マクドナルドのポテトSサイズ at部活動
「付き合わせちゃってごめんね、渡辺さん。」
「ううん、気にしなくてもいいし。後はもう帰るだけだしさー。」
緑色の大きなジョウロを手にゆっくりと歩いていく。
歩くたびにタプタプと音がして、その口から水滴が飛んで地面へ落ちる。
様々な運動部の人たちがジャージ姿やユニフォーム姿で走りすぎて行く。
この間の体育の時を思い出し、太ももを触る。
次の体育は体育館でバスケみたいだから、そんなに走らなくても済む・・・・・・のかな。
グラウンドの方向からは野太い男性の声が響いてくる。
野球部だろうか。
時々カキーン、と金属の甲高い音も聞こえてくる。
「花壇ってこれ?」
渡辺さんが視線を送る。
そこには黄色とピンクのチューリップが植えられていて、風にそよいで花が揺れている。
その柑橘系っぽい香りとバニラみたいな匂いがふわりと漂ってくる。
彼女を見ると、スンスンと鼻を鳴らしている。
「うん、ちょっと待っててね。」
手に持ったジョウロを傾け、チョロチョロと少しづつ水をそそぐ。
花の葉っぱに水滴が玉を作り、そこをツルンと滑って葉先へ、そしてその重さで水滴が花壇の土へと落ちそこを湿らせる。
ジョウロのシャワーが虹を作り、チューリップの黄色とピンクに7色が装飾されてとても綺麗だった。
「これ、いい香りするねー。花ってこんな匂いするのかぁ。」
「うん。綺麗なだけじゃなくて、匂いもして楽しいんだぁ。」
はぁ、と大きく息を吐き、もう一度今度はチューリップに顔を近づけすぅっ、と息を吸い込んでいる。
私は次の花壇へと歩いて行って、また同じように水をあげていった。
「ねー、今日は何食べる?」
いつもの帰り道。
普段と比べて時間が遅くなったせいで、空の色が夕焼けから黒くなりかけていた。
「この間は肉だったし、次は野菜とか?それとも戻ってスイーツ的な?」
渡辺さんがムム、と唸りながら顎に人差し指を当てている。
この間の細長ジャーキー美味しかったなぁ。
味も勿論だけど、手に持てるあの細長い形もとても食べやすかった。
野菜かぁ・・・・・・。
ふと、朝学校を出る前に見たテレビCMを思い出す。
『よし、ちょいマックしてくるわ。』
マクドナルド・・・・・・。
そういえば、高校生になってから行ったこと無かったなぁ。
ちょいマックどころかガッツリも最近ない。
久しぶりに行きたい・・・・・・かも。
「マックのポテトなんてどうかな?」
私がそう言うと、それだ!と言って顎に当てていた人差し指を私に指してきた。
「いいじゃんいいじゃん!この間のヤツからそれっぽい形の食べたかったんだよねー。」
ポテトかー、と呟きながら口元が上がって歯を見せる。
「駅からちょっと歩いたところに大きなスーパーがあってさ。そこにマックあるんだよねー。」
駅の周りなんて滅多に歩いたことが無かったからそんな事全く知らなかった。
結構駅の周りを歩いてたりするのかな、渡辺さんって。
「そこでいい?」
その提案に私は頷くと、八重歯を見せて彼女がほほ笑んだ。
「いらっしゃいませ~。」
スマイルのかわいい店員さんが私たちを出迎えてくれる。
誰も並んでおらず、すぐに注文ができるみたい。
店の様子を見るとちらほらとまばらに人が座っており、黒いスーツの人や幼稚園くらいの子かな?その子とそのお母さんや、私たちと同じ制服の人が座っていたりしている。
「今日は私の番だね。」
カウンターに置かれたメニューを見ながら私がそう言うと、横からそこを覗き込みながらゴチになるね、と言っては奥で作業をしている制服の人を目で追っている。
ハンバーガーにセットに、お菓子の付いてくるハッピーセットと所せましに文字が羅列している。
うわっ、セットで800円くらいするのもある・・・・・・。
ポテトは・・・・・・あったこれだ。
あれ、ポテトのSサイズって前来た時あったっけ?
新しくできたやつなのかな。
この値段だったら二人で一つづつ頼んでも無理なく食べられそうだし、お得な気がする。
この間は二人で一つの物を買ったから戦いみたいになってしまったし。
「このポテトのSサイズを二つお願いします。」
「お持ち帰りですか、ここで食べて行かれますか?」
「ここで食べていきます。」
ではお好きな席にこの番号札を持ってお待ちください、と4番の札を渡される。
空いている席は簡単に見つかった。そこへ対面で座る。
「今ってSサイズってあるのかー。あたしが来たときは無かったし。」
手を上へと伸ばして伸びをしながら彼女が口にする。
「あれ、渡辺さんも知らなかったの?」
意外だった。つい最近ここへ食べてきたものだと思っていたから。
「うん、ここには転校してきてから一回だけね。ちょっと駅の周りが気になって。」
ということは2か月前くらいか。
その間にできた新しいメニューなのかぁ。
その時、4番の人を呼ぶ声がカウンターの方から聞こえてきた。
「じゃあ、行ってくるね。」
席を立ちそこへ向かうと、トレイの上になだらかな曲線のアルファベッドのMの紙の袋が二つある。
そこにはパンパンに膨れる程にポテトが入っており、ジャガイモの香ばしい匂いが立ち込めていた。
おまたせしました、とトレイと4番の番号札が交換され、それを持って席へ戻った。
「ちっちゃくてカワイイね、Sサイズ。」
テーブルに置いたトレイ、彼女はそこに載っている一つのポテトの口を自分の方へと向けた。
「結構量あるし、Sサイズで丁度いいかもねー。」
そう言いそこから一本のポテトを引き抜き、口へと入れる。
「やっぱウマいね。」
次の一本、そして次とポテトを抜いては口の中へと入れていっている。
私も手を合わせ、早速一本を引き抜き手に持つ。
一本だけ引き抜いたせいで上に乗っていたポテトが少し
ジャガイモのいい匂い。
先のとがった部分だけをまず
サクッと口の中で音がした。
それを奥歯で噛んでいくと、塩とイモの味が染み出してきて舌へと触れてくる。
次に真ん中まで口に入れて噛み千切る。
衣の堅い所が僅かばかりの抵抗を見せてきたが、クニッと押しつぶして切り離す。
ふわふわしてる。
蒸かしたジャガイモを割ってホクホクとしているあの光景が頭をよぎった。
そして塩の味。
これを味付けしているときってシャカシャカと振って塩で味付けしているのかな。
その場面を想像して一層お腹が減った気がする。
手にしたポテトの残りと口に放り込み、次の一本を取り出す。
目の前の彼女をみると、一本毎にそれを口に入れるたびにコロコロと表情を変えて美味しそうにそれを堪能している。
「ふふっ。」
今日の数学の授業の時はわからないところでもあったのか、授業が始まってから20分後くらいには感情が消えてぼーっとしてたような。
あの時の彼女とはあまりにもかけ離れた表情に、口から笑みが零れた。
「お、上原っちどうしたの?」
ポテトを手に持ったままそう尋ねてくる。
空調の影響でか、その金の髪がふわりとたなびいた。
「ううん、なんでもないよ。」
その笑いをごまかす為に、ポテトを取り口へと放り込んだ。
でも、普段よりもこの頬が緩んでいるような気がした。
食事が楽しい、かぁ・・・・・・。
これがそうなのかなぁ。
「「ごちそうさま。」」
携帯を取り出して時間を見ると、普段よりも1時間過ぎていた。
そんなに経っていたんだ・・・・・・。
「それじゃ帰ろうか、渡辺さん。」
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