3
人助けといえばギルドである。
いつの時代でも、ギルドには困り事が集まってくる――まさに私たちが活動するにはうってつけの場だった。
多少なりとも活躍すれば、イトラ教の汚名返上に一役買う。幸い、あそこは実力主義みたいな風潮が漂っているから、私たちのような不意な客にも仕事を渡してくれるだろう。腕っぷしには自信があるし、アルとて教皇の名に恥じない程度には魔法が使える。戦力としては申し分ないはずだ。
幸い、私の予想は当たっていた。
ある一点を除いては。
「請け負える仕事はこれだけだと……?」
ギルドマスターは下卑た笑みを浮かべながら、私の反応を愉しんでいた。ざまぁみろ、とでも言いたげな表情で。
「おうよ。イトラ教会サマのおかげで、ウチのシマは平穏でなぁ。生憎、いまのメンバーで仕事は足りてるんだよぉ」
足元を見やがって――と言いたいのを何とか堪える。
この男は、私たちの思惑を読み切っている。教会の置かれた状況、そして汚名返上の機会を欲していること。すべて分かったうえで、こんな依頼を提示しているのだ。
早い話が、嫌がらせ。
(たしかにギルドは、教会に多額の納税を義務つけられているけれど――それを、こんな形で逆襲しなくてもいいだろう!)
私は、手配書をバン! 机に叩きつけた。
「眠れる落石鳥……! こんな化け物と、二人で戦えというのか!」
「ひっひっひ、そう怒るなよぉ。俺は無理に頼んでいるわけじゃねぇんだぁ」
「くっ……!」
眠れる落石鳥はSランクの害獣である。害獣は強さによってCからSまでのランクで格付けされており、眠れる落石鳥の危険度は最大ということだ。
もちろん、害獣といっても畑や作物に害を為す程度だが――Sランクともなれば話が違う。普段は人気のない洞窟や森に潜んでいるものの、本来は人間ごときに手の付けられる存在ではない。
だからこのギルドでも討伐されていなかったというわけだ。
「そもそも、Sランクなんて狩る必要がない! 害獣とはいえ、人に危害を加えたという話は――」
「それがよぉ、最近なんだか眠りが浅いみたいなんだわ。現に、住民からも「森から変な声が聞こえる」って言われてる。Sランクの害獣だ、目を覚ませえばどんな被害が及ぶかなんて、考えるまでもないわなぁ」
どこまでも馬鹿にしたような男だが、それだけは本当のようだ。
落石鳥の眠りが浅くなっているのも、光の封印が解けかかっているのが原因とすれば説明が着く。
「でもなぁ、まさかこんな仕事をイトラ教会サマに頼むわけにもいかねぇしなぁ。まぁ、今日のところは日を改めるってことで――」
「いいですよ」
「は?」
バカみたいにぽっかりと口を開けたのは、ギルドマスターだけではなかった。私も同じように、呆気に取られていた。
アルだけが、にっこりと微笑んでいる。
「いいですよ。そのクエスト、請け負いましょう」
「あ――アル! 何を言っているんだ!? こいつらは、私たちの目的を知ったうえで嫌がらせをしているんだ! 挑発に乗るな!」
「うーん、マギの言う通りかもしれませんけど、でも、ギルドマスターさん。その鳥さんのせいでみんなが困っているのは本当なんですよね?」
「あ、ああ……そりゃあな」
「なら決まりです!」
アルは小さな掌をぱん、と叩いて、柔らかく微笑んだ。
「か、勝手に決めるんじゃない! そもそもSランクの害獣ってのは――」
「大丈夫です。だって、マギなら私のことを護ってくれるでしょう?」
うっ、と言葉に詰まる。それを言われると強く言い返せない。
その場にいる誰もが呆気に取られている中、アルだけが、にこりと微笑んでいる。
「困っている人がいるのなら、私たちが頑張らないと。そのためにギルドがあるのでしょう?」
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