第20話 柳美月の告白
インターネット上の文章投稿サイトに、一つの文章が投稿された。
[柳美月です。本人です。ネット上に私のことがたくさん書かれていて、本当のことも一部ありますが嘘がとても多く、それが真実のように一人歩きしてしまっているので、本当のことを知ってもらいたくここに書くことにしました。
私と宮田朱里さんが同じクラスになったのは高校3年が初めてでしたが、私たちは1年生の時からずっと友だちでした。私は高校1年生の時にボランティア活動を始めました。泉川女子高校はアルバイトが禁止です。隠れてやっている子もいますが、私は両親からも禁止されていました。部活もしていないし、学校だけで過ごすのはつまらなく、大学受験が始まる前に何かを始めてみたいと考え、思い付いたのがボランティアでした。インターネットで探して、初めて参加してみたらそこに宮田さんがいたんです。それまでは同じクラスになったこともなく、喋ったこともありませんでしたが、なんとなく見覚えがあったので話しかけてみたら高校の同級生でした。初めてのボランティアで緊張していた時に出会えて心強かった。宮田さんは慣れているようで、私に優しく教えてくれました。それで仲良くなりました。でも、ボランティアをしているというのは照れるというかどこか気恥ずかしくて、人には言いたくなくて、二人だけの秘密にすることにしました。私たちは連絡先を交換し、ボランティアを一緒に探して参加するようになり、宮田さんは本当に友だちといえる存在になりました。3年生で同じクラスになってからも学校ではあえて親しくせずに、目があったらこっそり笑いあったりしていました。正直に打ち明ければ、大人しいというか暗くて目立たない宮田さんと友だちと思われることに抵抗があったのも事実です。
そして、インターネットに書かれていた一部の本当が私の父のことです。ご存じの方もいるようですが、私の父は作曲家の
その葬儀に、なぜか宮田さんがいたんです。驚いて話を聞くと、私が始める前にボランティアで一緒になったと教えてくれました。父は作曲家としての活動からは一歩退き、音楽を通じた社会貢献がしたいと話していたので、ボランティアで会ったというのも納得出来ました。
ですが、葬儀後父に隠し子がいることが分かりました。認知と遺産相続を求めてきたからです。それを聞いて私は予感しました。その予感の通り、隠し子は宮田朱里さんでした。私たちは異母姉妹だったのです。信じられませんでしたが、父の事務所の方が事実と認め、事務所から養育費が支払われていることも確認しました。
私より遥かにショックを受けたのが母でした。父はとても家庭を大切にする人でした。それなのに、隠し子がいて、私と同い年。母が私を身籠っていた時、宮田さんのお母さんも宮田さんを身籠っていたのです。父はどんな気持ちだったのか。娘が生まれた時どんな想いだったのか。今となっては知るすべがありませんが、父は隠し通しました。
亡くなって大きなショックを受けているところに、更にこういう現実が降りかかったのですから、母は食事も喉を通らないぐらいに憔悴し、やつれてしまいました。そういう姿を見て、私は以前のように宮田さんと仲良く出来なくなりました。連絡が来ても返さず、同じ教室にいるのも苦痛でした。
追いうちをかけるように、彼女はアイドルグループに入ったのです。よりによって父がいた業界に。亡くなったばかりなのにです。父の名前を利用したのは明らかでした。
それで私は宮田さんに冷たく当たるようになりました。すると空気を読んだというか、仲のよかった子達も同じように宮田さんに当たるようになってしまい、徐々にエスカレートしていつのまにかいじめのようになってしまいました。
それであの日のことです。公表されていないようなので、ここに書いてはいけないのかもしれませんが、避けては事実が伝えられないので許してもらいたいです。あの日彼女は1枚のチラシを持っていました。彼女の所属するアイドルグループ、ホシトソラのデビュー曲のチラシでした。そこに『柳生隆星最後の作品』と書かれていたんです。彼女たちのデビュー曲は父が作曲したものでした。思った通り、柳生隆星の子供とアピールして、父の名前を使ってアイドルになったんだ。デビュー曲にまで名前を出すなんてどこまで父を利用する気だと、感情的になって彼女の頬を叩いてしまいました。
言い訳がましくに聞こえるかもしれませんが、私はいじめる気はありませんでしたし、誰かに指示をしたこともありません。結果的にそうなってしまったのは事実ですし、私が宮田さんの顔を叩いたのも事実です。本当に申し訳なく思っていますし後悔しています。ですが、ネットに書かれているような、顔に怪我を負わせたことは絶対にありません。殴ったと書かれていますが平手でした。出血もしていません。眼鏡が割れたのは叩いた拍子に落ちて、それを踏みつけた子がいたからです。
私の方が誕生日が早いので私が姉になりますが、妹を死に追いやったとしたら本当に取り返しがつきません。ですが、彼女はあの日の出来事を理由に死を選ぶことはないと思います。あの後宮田さんから久しぶりにLINEが来ました。その画像を載せておきます]
最後に宮田朱里から受け取ったいうLINEのスクリーンショットが添付され、この文章は締めくくられていた。
[だまっててごめん。でもミヅキには絶対聴いてもらいたいんだ]
柳美月の投稿はすぐに拡散されて多くの人目に触れ、ネットユーザーはすぐさま反応した。
[こんなの信じる人いるの?]
[なりすまし乙]
[DNA鑑定早よ]
[捕まりたくなくて必死だな]
[いじめる人はみんないじめじゃないと言い張る]
[真実1%ウソ99%ぐらい?]
[ただの自己擁護]
[保身に満ち溢れてる]
[同じクラスになったのは高3からってとこだけ信じた]
[柳生隆星の娘ってのもマジみたいだぞ]
[生きてたらパパの力で揉み消したんじゃね?]
[生きてたら娘の殺し合い目の当たりにしてたのか]
[死んだから揉めてんだけどな]
[腹違いの姉妹ってマジ?証明できんの?ウソだったらとんでもないサイコパスだぞ]
[ただのヤバイ奴じゃん。引くわ・・・]
[LINE偽造してまで責任逃れって見苦しすぎる]
[暴力に変わりないんだから平手とか関係ないだろ]
[発表されてない裏事情までバラすってヤバくない?事務所訴えたら勝てるだろ]
[柳生隆星の莫大な遺産があるだろ。事務所の損失補填してやれよ]
[泉女だって損害受けたんだから、遺産全部使って償え]
[金はいいから、とっとと逮捕されろよ]
[こんな言い訳でごまかせねえから]
[はいはい死刑死刑]
匿名の書き込みを鵜呑みにし、記名の訴えは眉に唾をつける。新聞信者を嗤う者が、ネットの音頭に舞い踊る。右手に歪んだ物差しを、左手に傲慢な木槌を掲げた者たちがネット空間を行進していた。
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