極細Pocky50本入り atバスケ

 「上原っち!こっち!」


 その声が前から聞こえてきてとっさに前にボールを放る。


 バァン、と何度もバウンドしながらその声の主である彼女の元へと飛んで行く。


 それを受け取ると素早く方向をゴールの方へと向け、腰を落としてそれをドリブルさせる。


 目の前には二人立ちふさがっていた。

 一人はボールを持つ彼女の様子を探っていて、もう一人は腕を伸ばしてゴールへのボールコースを妨害している。


 その時、彼女の顔がニヤリと歪む。


 次の瞬間、キュキュッと体育館の床と運動靴とが素早く擦れる音が響き、彼女の体が二人の方へと突っ込んでゆく。


 いや、体を捻りながら二人のディフェンスを躱してゴールポストの方を見ている!


 そして彼女が膝を曲げ、その反動でグン、と高く飛び上っては体を弓なりに逸らせ、手に持ったボールをゴールへ叩きつけた。


 ダァン。


 そして小さく何度もバウンドするボール。


 ホイッスルが吹かれるのと同時に、試合終了の時間を告げるタイマー音が鳴り響く。


 「よし、では皆着替えて次の授業の準備をするように。」


 担任の先生の言葉に皆がぞろぞろと更衣室の方に向かって歩いてゆく。


 「さっきのダンクどうだった?」


 私の肩が2回叩かれ、その肩の方を向くと渡辺さんが立っていた。

 長い金の髪は後ろで束ねられており、その額にはじんわりと汗を掻いている。


 「あ、うん。凄かったよ。」


 彼女ほどの身長があれば、私にもダンクシュートってできるのだろうか?

 いや、無理だろうなぁきっと。


 さっきだってタイミング分からなくてボールを投げたら変な方向に行っちゃって、渡辺さんがわざわざそれに合わせて取りに来てくれたし。

 そんなミスを露ほども思わせない鮮やかなステップとシュート。


 私とは体の造りが全然違うんだろうな。


 「ところで、あたし今大丈夫?汗臭くないかな?」


 そう言って腕を上げて脇に鼻を近づけ、スンスンと鼻を鳴らしている。


 「大丈夫だよ。特に臭いはしないかな。」


 私の言葉にそっか、と返すと額に滲んだ汗をジャージの裾で拭った。


 

 テロテロテロリン。


 「今日はあたしの番だね。」


 私の前をいつもの軽快な足どりで歩いてゆく。


 「あ、そういえばさ。昨日さくさくに会ったんだよねー。」


 さくさく・・・・・・この間のパソコン教室で会ったあの子かぁ。


 「わざわざお礼を言いに来てさ、かわいい子だよねー。」


 商品を見ながら彼女がふふ、と弾ける笑顔を浮かべる。


 彼女の見ていたのはお菓子コーナー内のチョコ菓子が置かれているコーナーで、そこには様々な種類のチョコが置かれていた。

 抹茶やイチゴの王道な味付けに加えて、バナナ味なんてのもある。

 バナナ味・・・・・・そういえば、食べたことは無いけれどお祭りの屋台でチョコバナナってのがあったっけ。

 ああいうのがあるくらいだ、きっと合うんだろうなぁ。


 いつもチラりとみていて熟知していたつもりだけれど、ここも本当に色々あるなぁ。


 「お、これお得じゃない?」


 彼女が一つそこから手に取る。


 その手にはポッキーが握られていた。


 「これ、50本も入ってるんだね。」


 パッケージにデカデカと書かれて自己主張してくるその数字。

 

 「それに、トッポからのポッキーってさ、なんかオシャレじゃない?」


 そう言って彼女が手に持つそれを振ると、少しくぐもってカラカラという音がした。

 

 音で分かる。

 これは、結構ギッシリ入ってそうな気がする。


 その感触にずっしりじゃん、と呟き満足げにレジへとそれを持って行った。 



 「はい、上原っち。」


 いつもの所に座り、パッケージを開けた渡辺さんからその中身の袋を手渡される。


 お、この袋何気にスゴいかも。


 袋に切込みが入っていてとても開けやすそう。


 ここを持って上下に引っ張るのか。よし・・・・・・。


 グイ、とそこを掴んで引っ張ると、するするとビニールが割けていってその口がパッカリと開き、その見た目は鳥のクチバシが上下に開いた見た目を思い出した。


 「開けやすいねコレ。」


 彼女も同じように袋の口を開け、早速一本をその手に持っている。

 そしてそれを口に咥え、ポリポリと音を立てながらそれが彼女の唇の間へと飲み込まれてゆく。


 こちらも一本取り出す。


 普通のポッキーを食べたこともあるけれど、これは一回り細いかな。

 あのサイズを知っているとこの細さは可愛く見えるかも。


 そのサイズ感がなんだか楽しくなって、摘まんだ指の腹ででコロコロと回してみる。

 よく見てみると、チョコは完全に均等に塗られているわけではなく、ボコリと盛り上がっているところもある。

 ちょっとお得感を感じてしまう。


 よし、まずは一口・・・・・・。


 指の動きを止めて、口に咥えポキンと折る。

 

 チョコ部分が舌に触れると最初はヒヤっとした。でも、すぐにそれがそこの温度で溶けだしてフニュフニュになってゆく。

 

 お・・・・・・これってもしかしてビターチョコレートなのかな?

 ほんのり苦い。

 鼻から抜ける香りが上品かも。


 あっ、もうチョコが剥がれちゃった・・・・・・。

 芯の生地はまだまだ硬く、食感が楽しめそう。


 前歯で噛めばポリポリと、奥歯で噛めばゴリゴリと音がして予想通り楽しい。


 でも、これ一本だけじゃすぐ溶けちゃうな。


 よし、はしたないけれど・・・・・・。


 2本一気に掴んで口にインする。


 うわっ、ビターだからものすごい濃厚なチョコの香りがする。

 舌にまだビターが残ってる。


 そして二つのカチカチな芯を両奥歯それぞれで一気に噛む。


 ゴリゴリッ。


 一度噛んでもまだ大きい破片があるので、何度もそれを繰り返して飲み込む。


 そしてふと、持ち手の部分を口に入れて気が付く。

 ここ、なんだか味が変わってるかも。ちょっとしょっぱい?

 

 次にあることを思い立ち一本を取り出す。

 そしてそれを一気にポリポリと全部口の中に入れる。


 これ、また口の中で味が変わった。

 チョコとしょっぱさとが合わさってとてもマッチしている。

 次が欲しい。この味をまた求めてる私がいる。


 2本、3本と一気に食べてゆくうちに、気が付くと袋の中が空になってしまっていた。


 「「ごちそうさま。」」


 その時、いつもの列車のアナウンスが鳴った。


 「それじゃ帰ろ!上原っち。」

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る