第12話 小中学校の同級生 水口香の証言

「中学校の同級生です。ずっと宮田朱里さんと一緒のクラスでした。そうです、ニチヨルです。私は小学校も一緒だったので、9年間同じ学校でした」


 藤田明美が、他に事情を知っていそうな同級生として挙げたのが水口香みずぐちかおりだった。同じニチヨルでも藤田と異なり、水口は宮田と小学校からの同級生。求めに応じ、事情聴取に訪れた水口は続けた。


「正直仲は別に良くなかったです。明美も言ってたと思いますけど、朱里は浮いてたっていうか、大人しくて友達と仲良く遊ぶタイプじゃなかったので。いつも一人だったんで、卒業してから会ったりとかもしてないし。なので詳しいことは全然知りません」


 土曜日だから、水口は私服だった。淡いグレーのコートの下は、薄手の黒のニットに白のスカート。モノトーンの服装は好みのファッションなのか警察署だから落ち着いたものを選んだのか、前者のようにも思われた。


「高校でいじめに遭ってた・・・分かる気がします。小中はいじめはありませんでしたけど、性格っていうか、そういう雰囲気はありました。気づかなかっただけ、ってことはないです。ニチヨルは20人しかいなかったんで、いじめがあればわかります。隠してるとかでもないです。

 本当に朱里は大人しいっていうか、はっきりいうと暗くて。母子家庭で、一人っ子だったせいもあるのかな。人付き合いが苦手っていうか、あんまり人と関わりたがらないタイプっていうか、そういう空気出してたんで、周りもあんまり近づこうとしなくて。

 でも小学校の頃はそこまでじゃなかったんです。大人しいのは大人しかったんですけど、親友っていうか仲のいい子がいて。誰かに聞きました?聞いてません?ニチヨルは小学校が違う子ばっかりだったから知らないかな。黒須くろす中学校はほとんど黒須小出身で、同級生では私と朱里だけ朝日あさひ小でした。普通なら同じ小学校出身同士で仲良くするんでしょうけど、朱里はそうもしなくて。理由は、これから話すことと関係あると思うんですけど」


 水口は姿勢を正すように座り直した。その拍子に椅子の背もたれに掛けたコートがずり落ち、ボタンが床に当たる音が微かに聴こえた。水口は拾って背もたれに掛けなおしてから続けた。


「小学校の頃は朱里にも仲の良い子がいたんです。友だちって言えるのはその子ぐらいだったと思います。気があったんですかね、休み時間とかずっと一緒でした」


 瞬きをしたら見落とすぐらいの刹那水口は顔をしかめた。


「ですけど・・・、その子のお父さんと、朱里のお母さんが二人でホテルに入って行ったって噂が出て。

 朱里のお母さんは美人で、朱里に似て目が大きくて、って朱里が似たのか。それで、6年生の時です。朱里のお母さんは独身ですけど、相手の、そのお父さんには奥さんがいてって、朱里にとっては親友のお母さんですね。それで不倫って噂になって。二人は、朱里とその子は、お互いの家を行き来したりしてたから、そんなことになっちゃったのかなって。

 それから朱里とその子も全然しゃべらなくなって。それはそうですよね。その相手の子の両親は地元でレストランやってたんです。洋食屋っていうか。昼はランチで夜はディナー、当たり前ですけど。内装とかもちょっとおしゃれで、南国風っていうかハワイをイメージして、メニューもロコモコとかあって。大繁盛とまではいかないけど、普通にお客さんも入ってて地元では結構人気ありました。

 でもそういうことがあってから休みがちになって、お客さんも減って。結局離婚してその子はお母さんと引っ越して行きました。それで不倫は本当だったんだって。残ったお父さんが一人でお店続けようとしたんですけど、すぐに閉店して。元々お母さんの方が支えてたんで。しばらくしてお父さんの方も引っ越して行きました。

 それで朱里もお母さんと上手くいかなくなったみたいです。親友のお父さんと不倫して親友と離ればなれになっちゃったし、朱里も近所から変な目で見られるようになったからしょうがないですけど。

 相手の子の名前ですか?高岡優子たかおかゆうこって子です。今どうしてるかは分かりません。突然引っ越して、学校も転校しちゃったんで。連絡取ってる子はいないと思います。朱里も取ってなかったと思います。ていうか取れないですよね」


 藤田明美同様、水口香にも心痛した様子は見られなかった。宮田朱里が学校で置かれていた境遇を暗示しているようだった。

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