ふわふわちぎりパン inチョコクリーム atソシャゲ

 「やっぱさー、皆アプリでソシャゲって入れてるのかな?」


 放課後の掃除の時間。女子トイレの掃除が終わり、他に一緒に掃除していた子が先生に終了の確認を貰うべく職員室へ向かった。

 待っている時間中にふと見ると、渡辺さんがスマホを取り出していた。


 「ほら、これ。休み時間とかに見ると皆しててさー。」


 そう言って彼女がスマホの画面を見せてくる。


 そこにはとあるゲームが写っており、それはよくテレビCMでも見るパズルゲームパ〇ドラだった。

 全世界で・・・・・・何万ダウンロードだっけ?とにかくものすごい数のダウンロードをされたゲームってしてたかな。


 そういえば私がスマホを買ってもらった時に最初から入っていたっけ。

 思い返せば一度も起動してないや。


 「上原っちはやったことある?」


 画面に視線を落としたまま指をフリックしてスクロールさせ、誰かが書いたであろうレビューを目で追っている。


 「いや、私はあんまりしないかな。」


 やれば面白いのだけれど、あのスタミナ制というのが私の肌に合わなそうだと思った。

 子供の頃はお姉ちゃんとマリオカートとかをしたことはあるし楽しかったけど、あれは自分たちでいつでも始められてやめられる方楽しかったというのもあると思う。

 スタミナ制度だと毎日溜まるスタミナを消費するべくアプリを起動して消費して・・・・・・アプリに遊ばれてるみたいでなんか嫌だ。


 「そっかー、上原っちってゲーム自体そんなしなさそうだもんねー。」


 伝記とかハリポタとか読んでそうだよね、と私の顔を見る。


 私も人並程度にはゲームはしたことあるんだけどな。

 そのつもりだけれど、私ってそういうイメージあるんだ。


 そうかな?と首を傾げてみて彼女の画面を覗き込む。


 レビューには星5のレビューがズラリと並んでいて、相対的に星1のレビューが目立つ。


 「なんでつまらないって言ってるのに続けてるんだろうね、この人。」


 彼女が眉間にしわを寄せて首を傾げる。


 「アプリが消せなくなるウイルスにでもかかったのかもね。」


 とっさに、ふと口にしてしまった本音に冷や汗が噴き出る。


 「あ、いや、そうじゃなくて・・・・・・その・・・・・・。」


 どうしよう、どうしようキツイ人って思われたら。ヤバい奴だって思われたら。

 嫌われたらどうしよう。 


 「あははっ、それ面白いね。」


 肩を上下に揺らして彼女が笑う。


 「上原っちって冗談も言うんだね。」


 その冗談好きだなあたし、と八重歯を見せた。


 

 ピロピロリン。


 「今日はあたしの番だっけ?」


 彼女が自身を指指すが


 「ううん、私の番だね。」


 その言葉にその手でそのまま頭を掻いて、ゴチになるね、と軽く頭を下げた。


 「そういえばさー、この間さ、あたしがバイトで行けなかったじゃん?」


 「バイト・・・・・・うん、そうだったね。」


 私がそう返すと、ちょっと聞いて?と続ける。


 「土日祝だけって言われて今の所でバイトしてんだけどさー、急に入れられさー。」


 「急だったんだ。」


 そういえば当日急に行けなくなった、って言われたんだっけ。


 「そうなの!マジあり得ないし、と思ったけどまあお金貰えるなら、と思って行ったらさー・・・・・・。」


 どうしよう、佐久間さんと食べた時の事思い出してパンの口になってきたかも。

 あの時はバターロール食べたから・・・・・・。


 「あ、あたしレストランみたいなとこでバイトしてんだけどさ。キモい男に声かけられちゃってマジ最悪だったし。」

 

 彼女がブルっと身震いした。


 「それは大変だったね。」


 お、今これが私の舌が求めているのかもしれない。

 ジュワっと唾液が出てきた。


 マジキツかったし、と大きなため息を吐くと私が手に取ったそれを見て来る。


 「お、かわいいじゃんそれ。」


 ふわふわちぎりパンのチョコクリーム味。


 7つの山とその間に谷が出来ており、名前の如くそこを掴めばちぎりやすそうな見た目をしている。


 なにより、白い見た目がとても柔らかそうだった。


 

 「はい、渡辺さん。」


 袋からパンを取り出して真ん中白い山を二つにちぎる。

 やや見栄えが悪くなっちゃった。

 

 そして一つを彼女へ手渡す。


 「ありー。」


 改めてその手から伝わる感触。

 思いのほか厚みがあってそして白い生地というのもあってそのふわふわ感が雪を思い出させる。

 ちぎられた断面からは薄茶色のクリームがはみ出ており、白いパン生地と挟まれた茶色とが互いに尊重合って主張してくる。

 

 ちぎってくださいと言わんばかりに谷を作っていたそこをひねってちぎる。


 ん、綺麗にちぎれた。


 そして早速それを口の中に入れる。


 唇で押すと押し返してくるふわふわは歯で噛むと何の抵抗もなくスッと力に逆らわずに噛むという行動を受け入れてくれる。

 そしてその歯がクリームに達すると、コリッとまるでナッツを噛んだ時みたいな歯ごたえを受けた。


 もしかして、大きいチョコかな。


 注意深くそれを舌の上で転がしてみると、やっぱりチョコだった。


 てっきりドロドロに溶かされたチョコがあると思ったけれどそれは違って、本当は板チョコみたいなのをゴリゴリと削ったものが挟まれているんだろうな。


 食感が楽しい。

 噛むたびにそのチョコの破片が無いが歯が遊んじゃうな。


 次の一口を意を決して下品に、ちぎらずにそのまま口に入れる。


 もふ、と何か柔らかいものに顔を埋めたみたいにフモフモとして気持ちいい。

 そして歯で噛みちぎり、口の中で今度は舌をうまく使って先に中のクリームだけ舐めとってみる。


 う、思いのほか大きくて気を付けないと口からでちゃいそう・・・・・・。


 悪戦苦闘しながらチョコの海に舌を泳がせていると、何個もの大きな破片がサルページされる。


 それを奥歯へと持っていき、ゆっくりと・・・・・・しようと思ったけど、唾液で溶け始めてきたので慌ててカチン、と噛み締める。


 ガリガリッと砕けてチョコそのものの甘味とほんのり苦み、ドロっとした舌触りが広がる。


 鼻から抜ける息がチョコ味になり、鼻から息を吐き出すたびにその匂いがする。


 最後に手元に残ったパンのお尻を口の位置へ持ってくる。


 なんだか可愛いかも。

 小動物、白いチワワとかハムスターのお尻みたいにも見える。

 ここだけ胴体と違ってふわふわ感が増しており、ふりふりと振っては口に入れないの?と誘惑してくるみたいだった。


 誘惑されたら従っちゃうのが食欲だよね。


 それを口に入れ、何度もふわふわを味わった後にゴクン、と飲み込む。


 「「ごちそうさま。」」


 いつもの列車のアナウンスが鳴る。


 「それじゃ帰ろう、渡辺さん。」

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