探し物(5)

「延寿、『ぼう』の指輪、お願いします」


「おいおい、無謀だよ。焼け石に水だ!かないっこない!」


「でも時間稼ぎにはなります」


[僕が…]雷電が口をはさんだ。


「雷電! 君を置いていくわけにはいきませんよ」環は激しく雷電を制止する。彼の細い体で何ができると言うのだろう?


 環も雷電も、自分を犠牲にしてみんなを逃がそうとしている。延寿は少し考えてポケットを探り、一つの指輪を出した。


「環、試してほしい指輪がある」


「新作ですか?」


「『とん』だ。九字をメインに刻んである。かなり前に作った試作品だよ」


「忍法ですか。研究しましたね」環は嬉しそうにしている。延寿の作る指輪に外れはなかったからだ。


「そんなこと言ってる場合じゃねーだろ。うまくいくかはわからん」延寿は照れ気味だ。


 表通りが近づいてきた。環は最後の階段を一気に飛び降りた。表通りまで出ると、化け物はすぐそこまで来ている。延寿は環に向かって指輪を飛ばした。


「バイラ!」


 指輪が光る。空中で回る指輪に環が指を通した瞬間、「臨兵闘者皆陣列在前」の九字が何百何千と環の体を駆け巡る。耳には聞こえないドーンという音と共に、目の前一面に霧が立ち上る。目くらましだけではない。人の気配があちこちに向かって飛んでいく。向こう側から見たらどれが本物なのかわからないだろう。その中でもひときわ存在感の大きな気配が川を下って行った。指輪の力と環のコントロールによって生まれる効果である。そして走りながら投げられた指輪と、それを受け取るという延寿とのぴったり合ったタイミング


「なかなかの出来ですね、延寿」(これで少しは時間が稼げる。しかし、完全に捲くには距離が稼げない。どうする、もう一度これを使うと囮だということがばれてしまう)


 いろいろと考えていられない。時間がない。我々の気配を遠ざけないと。とにかくこの場を離れなければならない。するとそこに、一台の車が猛スピードでやってきた。小型のスポーツ車だ。多少いじってあるのか、ターボの加給音が凄まじい。環たちの目の前まで来ると、タイヤを鳴らしてターンして止まった。

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