最終話 HINAMOO

「えーっと、ここがこーなって……こーなるから……」


 強い筆圧で新品のチョークをへし折りながら、望は二次関数のグラフを黒板に素早く描いていく。


 あれから数週間が過ぎたけれど、彼女の日常に変化はない。


 結局、いろいろと問題があって、例のテレビ番組はお蔵入りになってしまった。

 ブルマー姿の痴態を全国放映されなくてよかったと心底安堵したが、なぜか美幸は、収録翌日に世界王座を返上したので、その点だけは気になっていた。


「……上原さん、どうしてわたしの真横に立って、しかも腰に手を回しながら黒板をスマホで撮影しているのかしら? ちゃんと着席して自力で書き写しなさい」

「違います、ただの自撮りセルフィーです」

「勉強関係ないし! 早くすわって授業を受けなさい!」

「すみません、ひなむー先生。あたしきょう、筆記用具と教科書、下着も全部忘れちゃって。あとで先生の身につけているやつをくれませんか?」

「うん、まずはひなむー言うな。それと、忘れ物の後半部分がおかしいわよね? 下着を全部忘れるなんてあり得ないわよね? 制服着るまえに素っ裸なことに気づけよって話になるわよね? ちょっと……上原さん、人が話している時にスマホを弄るなんて…………って、無許可でわたしの胸やお尻を舐めるように撮影しないでちょうだい!」

「ぺろぺろぺろぺろ」

「こわっ……真顔でぺろぺろ言いながらのムービー撮影こわっ…………って、いい加減にもうやめなさい、上原さん!!」


 顔を真っ赤にした望の怒声と生徒たちの笑い声が、晴れやかな教室に今日も響きわたる。



 それは、彼女たちの日常風景。


 穏やかで平和な、かけがえのない日々。


 やがていつかは、大切な思い出に変わることだろう。









『HINAMOO』(完)


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HINAMOO 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala

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