高校2年の春学期

帰りによりみち

いちごクリーム大福 at初めてのよりみち

 「上原っち、一緒に帰ろ!」

 

 帰りのホームルームが終わるなり、渡辺さんが鞄を片手に歩いてくる。


 「あ・・・・・・うん、わかった。」


 席から立ち上がり、鞄を持つ。


 窓から差し込む夕日が眩しくてとっさに目を細める。


 まだガヤガヤと賑やかな教室、廊下を後にし階段を下りる。


 ジャージを着た数人の・・・・・・あの色は1年生かな。

 階段ですれ違う。


 「陸上部かな?」


 「いやー・・・・・・学校内だし卓球部とかあたりじゃない?」


 玄関へ着き、内履きから靴へと履き替える。

 

 「そういえば病院で渡辺さんさ。」


 この間の事をふいに思い出す。


 「食事の楽しさ、だっけ?それってどうやって見つけるの?」


 あぁ、と口から声を漏らしつつ、彼女は靴を履きながら呟きつま先を立ててトントンと床をたたいている。

 

 顔を上げ、顔にかかった髪を指で引っ掛けて耳に掛けた。


 「んじゃ、コンビニいこっかー。」


 「え?」


 急にコンビニ・・・・・・?


 「学校から出て駅までの間にセブンイレブンあったし、そこでなんか買ってどっかで食べて帰ろ!」


 確かに駅までの道にあるけれど。


 コンビニで食事の楽しさって、一体何を買うんだろう・・・・・・。


 そんな事を考えていたらコツコツと彼女が歩いてゆく。


 スラリと長い足なのでほんの数歩遅れただけでも結構な距離が空いている。


 「ちょ、ちょっと早い・・・・・・!」


 小走りで彼女の横に付きそう言うとごめん、と歩く速さを私に合わせる。


 

 テロテロテロリン。


 この入店音すごく久しぶりに聞いた・・・・・・。


 「何食べるー?アイス?パン?」


 店内を見渡すと夕方というのもあってお弁当のコーナーの品揃えがまばらで、中には1つや2つしか残っていないのもある。

 おにぎりのコーナーでは焼肉の具のが無くなってて、おかかおにぎりだけが結構な数残っている。

 パンのところも1,2つしか残ってないところも多い。


 夕方だから品ぞろえもまばらなんだろうな。


 渡辺さんの方を見ると、アイスコーナーを見て一つのアイスを手に取っている。


 「ハーゲンダッツって高いね・・・・・・いつもママが食べてるから気になってさ。」


 といい、そっと元の場所へ戻す。


 「あ、決まった?上原っち。」


 と言われても・・・・・・特に食べたい、って思うのは無かった。


 「私はなんでもいいよ。渡辺さんは何かある?」


 私がそう言うと、そっか、とだけ言い一つの陳列棚を見ている。


 見るとそこにはプリンやコーヒーゼリーなどのデザートがズラっと並んでいる。


 お弁当やパンと打って変わって、このコーナーの物は豊富に残っていた。

 

 「むむ・・・・・・。」


 そこへ近づいていき、顎に手を添えて唸っている。

 

 チラリと横目で私を見てくる。


 「本当になんでもいいんだっけ?」


 「うん。なんでもいいよ。」


 私が頷くと、彼女がパっと手を伸ばして一つの商品を二つ手に取った。


 「いちご大福?」


 桃色のビニールのパッケージ。そこには半分に切られたいちご大福が描かれている。

 

 「どう?あたしが今食べたいなーって思ったものだけど、これでいい?」


 「うん、アレルギーとかも特にないし食べられるよ。」


 そう言うと、嬉しそうな笑顔を浮かべてレジへと持っていく。


 「待って待って。」


 「ん?やっぱ他のにする?」


 「いや、そうじゃなくてお金。私の分は自分で払うよ。」


 「いいよいいよ。気にしなくてもいいし!」


 そういう訳にはいかない。

 このままはなんだかモヤモヤして気持ち悪い。

  

 「あ、じゃあ次買うときは私が渡辺さんの分も払うよ。」


 最も、次も付き合ってくれるならだけれども。

 

 「んー・・・・・・。」


 そういい、鞄の中から財布を取り出して中身を確認している。

 チラッと私と財布の中身とを交互に見ている。


 「じゃあ・・・・・・そうしよっかー。」

 

 苦笑いを浮かべ、そのまま再びレジの方へ向かった。


 

 定期券を改札にかざして階段を上ってホームへと辿り着く。


 すっかり日が沈み、夕焼けが遠くに見える。


 冷たい風が頬を撫でて、スカートとソックスの間がスースーして少し寒い。


 「お、あそこの長いす空いてるし!あそこで食べよっか。」


 渡辺さんがセブンイレブンのロゴが入った袋を片手に持ったまま、長いすの方に指をさしている。


 そのまま彼女に促されるまま長いすへと座る。


 冷たい・・・・・・。


 もう日が沈んでいるせいで外の風ですっかり冷えてしまっている。

 太ももの辺りが制服のスカートを挟んで何も着ていないものだからヒヤっとする。


 次いで渡辺さんが私の横へ座る。


 「つめたっ!」


 ブルッと身震いしている。

 

 「次は改札通る前のイスを見つけてそこで食べよっか・・・・・・。」


 「うん・・・・・・。」


 鞄を膝の上に置き、長く息を吐きだす。


 反対側に見える病院の広告が偶然目に留まる。


 もう病院のお世話にはなりたくないなぁ。

 一歩遅かったら拒食症というのになっていたとも先生に言われた。


 でも、栄養失調って言われても・・・・・・食べるのは辛い。

 

 「はい、上原っち。」


 ハッと彷徨っていた意識を戻すと、渡辺さんが私にさっき買ったいちご大福を差し出している。


 ありがとう、とそれを受け取る。


 彼女はピッとパッケージを開け、中身を取り出す。


 真っ白で柔らかそうで丸い大福が姿を現す。


 彼女がそれに人差し指を触れる。


 「おぉっ・・・・・・。」


 するとその指の腹がムニっと大福に沈む。


 柔らかっ、と呟き2、3度同じようにムニムニと腹を押し付けてはそれが沈む。

 

 表面に白い粉がまぶされているせいでそこにそれが付く。


 それに気が付き、人差し指を口の前に持っていきプルンとしていそうな唇から舌を出しペロッとそこを舐める。


 続いてその手で大福を手に持ち口の前へ持っていく。


 パラパラと白い粉が彼女のスカートへと舞い落ちる。


 そして口を開け、一口齧る。


 暫くモグモグと咀嚼し、喉がゴクンと鳴る。


 「うわぁ、すっごいいちごだ・・・・・・。」


 頬が緩んで口からふぅ、と息が漏れる。


 「あれ、食べないの?」


 「あ、うん。食べるね。」


 いそいそとパッケージのギザギザを端から手で破り、中から大福を取り出す。


 ・・・・・・ちょっとしてみたい。


 人差し指の腹を大福に押し付けてみる。


 「ふわぁぁぁ・・・・・・。」


 柔らかい・・・・・・。

 しかもさっきまでひんやりとする陳列棚にあったおかげでひんやりと冷たくて気持ちいいかも。


 ムニムニと何度か指を押し込むが、不意に人の目が気になったのでそれを人差し指と親指と中指とで支えて掴み上げる。


 やっぱり柔らかい。とっても柔らかい。

 ちょっと力を入れたらもっと指が沈んで行ってしまいそうだけど、それはなんとなく怖かったのでグッとこらえてそのまま口へ運ぶ。


 まずは一口食べてみる。


 まずあの柔らかい大福がむにっと唇と歯に触る。

 それに歯を立てると中の餡が溢れ出てきた。


 クリーム、次にジャムみたいなソースが舌に触れる。

 そしてとってもいちごの味がする。


 うわ、これってもしかしていちごの種かな?あのぶつぶつの。

 すっごくいちごだこれ。


 噛むとクニクニと大福の皮が口の中で踊って、噛むたびに新しい触感が舌を触る。

 

 そしてクリームとジャム。

 ひんやりとしているから飲み込むとその冷たさが喉を通って気持ちいい。


 気が付くと一口で食べてしまっていた。


 「う、上原っち食べるの早いね。」


 まだ一口分を手に持った渡辺さんが見る。


 「で、どう?食べることってたのしいっしょ?」


 歯を見せて笑いかけてくる。


 食べることが楽しい・・・・・・かぁ。

 やっぱりわからないかもしれない。


 美味しかった。でも、今日はただそれだけの感想しか持てない。


 「ごめん。まだわからないや。」


 つい俯きがちに言ってしまう。

 心配してくれてるのは分かるけど、それに応えられない自分がもどかしい。


 「そっかそっか。ま、これから見つけていけばいいんだし!」


 そう言い最後の一口を口に運び、名残惜しそうに何度も咀嚼しそして飲み込んでいる。


 その時、丁度電車がやってくるとのアナウンスが入った。


 「よっし、それじゃ帰ろっか!」

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