ナッツたっぷり マカデミアクッキー at新メンバー

 「で、えっと・・・・・・写真は確か。」


 フォルダフォルダ・・・・・・あったあった。


 スクリーンに映し出された写真をクリックして、学校の園芸部のページに張り付ける。


 「ふぅ・・・・・・。」


 こんなところかな。


 最後に【投稿】のボタンをクリックしてその見栄えを確認する。


 ・・・・・・うん、見やすく書けたかな。


 この間、佐久間さんに一通り教えてもらったおかげで、今までよりも簡単に園芸部の日記を書けるようになってきたかな。

 

 「お、さくさくもそのゲームしてるんだー。」


 パソコンのシャットダウンを待っていると、渡辺さんの声が耳に届いた。


 佐久間さんは椅子に座ってスマホを弄っており、その後ろから渡辺さんが背もたれを掴んでその画面を覗き込んでいる。

 

 多分、あのスマホソシャゲの事かな?


 「レベル100!?メッチャやりこんでるじゃん!」


 レベル100、といえば確か殆どのゲームだとキャラクターの最高レベルに設定されてる数字だっけ。

 とは言っても、ソシャゲも果たしてそうなのかは分からないけれど。


 「あ、その・・・・・・ちゃんとしてないと配信・・・・・・じゃなくて、ハイレベルになれないッスからね。」


 「お、ガチ勢ってやつ?良かったらあたしとフレンドならない?」


 彼女のその提案に、いいですよ、と頷くとスマホに何らかの操作をしている。


 それを見て渡辺さんもスマホを取り出して佐久間さんの画面を覗きながら何かしらを操作し始めた。


 佐久間さんもしてるんだ・・・・・・。

 ちょっと後でアプリサイトで見るだけ見てみようかな。


 ・・・・・・と、無事に電源が消えたかな?

 鳴っていたヴィイイイン、という機械音が鳴りやんだ事に気が付いてパソコンの方に目をやる。

 うん。パソコンのスクリーン、横の縦長の機械のランプも消えてる。


 席を立ち、その二人の方へと歩いていく。


 「お待たせ、終わったよ。」


  

 ピロピロピロリン


 「今日は私の番だね。」


 ゴチになるねー、といつもの調子で彼女が八重歯を見せて笑う。


 「その、お世話になるッス。」


 佐久間さんはオドオドとした様子?で小さく私に頭を下げた。


 「今日はなんか、軽めのもの食べたくない?」


 「あー・・・・・・うん、そうだね。」


 パンが続いているもんね。

 しかもボリュームのあるのが続いているし。


 軽めのもの・・・・・・やっぱりお菓子コーナーかな。


 「さくさくは何食べたい?」


 佐久間さんの体がビクリ、と震えその口がモゴモゴと動く。


 「わ、私は特にないです・・・・・・ないッス。」


 そうなの?と首を傾げて彼女が自身の金髪をくるくると指先に巻く。

 

 陳列棚の十字路を目的のコーナーの方に曲がると、早速それらのラインナップが目に飛び込んでくる。


 あれ、ちょっと前見た時よりも商品が入れ替わっているかも。

 どれがどう変わったのかは分からないけれど、ちょっと並びに違和感がある。 

 

 コンビニも人を相手に商売しているわけだし、売れない商品は頻繁に入れ替わっているのかな。

 だとすると埋もれた逸品をみすみす食べ損ねる、なんて事態がもし起っちゃったら・・・・・・やりきれなく感じてしまう。


 「うーん・・・・・・今日は上原っちの番だから任せるし!」


 「私もセンパイの食べたいもので大丈夫ッス。」


 う、任された・・・・・・。


 二人の胃袋を握っている、と考えると緊張してしまう。


 「うん、わかった。」


 ・・・・・・どうしようかな。


 お、ポテトチップス・・・・・・でも、お菓子の割にはボリュームあるもんね、アレ。

 食べてると指が油でヌルヌルするから軽くはないよね多分。 


 スナック菓子・・・・・・チョコ味やイチゴ味も今の私の軽め、というイメージにはそぐわないかもしれない。


 手で摘まめて、そんなに量が無いものって無いかな・・・・・・。


 「おっ。」


 目に飛び込んできたその商品。

 いいのを見つけてしまったかもしれない。


 一つ手に取ってみる。


 「お、クッキー?いいじゃん!」


 でも、次にその値段をみた彼女は、


 「高っか!」

 

 とその棚に貼られた値段を見て普段より幾らか低い声でそう口にする。


 「2百円くらいしますね、それ・・・・・・。」


 あれ、これってそんな値段するんだ。

 小さいクッキーが5枚入ってこの値段かぁ。


 そういえば、普段って150円を超える事って滅多に無かったっけ。


 一人一つ当たるように買う、ってなると確かに高いかもしれない。


 「でもさ、それ色がカワイイよね。マカダミアって響きもいいし。」


 色は確かにぬいぐるみみたいな色をしていて可愛いかもしれないけれど、マカダミアってかわいい・・・・・・のかな?


 佐久間さんはというと、私が手にもつそれを見たまま僅かに口の端を上げ、そこに人差し指を添えている。


 「それじゃあ、2つ買って3人で分けるのはどう?」


 5枚入りだから最後の一枚はジャンケンか争奪戦になってしまうけれど。

 

 それに、私もこれ食べたいし。


 そういえば、クッキーってアメリカでの焼き菓子をそう言うらしい。

 思い返せば、セサミストリートというアメリカの子供番組でクッキーモンスターってキャラクターもいたっけ。 

 

 すぐ横にチョコチップクッキーも陳列されている。

 ザ、アメリカって感じがするなぁ。


 今度買ってみようかな。

 

 「おお、それ乗った!」


 渡辺さんがそこから私の手にもつ物と同じものを手に取り、私にへと手渡す。


 「さくさくもそれでいい?」


 その言葉に彼女が頷き、そのくるんと内側に巻いてあるボブヘアーをたゆん、と靡かせた。


 「じゃあ、行ってくるね。」


 そのまま私は手にした二つをレジへと持って行った。


 

 「「「いただきます。」」」


 渡辺さん、私、佐久間さんの順で座りいつもの言葉を口に出す。


 コンビニの袋の中からさっき買ったものを二つ取り出し、それぞれの口を掴んでピッと開き中から取り出す。

 プラステックの容器に入った5枚のクッキーが露わになり、それを一つずつ右と左の膝の上へ置く。


 「ちっちゃいねクッキー、かわいい。」


 渡辺さんが一枚を手に取り、早速サク、と齧りつく。

 んん、と目を細めてじっくりと口をモグモグと動かしている。


 「いただきます。」


 反対側に座っている佐久間さんがそう呟くと、もう片方の膝に置いた容器からクッキーを一つ取り出して口に運ぶ。


 サクッ、と良い音が鳴り、それからくぐもってサクサク、という音が耳に届く。

 目を閉じて・・・・・・味とか香りを楽しんでいるのかな?

 

 その二人の様子に影響されて堪らず右膝の容器から一枚手に取る。


 「ん・・・・・・。」


 分厚めかも。一センチちょっとくらいあるかな。


 表面だと思われる方は薄い卵色をしていて、そこに大小のナッツが埋め込まれている。

 コリコリとした食感がしそうだな。


 裏は・・・・・・おおっ、こっちもすごいかも。


 生地が一枚一枚、まるで花びらの様にぎっしりと詰まっている。

 すごくサクサクするんだろうなぁ・・・・・・。


 よし、行こう。


 一口齧る。


 サクンッ


 「んっ・・・・・・。」


 サクサクしてる・・・・・・。

 

 ぎっしりと詰まった生地を歯ですり潰すとザクザクという食感に変わって楽しい。

 そして、たまにぶつかるマカデミアのコリッとした感触。


 そこにぶつかるたびにナッツとクッキーとの香りが混じって鼻から抜けていく。


 ナッツがちょっと苦めなのかな?

 それが入っているから普通のクッキーよりも甘さが控えめに感じるかも。


 「すっご・・・・・・口の水分持ってかれるし。」


 「牛乳とか紅茶とか欲しくなります・・・・・・ッスね。」


 ミルクに紅茶・・・・・・絶対合うな、これ。


 ちびちびと隠れたナッツを探りながら齧っていたそれの最後の一口を口に入れて咀嚼して飲み込む。


 次は思い切って一枚丸ごと行ってみようかな。


 次の一枚を手に持ちそんなことを考えてみる。


 そしてその欲望のままに丸々一枚を口に放り込んでみる。


 う・・・・・・ん、ちょっとおっきすぎた。口の端がクッキーに押されてちょっと痛い。

 なんとかそれを奥歯でかみ砕き、細かい破片いくつかと小さい破片に変化させる。


 「ん・・・・・・。」


 ナッツの香りがさっきよりも増して口の中を循環して鼻から抜けていく。

 そしてクッキーの甘味とナッツのほろ苦さが舌を刺激してくる。


 美味しい。


 「あ、あたし3枚もう食べたよ。」


 「私も食べ終わりました。」


 ふと二つの容器を見ると、クッキーが残り一枚になっていた。


 「今日は上原っちにゴチになってるし、たべちゃいなよ上原っち。」


 「センパイ、どうぞ。」


 てっきり早い者勝ちかジャンケンになるのかと思ってしまった・・・・・・。


 じゃあお言葉に甘えて・・・・・・。


 ありがとう、とその最後の一枚を摘まみ、口に入れる。

 そして気持ち早めに咀嚼してゴクン、と飲み込む。


 その時、いつものアナウンスが鳴った。


 「それじゃ、帰ろう二人とも。」 

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