第48話 旅路の終わりも見えてこようかという、そんな頃合いであった。
〈カシハラ〉がその〝新たな客人〟の登場する兆候を捉えたのは、イェルタ星系を航行中の、隣接のコーダルト星系への
コーダルト星系まで行ければ、
──ともかくここまでは来た…──。
あと少しで、この旅路の終わりも見えてこようかという、そんな頃合いであった。
7月5日 0950時 【H.M.S.カシハラ/艦橋】
「──主力艦だって?」
〝
「ああ──」
応えたツナミの
既に艦長席の
「大型の航宙艦の
その声に、イツキはツナミから視線を外すと、電測管制士のタカハシ・ジュンヤ宙尉の方を向いた。
「先の〝フリゲート〟が
これより8時間程前に〈カシハラ〉は、後方の──自らがスプラトイ星系から跳躍してきた──跳躍点から
今回の反応──
「──艦型の照合と相対速度の割り出しを急いでくれ」
ツナミが次の指示をするよりも早く、艦橋に入ってきたばかりのミシマ・ユウが指揮下の艦橋の
タカハシとシオリの二人は「了解」の意を返すと、黙って指示に従いそれぞれの
ツナミはもちろん一時は副長のミシマもまた追い詰められた者の
イツキも安堵し、持ち場である航宙長の統括制御卓に着いた。
7月5日 1005時 【
この時に〈カシハラ〉が捉えていた
七月一日の時点でパルセラ星系からスプラトイ星系へと先遣艦〈デルフィネン〉を送り出していたキールストラ代将大佐は、
そして〈デルフィネン〉を引き続きスプラトイ星系から〈カシハラ〉の追跡に当たらせ、自らは
「……右舷を行く航宙艦は〈カシハラ〉と推定されました ……方位285、
「──追いついたか」
第一艦橋の
「周辺空域の艦影を警戒しつつ追尾に入る── 〈デルフィネン〉の方は捉えているか?」
艦橋詰めの士官よりレーザ回線によるデータリンクが確立した旨の報告を受けると、キールストラは頷いた。「よし……」
続いて一際大きく、キールストラが声を第一艦橋に響かせる。「──本艦は〈カシハラ〉を追う。4G加速!
キールストラは、ベイアトリス小艦隊を率いる〝盟友〟──カール=ヨーアン・イェールオース代将から、とある『密命』を帯びている。この『密命』を果たすためには、先ず〈ベイアトリス王家エストリスセン〉〝後主〟、エリン・ソフィア・ルイゼとの〝単独の接触〟を成功させなければならなかった。
既に回廊には
時間との勝負である──。
7月5日 1025時 【H.M.S.カシハラ/艦橋】
新たな航宙艦の出現から、すでに30分ほどが経過していた──。
ツナミは艦長席で刻々と推移する状況を見守り続けている。
出現した大型艦は熱紋の照合により
その〈トリスタ〉は、単艦で4Gという〝経済性〟を全く無視した大加速によって
現在の相対距離は約12万5千キロ。このまま行けば、後30分程で2万キロを割り込む距離にまで接近を許すことになる。
一方の〈カシハラ〉は、0.6Gの経済巡航加速を変えていない。
もともと不調を抱えていた慣性制御システムである。先日の障害の発生については応急修理を完了したものの、根本的な問題の解消はできておらず、過度の負荷を掛けるような運転は避けたかったのだが、選りにも選ってこんな状況下で5Gの加速を発揮できる巡航戦艦の追尾を受けることになろうとは……。
──だが艦長のツナミと副長のミシマが、この状況での加速の変更と軌道爆雷による先制攻撃を決断していないのには、別の
*
そして10分が経過した──。
〈トリスタ〉は
両艦はいま最も相対距離を広げていた──20万キロ、ほぼ航宙艦にとって〝探知限界〟である──が、今後はその言葉の通りに〝加速度的〟に距離を詰めてくることになる。
「──ねェ、これって……」
主管制卓のイセ・シオリから電測管制卓のタカハシ・ジュンヤに怪訝な視線が向くと、タカハシは恐る恐る肯いて返した。
「うん…… 念のため、情報支援室と通信管制室に確認してみてくれない?」
タカハシにそう促され、シオリは情報支援室のマシバ・ユウイチ技術長を
程なくハーフリムのメガネを掛けたマシバの理知的な顔がモニタに現れた。
『──どうしました? シオリさん』
「ちょっと確認して欲しいコトがあるんだ……」 シオリはなぜか声を潜めるように言う。「──敵艦からのレーダー照射、何かの
『了解です ──あ、シオリさん……』 モニターの中のマシバは了承すると、ふと気付いたふうにシオリを見返した。難しい表情に苦笑を浮かべるように言う。『──ココ、〝軍艦〟です』
スクリーンに
シオリは〝むっ〟と不機嫌そうな表情になって、
情報支援室からは5分で〝結果〟が返されてきた──。
シオリは、それを艦長席のツナミへと伝える。
「艦長……」
いつでも怒っているようなツナミに少しばかりの気後れを感じながら、シオリは何とか航宙軍士官らしい平静さを保って言った。
「──
艦長席のツナミだけでなく、
「
「確かか?」 とこれは
シオリは緊張から若干舌を
「──…『通話呼』とレーザー回線の
通話呼とは通話の〝呼掛け〟であり、SSPとは具体的な通信手順の指定のことである。
ツナミはミシマと〝素早く〟目線を合せた。
「──〈トリスタ〉の艦籍地はたしかベイアトリスだったな」
そう訊いたツナミにミシマは肯いて返した。
「ああ ──艦長のキールストラ大佐は『王党派』の〝
しばらく思案顔を並べた
「〝天祐〟……か……?」
語尾が疑問の形で上がってるので、
「
ミシマの方は慎重に応えた。
ツナミはそんな副長に、敢えて身も蓋もないことを重ねて問い掛けることで自らの決断を伝え同意を促す──。
「孤立無援の巡航艦相手に、ミュローンはこんな手の込んだ死刑執行の宣言はしないだろ?」
「しないだろうね……」 反応は早かった。「──どの道、避けて通れない〝
ミシマがツナミを見返した。
二人は接触する
二人が何かを納得したふうに肯き合うのを、艦橋詰めの士官たちはただ黙って見守った。
──
「〈トリスタ〉から指定されたSSPで〝呼掛け〟に応える」 ミシマはハッキリとした口調で船務科の直属の部下であるシュドウ・ナツミ宙尉に言った。「──通話は艦長以下、指定する幹部で通信室にて行う ──通信長、機関長を通信室に」
ツナミは肯くことで追認の意思を示すと、航宙長のハヤミ・イツキ宙尉に真剣な表情を向けた。
「──航宙長、艦橋を任せる」
ツナミとミシマは、ここで勝負に出ることにしたようだった…。
イツキは笑みを浮かべた敬礼で応えてみせた──。
「航宙長、操艦、頂きます」
士官学校時代、実習で三人がこの雰囲気のときは〝負け知らず〟だった。
──ツナミは自分に
後を任されたは自分は〝手筈通り〟に動くだけだ──。
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