TOPPO 紅ほっぺ&章姫 at「ぱそこん」なるもの

 「上原っち、まだー?」


 渡辺さんが私の後ろからパソコンの画面を覗き込んで両肩をんでくる。


 「ごめん。手間取っちゃって・・・・・・。」


 部活の花の記録を学校のホームページに記入していく。

 

 放課後、パソコン教室に寄る用事があるというと彼女が付き合うよ、と一緒に来てくれた。

 最初の内はジッとパソコンの画面を見ていたが次第に退屈してきたらしく、パソコンについている埃を指でなぞってはそこに息を吹きかけたり、鞄からスマホを取り出して弄ったりしていた。


 よし、花の紹介と記録はこんなもんでいいかな。

 次に写真フォルダを呼び出して・・・・・・あの写真は・・・・・・あれ、どこにいったんだろ。

 マウスをスクロールしてもその写真がどこにもない。

 まさか消しちゃった?


 鞄の中からスマホを取り出してその写真を確認する。

 良かった。写真は消えてない。

 いや、そうじゃなくて。

 だとするとどこに行ったんだろう・・・・・・。


 えっと、スマホの写真をパソコンにってどうすれば出せるんだっけ。

 

 ああっ!せっかく入れた文字を全消去しちゃった・・・・・・。 

 変な汗かいてきた・・・・・・。


 すると渡辺さんがちょっと待ってて、と言って離れた場所で同じようにパソコンを使っている人、1年生かな?その人に何かしら話しかけると椅子から立ち上がってこちらへ歩いてきた。


 「何か困ってることが?」


 ボブヘアーのその子は前髪を右手で方側に寄せると、私の画面を覗き込んできた。


 「あ、えっと。うっかり入れた文字を全部消しちゃって・・・・・・。」


 なんとかできる?と彼女の顔を見る。


 口元のほくろが印象的だった。


 私の言葉にすぐ終わりますよ、と言って私の手を置いたマウスの上から重ねて手を置く。

 私の手と比べるとかなり白く、その爪は綺麗に整えられている。


 「んじゃ、私が操作するんで良くみててください。」 


 そう言うとマウスを動かし、事細かに説明をしながらその消えた文字を復活させてくれた。

 さらに、その日記に私が今までに見たことが無い文字で飾り付けをしてくれた。


 今までは事務的に花の様子を書いていただけなのに、これらを見ると自分で書いたのにも関わらずとても楽しく読めそう。


 「と、こんな感じはどうです?」


 マウスからその手が離れていき、彼女がふぅ、と息を吐いた。 


 「チョーかわいいじゃん!」


 興奮した声で渡辺さんがその完成品と彼女とを交互に見る。


 「すごいじゃん!・・・・・・名前なんて言うの?」


 「これですか?これはAAアスキーアートと言って・・・・・・。」


 「違う違う。あなたの名前!」


 渡辺さんがいくらか落ち着いた声で自分自身と私に指を指す。


 「あたしは渡辺で、この子が上原っち。2年生なんだー。」


 せ、先輩なんですね、と目に見えてその子が戸惑う。


 その反応に渡辺さんが含み笑いをしながら


 「いいしいいし!なんならタメで喋っちゃお!」


 そして戸惑う彼女の手を握る。


 「佐久間って言います。よろしくおね・・・・・・よろしくッス。渡辺センパイ、上原センパイ。」


 

 テロテロテロリン。


 「何にするー?二人とも。」

 

 いつものコンビニへ見慣れない光景で入店する。

 普段であれば目の前に金髪の後ろ髪だけだけど、今日はくるんと丸まった黒の後ろ髪も一緒に目に映っている。

 

 パソコン教室を後にした私たちは、渡辺さんの「この後時間ある?」の一声で佐久間さんを加えた3人でいつもの帰り道の買い食いへとり出していた。


 「あの、私も一緒で良かったんスか?迷惑なんじゃ・・・・・・。」


 佐久間さんがキョロキョロと私と渡辺さんの顔を見る。


 「勿論に決まってんじゃん!」


 と、渡辺さんがいつもの笑顔をオドオドとしている彼女へ向ける。


 「さっきはとても助かったから、そのお礼だと思ってくれれば嬉しいかな。」


 私の方はいくらかぎこちない笑いになってしまったかもしれない。

  

 お世話になるッス、と彼女が頭を下げる。

 癖っ毛なのかな。ぷるんと横髪が揺れた。


 「さくさくの好きなのってなに?」


 え、さくさく?


 「さ、さくさく・・・・・・?」


 あ、佐久間さんもポカンとしている。


 「佐久間ちゃんってなんか固い気がしてさー。ダメだった?」


 佐久間の・・・・・・さくさく・・・・・・。


 「あ、いえ。好きな風に呼んでくれると嬉しいッス。」


 彼女が渡辺さんから目を逸らして頬を掻いている。


 上原っち・・・・・・うえうえは流石に変だよね。


 「上原っちは今日どうする?」


 その言葉に今日は私の番だということを思い出し、今の自分の食欲のセンサーを伸ばして商品棚を見ながら一歩一歩と顎に手を添えて歩いてゆく。


 そういえば、前来た時に気になったのがあったんだ。

 その時の自分を憑依ひょういさせ、スナック菓子の並ぶ棚の前へと足を進めさせる。


 あの時の・・・・・・お、これだったかな?

 いちご味のトッポ。


 「いちご味ですか?美味しいッスよね。」


 好きなんスよイチゴ、と私が手にしたそれを覗き込んでくる。


 「しかもこれ、期間限定のヤツじゃない?」


 目ざといね上原っち、と渡辺さんが同じように覗き込んでくる。


 「それじゃあ、レジ行ってくるね。」


 「私も払います!・・・・・・・払うッス。」


 佐久間さんが制服の胸ポケットから定期入れを取り出す。


 いいよ気にしないで、とその手を制し私はレジへと歩いて行った。


 

 いつもの席にいつもの様に渡辺さんと座り、その隣に佐久間さんが座る。


 ビリっと開け口にそって買ったそれを開けると、中から二つの袋が出てきた。


 「お、丁度二袋じゃん!」


 渡辺さんがぱぁっと八重歯を見せるが、隣に座っている佐久間さんの顔を見てそっか、と呟き


 「ごめんごめん、普段はあたしと上原っちの二人で食べてるからさ。」


 そう言い彼女が中から袋を一つ取り出し、ピッと口を手で切り取る。

 そしてはいっ、と佐久間さんへその口を向ける。


 「い、いえ・・・・・・気にしないでください・・・・・・ッス。」


 そう口にしその手を伸ばす。

 でも、迷うように人差し指を伸ばしたり曲げたりをしている。


 すると、渡辺さんはその袋から一本を取り出しその端っこで彼女の唇をつつく。

 ぷるぷるとした唇がむにむにと押されてそこに谷と山とが出来、突かれるたびに消えてはまた出来上がる。


 そして不意に唇が僅かに開き、そこにトッポがねじ込まれる。

 その彼女が口に咥えたトッポを自らの手で持ち、パキンッと折る。

 そしてモッモッと口が動き、その動きが何度か繰り返された後に喉がゴクンと動く。


 「すごく、いちごの味がして美味しかったです。」


 今までのどこか遠慮しがちな顔からそれがいくらか取り除かれ、笑顔が現れる。


 そして次の一口を口へと入れる。


 それを見た渡辺さんも袋から一本取り出し、パキンと一口齧る。

 目を閉じてザクザクと味わうようにそれを何度も噛み締めた後に、喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。


 「おお、ホントだ。濃厚なStrawberryストロベリーだね。」


 ネイティブな発音。

 巻き舌の発音の所とか私じゃできない。


 そんな二人に続き私もその袋から一本を取り出す。


 木の幹みたいな茶色に、そこに小さな動物の足跡のような模様が入っている。

 そして、上下の縁から見える桃色。


 ふと、いつぞやのCMでやっていた「最後までチョコたっぷり。」というフレーズが頭に浮かぶ。

 これは確かに最後までタップリ詰まってそう。


 そう思うとこの手から伝わる重さがなんだかズッシリとしてきたかも。

 

 一口かじる。


 サクッ。


 外のクッキー生地はツルツルで、そこを舌で滑らせると変わった感触がして面白い。

 そして中に詰まったいちごチョコが咀嚼そしゃくする度に溶け出す。


 すごいなこれ。本当にすごくイチゴだ。

 酸っぱいあの感じもする。


 次の二口目で恐ろしいけれど魅力的なことを思いつき、自分の口の端が上がるのを自覚しつつ一口目よりも多めにそれを口に入れて歯で折る。


 まず歯を使って真ん中に傷を入れてパカっと生地を剥がし、裸となったいちごチョコをじっくりと舌を扱って舐める。

 舌が・・・・・・・舌が、いちごになってしまう・・・・・・。


 そして、最後に残った半分の生地を豪快ごうかいにかみ砕く。


 唾液のせいで大分ふやけてしまっているがそれでもサクサクとした食感は完全に損なわれてはおらず、その音が口の中を反響して耳の奥を震わせる。


 ふと気が付くともう二つ目の袋も空いており、私と渡辺さん、そして佐久間さんの手がその中をガサゴソと鳴らしていた。


 そして。


 「「「ごちそうさま。」」」


 その時、いつもの電車のアナウンスが鳴った。


 「それじゃ、帰ろう二人とも。」 

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