第7話 ホシトソラのメンバー 小田奈津美の証言
「それから少しして大きな音がしました。はっきりとではなく、遠くの方でなった感じでした。それでそんなに気にしなくて。こんなことになるなんて思いませんでしたから。でもだんだん胸騒ぎっていうか、へんな不安がメンバー間で伝染して、屋上に上がってみたら朱里の姿がありませんでした」
死の直前の宮田朱里の様子を語った小田奈津美は、気持ちを落ち着かせようとゆっくり目を閉じて肺を大きく伸縮させた。
死の直後にも事情聴取を受けたが、改めて話を聞きたいとの要請に応じ、グループ最年長で事実上のリーダーである小田が小川町署を訪れていた。
都内の女子大に通う二十歳の小田は学校帰りで、先日のポニーテールにスウェットとは対照的なベージュのトレンチコートに下ろした長い髪。手にしたトートバッグは有名ブランドのもので、長身と相まって、大人の女といった風采だった。
「変わった様子・・・、どういうことですか?いじめ?朱里は高校でいじめられてた・・・。それは、知らなかったです。そんな素振り見せませんでしたし」
不意に肩を掴まれたようにはっと目を開き、震える唇を隠すようにつぐんだ。小川町署の4階にある相談室に、乱れた鼻息が流れた。
「朱里はまだ、ホシトソラに、このグループに加入したばかりなんです」
ようやく開いた唇を小さく震わせながら話した。
「このグループが結成されたのは1年前です。元々芸能プロダクションにいたうちの社長が独立してこのシエルプロダクションを立ち上げ、アイドルグループを作るためにオーディションを開いて、選ばれたのが私たちです。オーディションといっても、インターネットだけで募集した小規模のものですけど。でも社長が前にいたのが大きい事務所で、それが告知サイトに書いてあったので安心感があって応募しました。他の子も一緒だったそうです。
それで選ばれたメンバーがCDデビューを目指してレッスンしてきました。アイドルイベントに出演させていただいたり、会場でチラシ配りをしたりして、少しずつですけどファンもついてきてくれました。まだお給料は全然もらえませんが、レッスン料を取られたりお金を要求されたりもしていないので不満はありません。
それで、朱里がこのグループに入ったのはまだ半年も経ってない、5ヶ月ぐらい前です。突然社長が連れてきたんです。今日からメンバーになるからって。私たちはオーディションで選ばれたのに、彼女はそれもなく入ってきたので、正直初めは受け入れづらい部分がありました。コネ入社とか裏口入学みたいで、陰で不満を漏らしている子もいました。
ですけど、朱里はすごい努力家で、みんなに追い付こうと一生懸命レッスンしていたので、そういう姿にみんなも心を打たれて、今では本当に大切な仲間でした。もうすぐデビュー曲の発売日で、あの日も一緒に頑張っていました。
それなのに、いじめには全然気づきませんでした。気づいてあげられませんでした。もしかしたらそれが辛くてレッスンで発散している部分もあったのかもしれません。本当にいじめのせいでこういうことになったとしたら・・・」
小田は言葉を詰まらせた。口を開いたら涙も一緒に溢れ出しそうだった。それは紛れもなく女子大生ではなくアイドルの顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます