逃走

逃走(1)

 小型車に5人乗り込むのは少し窮屈だ。だがスポーツタイプのため走りは悪くない。


「なんで一人多いの?ってか、どなた?」陽子が疑問に思うのも無理はない。


「平井麻美さんです。さっきのアレと目が合ってしまったそうですよ」


「おい陽子。お前、あんなのがいるなんて、なんで教えてくれないんだよ」


「私だって知らないわよ。そりゃさ、なんか予感はしたわよ。だからこうやって駆け付けたんじゃない」


「もしかしたらアレが最近気になっていた違和感かもしれませんね」


 環は後ろを振り返り、追いかけて来ないのを確認した。


「とりあえず逃げる余裕は作りました。でもアレは追ってくるでしょう、この人を」


「ああ、そうだな。多分、匂いを嗅ぎつけるようにして追ってくるぞ、あのタイプは」


 それまで何が何だかわからずボーっとしていた麻美は「この人」と振られて我に返った。


「あ、あれは何なんですか?なんで私を追ってくるんですか?あのガマガエルが燃えるように消えたのはなんなんですか?そして、あなた、祠から……」


「おいおい、お嬢ちゃん、ガマ、見えてたのか?」


「え、ええ、見えましたよ。私、普通に小さいころから、ダルマとか提灯とか、お釜とか……」


「それで、周りの人には見えてないって分かってから黙ってるんでしょ?」運転している陽子がバックミラー越しに話しかけてきた。「えーと、麻美ちゃんだっけ。私は葛緒つづらお陽子ようこ。わかるわぁ。私もね、見えてたのよ、幼いころ。あ、今でも見えてるけど。あはは」


 麻美は初対面の陽子に、突然の間近な距離感に一瞬戸惑ったが、妙な親近感を感じた。遠い昔に一緒にいたような親近感だ。


 さっきから目を閉じて考えていた環が口を開いた。


「あなたと目が合ってしまった。アレはあなたをターゲットとして見ている。あなたに何かあるってわけじゃないでしょうけど、たぶん捕まれば取り込まれてしまうでしょう。アレは普通の付喪じゃない。大変なものに魅入られてしまいました」


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付喪還し コトノワ 于羅観 @Huracan

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