人形使いの俺、お荷物と言われクビになったけど、自由に生きたいので魂を込めた魔巧少女の楽園を作ります。〜え?軍の人形兵器が暴走したって? そんなこと言われてももう戻りません。
第22話 突撃命令 ——side バッカス
第22話 突撃命令 ——side バッカス
「バッカス魔導隊長。ケイ・イズルハはどこだ?」
尋問部屋に連れ込まれたバッカスを待っていたのは、軍上層部の面々だった。
しかも、全員険しい表情をしており、非常に機嫌が悪いことが見て取れる。
ケイ・イズルハを辞めさせたのは、バッカスの独断だ。
その独断に対し、軍上層部がここまで怒りを見せるとは、バッカスは思いもよらなかった。
「……何のことだ!? ワシは何も知らんぞ!?」
この状況で、バッカスはとぼけることでしか抗う術を持たない。
「……では、質問を変えよう。この書類にあることは本当か?」
そう言って、一枚の紙を突きつけてくる。
ケイ・イズルハの除隊願だった。
「だからそれは何だというのだ!?」
「……お前が書いたものでは無いのか?」
「そんなものを書いた覚えはない!! 何かの間違いだ!」
「ほう……」
疑いの目を向ける軍上層部たちだったが、それ以上追及はしなかった。
代わりに……。
「では、本来ならケイに出向いて貰うところだったが、貴様に行ってもらうことにしよう」
一枚の命令書をバッカスに押しつける。
「そ、それは……」
その命令書には、エストラシア王国への侵攻作戦について書かれていた。内容は、前線で戦う歩兵部隊に混ざって帝国軍戦車で進軍しろというもの。つまり、最前線で死ねということである。
バッカスはその命令書を見て愕然とする。
「そんなバカな話があるか! ワシが死んだら魔導大隊の誰が指揮を執るんだ!?」
そう抗議するが、誰も聞いていない。それどころか、軍上層部からは冷たい視線が送られてくるだけだ。
軍上層部にとっては、もはやバッカスの発言などどうでも良いらしい。
「エストラシア王国に戦車はないから、多少は保つだろう。可能なら城塞都市の外壁に穴の一つでも開けてくれれば、後続の進軍が楽になる」
「無茶言うな! 最前線、しかも一番最初に突撃しろなどと——」
「バッカス、貴様は攻め入った街の略奪や住民をいたぶるのが大好きだろう? 一番槍だ。街に一番乗りをして金品も女も好きにできるぞ?」
「そ……それは——」
バッカスが大好きな餌をぶら下げる。だが、食いつかない。バッカスは知っているのだ。死ぬと分かっている場所に、自身が向かわされようとしていることを。
バッカスは思う——ケイ・イズルハ……アイツを排除したばかりにこんなことになるなんて。
いや、そうしろとワシにそれを唆したやつがいたような……アイツはお咎めなしで、どうして自分だけ?
「いらん! 絶対に行かん!」
しかし、彼の意思は尊重されなかった。
「残念だが、お前に拒否権は無いんだよ。既に決定事項なんだ。お前はただ命令に従っていればいいんだ」
「なっ……」
軍人にとって上官の命令は絶対である。拒否することは許されない。もし拒否した場合、最悪極刑もありえる。
バッカスは抵抗することを諦めつつも、ここまで詰られるとなぜか不思議な歓喜に包まれる。
そう、まるで痛いことをされても喜ぶように。
「……わかった。行けばいいんだろう」
「分かったなら良い。ああ、そうだ。お前がご執心だったらしいフェネルとやらの魔巧人形も、目的地である城塞都市『ルズベリー』にいるようだ」
「えっ……?」
上層部の一人が、髭を触りながら告げる。
「それに、餞別だ。お前が好んで通っているという館の奉仕人形を一体つけてやろう。戦車の中でよろしくやってくれ」
一瞬、冗談かと思うようなことを、真面目な顔をして言われたバッカス。
「あはは……そうですか」
としか答えられなかった。
☆☆☆☆☆☆
「ぎゃあああああああッ!」
狭い戦車の中で、バッカスの絶叫がこだまする。しかし、声には歓喜のような色も見て取れる。
バッカスを蹂躙しているのは、バッカスの馴染みの店から派遣された奉仕人形——『アマンダ』であった。彼女は無表情のまま淡々とバッカスを責め立てる。その姿は機械的でありながら、妙に艶めかしくもあった。
「うぐううううっ!!!」
何度目かわからない絶叫をあげるバッカス。
その様子を戦車の外から見ていた他の兵はドン引きしていた。
「おい……マジかアイツ……いったいどんな悪事を働いたらあんな目に遭うんだ?」
「いや、あの声は喜んでいるようにも聞こえるぞ?」
「まさか。そうはならんやろ」
「なっとるやろがい」
もっとも、騒いでいた兵士たちは最初だけ随伴したものの、すぐいなくなってしまう。
バッカスが乗る戦車を自動操縦に切り換えて、姿を消してしまったのだ。
彼らの仕事はバッカスを監視することであって、護衛ではなかった。目的地に近づき、彼らは任を解かれたのだ。
ちなみに、戦車内にはバッカスと奉仕人形『アマンダ』だけが残されている。
バッカスは全身を頑丈なロープで拘束され、身動きが出来ない。そのため、彼にできることは何も無い。
「あっ……ああっ……」
もう何度も絶頂を迎えさせられて、息も絶え絶えな状態である。
「あっ?」
そんな虚ろだったバッカスの瞳に写るものがあった。
荒れ地の中に巨大な城壁が見え始めたのだ。視界の左右に広がる城壁はとてつもなく巨大な建造物に見える。
目的地だ。あの城壁が守る市街地にフェネルがいるかもしれない。
バッカスの瞳に俄然光が灯った。あの城壁に穴を開け街を蹂躙して、求めるものを得る。
その可能性がついに見えてきたのだ。
「ふぇ……フェネル……」
しばし、補給の時間に入るため戦車が停車する。補給後に進軍が続行される予定だ。
バッカスの戦車は横に広く展開する戦車群の中央にいた。
『敵には戦車がない』
バッカスは上層部の一人が言っていたことを思い出す。
うまく行けば、無傷のままあの街に入れるかもしれない。城壁を目の前にして、ここが死地であることを忘れるバッカス。
しかし、僅かな希望が見えた次の瞬間——。
ドオオオオオン……ズズズズズ…………。
左翼にいた戦車部隊が轟音と共に爆発し吹き飛ぶ。直前に城壁の1箇所が光ったのが見えた。
そこから発せられた砲弾が複数の戦車を貫き中心部に到達。大爆発を起こしたのだ。
残骸すら残らず、部隊がいた場所には大きなクレーターが生まれている。
左翼側は完全に壊滅した。
「ひっヒエッ……なんだ……何が起きた? あんな遠くから正確に当てただと?」
バッカスはその爆発を引き起こしたのがフェネルであることを知らない。
欲している存在が自らを破滅へと追いやるとは思いもしない。
そして感じる。跡形もなく消滅した戦車と多くの魔巧人形たちと同じ未来が、自分に訪れることを。
「お、おい! 戦車を停止させろっ! 今すぐにだ!」
バッカスは乗っていた戦車が再び進軍を始めたのを感じて、慌てて叫ぶ。しかし、当然のごとく無視された。
反撃とばかりに自軍も攻撃するものの果たして頑強な城壁を目の前に、どれだけ効果があるか疑問だ。
「おい、お前! いっ、今すぐ……!」
バッカスはそれでもなお、叫び続ける。
そうしている間に——。
ドオオオオオン……ズズズズズ…………。
左翼側と同じように、右翼に展開していた戦車部隊が消滅。
移動しているのにもかかわらず、敵は正確に狙いを定め戦車部隊を葬った。
間違いない。次は中央に残存した自分たちだ。
「おいいいいい! 早く戦車を止めろ!!」
そんなバッカスに奉仕人形は、執拗に鞭を振るう。
「いや、そうじゃなくて! うぐううっ!」
戦車内にはただただ、バッカスの絶叫が虚しく響くだけであった——。
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