第8話 レベリングの必要性
「う、嘘だろ?」
「すっげぇ、レッサードラゴン相手に完封してやがる」
「しかも一撃も食らってないぜ!?」
驚愕の表情を浮かべるプレイヤーたち。
その数23人。
「ユウキさんって、こんなに強かったんだ……」
彼らが見つめるのは渓谷内を縦横無尽に動き回り、レッサードラゴンを次々に討伐してゆくユウキだった。
「こいつで!ラストぉぉ!」
その掛け声を最後に、皆の前に降り立つユウキ。
最後のレッサードラゴンに止めを刺したユウキは
「どう?これでも文句ある?」
全員を見回し、いとも簡単にそう告げた。
なぜユウキがレッサードラゴンに一人で対峙していたかというと
「あんたがユウキか」
「そうですけど?」
翌日から始めるレベリングに当たって、各パーティーから不満が出たのが事の発端だった。
レベリングはカリンたちだけでなく、各パーティー全員が参加する。
いきなりそんなことを聞かされれば
「救出屋って言っても、そんなに強そうに見えないな?」
「俺らまでレベリングしなきゃいけないってことは、ソロじゃ攻略できないってことじゃね?」
「結局、私たちの力を利用しようってんじゃないの?」
「ちょっと!あたしたちを助けてくれるっていうのに失礼でしょ!」
「いや、でもよぉ」
「無茶なレベリングを要求するんだろ?じゃあ本人はぶっちゃけ、どんだけ強いワケ?」
こんな疑問や不満が出るのも仕方がない。
それはそうだろう。
カリンたちを初めとして、ユウキが戦う姿を誰一人としてまだ見ていないのだから。
当のユウキはその反応を前に
「あー、またこの流れ?」
毎回ログインする度に起こる事態にうんざりしていた。
と言っても、毎回のことであるがゆえに対応方法も既に確立されており、ユウキはいつも通り対応する。
「君たちの言うことも分かる。というわけで、私の話に乗るかどうかは実力を見てから判断してくれて構わないよ」
「面白い。じゃあ見せてもらおうぜ」
言外に納得できなければ一緒にクリア扱いにならないと言ってるのだが、それに何人が気付いているだろうか?
そんなことを考えつつも、ユウキは条件設定をしてゆく。
「今の私のレベルは47。ソロで適正な相手だと……レッサードラゴンってとこかしら?それでいい?」
「れ、レッサードラゴン!?」
「おいおい、あんた死ぬ気かよ?」
ユウキが指定した敵に、逆に怯み出すプレイヤーたち。
ユウキからすればどうってことない相手だが、どうやら彼らにとっては十分脅威らしい。
「問題なさそうね」
というわけで、ユウキはソロでレッサードラゴンを狩ることになったのだった。
「ユウキさん!滅茶苦茶強いっすね!」
「姉御と呼ばせてください!」
「どこまでも付いて行きます!」
圧倒的な実力を目にした彼らは、手のひらを返したかのようにユウキを称賛する。
「はいはい、ありがとね。でも姉御って言うな!」
そんなやりとりをする中で、一人がふとした疑問を漏らす。
「でも、そんなに強ければ、私たちがレベリングなんてしなくてもいいんじゃ?」
「確かに……俺たちじゃあんな動き到底できっこないし。それに下手なことしてユウキさんの足を引っ張ったらいけないし」
「言われてみればそうかも?」
徐々に同調する者も出始める中、ユウキは参ったと言わんばかりに肩を竦める。
「君たちねぇ。クラン規模で戦うラスボス相手に私一人で戦えっていうの?」
「あ、いえ、そんなつもりじゃ」
都合のいい発想に気まずそうに俯くプレイヤーたち。
「はいはい、分かってるわよ。つい口に出ただけよね?」
それでもユウキは苦笑いしただけで、レベリングの必要性を説明してゆく。
「さっき誰かも言ってたけど、君たちがレベリングするのはソロで攻略するのが難しいからよ。だから協力する。パーティーを組むのと一緒ね。言い方を変えれば、確かに君たちの力を利用するともとれる。だけど、何の手伝いもしないでログアウトしようなんて、流石に虫が良すぎると思わない?たとえ前線に立つことができなくたって、レベリングすれば新たなスキルを覚えてサポートしたりもできる。それにバフやデバフ、回復で支援してくれるなら、クリアの確率は飛躍的に上がるでしょ?」
「確かに。ヒーラーがいなきゃしんどいしな」
「バフをかけるぐらいなら俺にだってできるぜ。レッサードラゴンを翻弄するユウキさんにバフをかけたら……考えただけで凄いぜ」
「そういうこと。戦うのが苦手でも、レベリングには大きな意味があるのよ。後、HPも上がるから事故も減らせるしね」
ラスボスと戦う上で必要なのは、予想外の攻撃にも対処できるようにすることだ。
この「3LO」の世界では、モブだけでなくボスキャラも成長する。
幾ら残機があったとしても、可能な限りHPを確保するのは必至と言えた。
「というわけで、少し時間は減っちゃったけど、これからレベリング始めるわよ?覚悟しなさい」
「は、はい!」
後に彼らは語る。
二度とレベリングはしない、と。
あなたの脱出助けます〜とある救出者の物語〜 奏 @ri-syu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あなたの脱出助けます〜とある救出者の物語〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます