「作戦? 特にありませんよ?」


 やっぱりな。どうせそうだと思ったんだ。


 私たちは、落石鳥が眠るという森に向かっている。ギルドを訪れた翌日のことである。本来ならもっと武装やアイテムを整えてから望むべきなのだが、アル曰く、


「善は急げ、ですよ?」


 とのことで、最低限の食料を調達した程度でクエストを受注した。

 本当に大丈夫だろうか? いざとなったら、アルだけでも逃がす算段は用意しておくべきだろうが――


「勇気と無謀は違うんだよ、アル。分かっているのかい?」


「大丈夫ですよ。って言っても、説得力は無いですけど」


 あはは、と苦笑しながら、アルは杖を掲げた。


「私だって、魔法が使えるんですよ? いざとなれば身を護るくらいはできます」


 要するに、私の力頼みというわけだ――やれやれ。本当に呑気でいらっしゃる。


「いいかい、アル。Sランクの害獣っていうのは、魔物と同等――いや、場合によってはそれ以上に危険なんだ。強大すぎるあまり、人間なんて眼もくれない」


 アルは平和な時代しか知らないから、魔物の脅威を引き合いにしても無駄だろう。しかし本来Sランクの害獣ともなれば、一国の兵力をぶつけても勝てるかどうか怪しい化け物なのだ。


「危険なのは分かってるよ、マギ。だから私たちがやらなくちゃいけない」


 と、アルは言った。その目は穏やかな光に包まれているが、言葉は真剣そのものだった。


「――分かったよ。君の目を信じよう」


 これ以上話しても、アルの気が変わることはないだろう。なら、これ以上は言うまい。人形は人形らしく、ゴーレムはゴーレムらしく、アルの進むべきを切り開くだけだ。


「いつも私のわがままに付き合ってくれてありがとう。でもねマギ、私は一度もあなたを人形なんて思ったことはないよ」


 アルはそっと私の手に触れて言った。


「マギは私の大切な友達。そうでしょう?」


 機械の掌からは、アルの温もりなんて伝わってこない。

 だけどどうしてだろう。


 そんな風に言われると、胸の辺りが暖かくなる。

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