指さした先には、飲むヨーグルトの文字があった。


 「お、飲むヨーグルかー。」


 気になってたんだよねー、と渡辺さんがそこからブルーベリー味のを一つ手に取った。


 ヨーグルトかぁ。


 起源は紀元前からあるらしく、人間が牧畜を始めた頃からあるものらしい。

 偶然に牛乳を入れていた容器に乳酸菌ができたことによって出来たものなんだっけ。

 生の牛乳よりも保存が長くできるから、遊牧民の間で作られては食料としてかなり使われていたらしい。


 日本にしっかりヨーグルトとして伝わったのは明治時代で、当時牛乳を沢山売ろうとした人がそれを作って、整腸剤として売り出したことでその名前が段々と広がっていったんだっけ。


 ヨーグルトといえばドロっとした食感だったと思うけれど、飲むヨーグルトかぁ。


 どんな食感と味なのだろう。

 気になる。


 「上原っちもそれでいい?」


 「あっ、うん。飲みたいな。」


 と、私は白桃味のを一つ手に取った。


 「じゃあ、行ってきますッス。」


 佐久間さんが大きく頷くと、彼女がそこの棚からプレーンのを一つ手に取り、渡辺さんと私の手に持ったそれらを受け取ってカゴに入れてそのままレジの方へと向かっていった。



 「っと、渡辺センパイはブルーベリーでしたッスね。」


 「ん、ありー。」


 「上原センパイはこれですね。」


 彼女が袋の中から白桃と文字の書いてあるそれが私の方に手渡される。


 「うん、ありがとう。」


 手に取ると僅かにひんやりとしている。


 冷蔵庫から取り出したばかりの飲み物ほどキンキンじゃないけれど、このくらいの方がゴクゴクいけてしまうのかも。


 佐久間さんも自分のプレーンのを取り出し、その側面についているストローを引き剥がした。


 「じゃあ、食べ・・・・・・いや、飲みましょう、センパイ方。」


 その声に頷き、


 「「「いただきます。」」」


 さっきの佐久間さんと同じように、側面についているストローを手に持ち引き剥がす。


 ん?結構太いかもこのストロー。


 野菜ジュースとかについているストローなんかと比べると全然違う。


 結構ドロドロとしているのかな?

 ヨーグルトだしね。それが残っているのかも。


 ストローの尖っている方を寄り寄せそこからつぷ、と袋を突き破る。


 よし、出てきた。


 そのままそこを掴んでストローの服を脱がす。


 えっと、差込口は・・・・・・。

 あれ、見当たらない。


 野菜ジュースとかの紙パックの飲み物にあるよう差込口が見当たらない。


 ちらり、と佐久間さんと渡辺さんの方を見てみる。


 ストローに口を付けて、頬を少し引っ込ませている。

 時折そこから、んく、と飲む音が漏れている。


 差込口は・・・・・・んん?


 蓋にそのまま突き刺すの?これ。

 なんというか、ダメな事をするような気がしてちょっとドキドキしてしまう。


 よ、よし。


 ストローの両端を掴み、その姿を長く変形させる。


 そして、ヨーグルトを手に持ち、その蓋にそれを突き立てる。


 パンッ、という破裂音と共に穴が開き、そこに白いストローがするすると飲み込まれる。

 そのまま奥まで入れていく。


 そうしているとその手からコツン、と底を叩く振動が伝わってきた。


 よし、行こうかな。


 「ん。」


 ストローを口に咥える。


 やっぱりこれ太いなぁ。

 なんだか慣れない感触。


 おおっ、桃の香りがもうしてくる・・・・・・。

 

 そして、頬を口の内側に引っ張り、下に詰まっている香りの元を引き寄せる。


 「んんっ。」


 桃だぁ。


 これ、つぶつぶとした桃の果肉がそのまま入っているんだ。

 だからこんなに香りがするのか。


 そして気になっていたドロドロ具合。

 すごい、全然無い。


 本当に液体を飲んでいる。

 正に、飲むヨーグルトだコレ。


 それに、程よい冷たさのおかげで、口に入れるたびにひんやりと丁度いい冷たさが口に広がっていく。


 口に入ってきたつぶつぶの桃を一しきり噛んで飲み込んだのちに、また次の一口を取りこむ。


 急にストローで吸い込んだせいで容器が一瞬、ペコンと吸い込んでいる頬の様にへこんでしまう。


 今度はヨーグルトが口の中で泳いでいる状態で桃を噛んでみる。


 おおっ・・・・・・じわっと桃の香りが染みて来た気がする。


 いいかも、これ。


 そしてヨーグルトと一緒にそれらを飲み込む。


 ん、喉を通る時もひんやりとしてスッキリする。


 美味しい。


 やがて、容器がベコベコとへこんだり元に戻ったりを繰り返しながら、私はズズッ、とストローですすりながら底の残りをカラカラと探し回る。


 本当に無くなったのか、この蓋を剥がして見たくなる衝動に駆られたけれど・・・・・・横の二人を見て思いとどまった。


 中身が見えなかったから、最後の一口をじっくり味わえなかったのが心残り。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつもの列車のアナウンスが流れた。


 「それじゃあ帰りましょう、センパイ。」

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