第17話 選択 ——side フェネル

「はあっ!」


 敵を倒し、数を減らしていく。魔巧人形は入り口から一斉に侵入してきている。

 すると、私に向かって何かが飛んでくるものが見えた。


 咄嗟に避けると、祭壇にぶつかり破裂する。あれは、炎の弾?

 魔巧人形の中には遠距離攻撃ができる者もいるけど、これは——。


 さらに続けて飛んでくる魔弾を避けながら考える。次は氷の弾だ。

 歩兵戦闘タイプの魔巧人形【ブルースピア】が攻撃してくる。だけど、私の知っているタイプと違う。

 コイツも黒い首輪をつけている。恐らく何かの魔物が入っているのだろう。


 だから、こんなこともできるのか。


 その間にも、侵入してくる魔巧人形の姿が見える。壁に開いた穴からかなりの数が侵入しているようだ。

 部屋の全域が魔巧人形で埋まった。


「6……15……」


 私は移動しながら、敵を撃破していく。魔剣の力は凄まじい。人振りで複数以上の魔巧人形を破壊できる。

 このまま戦えば、苦もなく倒せそうだと思った瞬間、祭壇に近づく魔巧人形の姿が見えた。


 そっちには行かせない!


 祭壇下の階段はバレていないはずだ。そこに向かう魔巧人形を優先的に破壊する。しかし、すぐに火や氷の魔弾が飛んでくる。

 そこに、イラつくような声が聞こえた。


「ちょこまかと逃げやがって、おい、一気に片付けるぞ」


 どうやら指揮官——人間がいるようだ。指示があったのだろう。魔巧人形が一斉に魔弾を放つようになった。

 私は飛び上がってそれを避ける。


「くっ……」


 ダメだ。数が多すぎる。こういうとき、マスターなら的確な指示を出してくれるだろう。

 これだけの時間があれば私とマスターで敵を全滅させているはずだ。しかし、ここにマスターはいない。


 敵は私の動きを熟知しているようだ。

 私の情報を事前に得ているのかもしれない。まるで対人戦のようなやりにくさを感じる。

 魔物の強さに人の知恵。それが、多重に一斉に襲ってくる。


「今だ。行け!」


 礼拝堂の外から人間の声が聞こえた。

 すると、バラバラだった魔巧人形が津波のように一斉に祭壇に向かい始めた。


 ダメだ……全部を抑えきれない。

 どうする?

 周囲の状況からいくつかの選択肢が浮かぶ。


 1.ここに留まり、どうにか敵を抑える。

 2.一旦退却する。


 1.は無理だ。恐らく何体か抑えきれず地下に侵入されるだろう。

 じゃあ2.は? これもダメだ。怪我人もいるし、一気に雪崩れ込まれたらどうなるか、想像しなくてもわかる。

 まさに今、一階がその状況だ。


 そして、私は第3の選択があることに気付く。


 3.スキル【嫉妬の炎バーニングハート】を起動。短時間で目の前の脅威を排除する。


 敵の残存する魔巧人形はほとんどがここにいるはずだ。

 だとしたら、それを全て倒せば全滅ということになる。

 ひょっとしたら残る敵もいるだろう。でも、それくらいなら残りの兵士たちで耐えられるかもしれない。


 援軍もここに向かっているはずだ。マスターもきっと向かってくれているはず。

 その時まで耐えれば良い。


 もし、今だに大量の敵が残っていたら?

 その場合、動けなくなった私にできることは無くなる。だけど、今、手を打ち時間を稼がなければならない。


 マスターから頂いた言葉が頭をよぎる。


『危なくなったら、アンベールさんやこの国の兵士に任せて退避して欲しい。自らの身を一番に考えるんだ』


 マスターの意思に背くことになる。本当にいいのだろうか?

 でも、何回、何百回、何千回と自答しても、答えは変わらなかった。

 私は目を瞑り、つぶやく。


「私の判断により今だけ、マスターの意思に従いません。命令違反をお許し下さい」


 敵の手が、祭壇下の階段に迫っている。

 じじいや、ロゼッタ、クルトや、私とマスターの結婚式を祝福してくれた人々が今、危険に晒されている。


 私は守りたい。最近抱くようになったこの感情に従いたい。

 ロゼッタを助けたとき、マスターはスキルを起動するかどうか選択した。


 私も選択する。今やるしかないという私の意思に従って。

 兵士たちの意見でもなく、マスターの意見でもない、私の意思に従って——。


 力を求め、叫ぶ。

 きっと起動できるはずだ。


「スキル【嫉妬の炎バーニングハート】起動」


 頭に響く声がある。


『警告:非推奨——魔力不足により保護機構が発動、危険な状態が予想されるため、命令が拒否されました。非推奨——魔力不足により……』


 過去に【嫉妬の炎バーニングハート】を起動した時は、マスターにより【魔力注入】が行われていた。

 今回はそれがない。でも、それでも……。


 たくさんの魔巧人形が祭壇を破壊し、露わになった扉を砕こうとしている。危機的な状況だ。

 あいつらを下にやってはいけない。もしそうなれば、とても酷いことが起きる。

 人間たちを殺戮する魔巧人形の姿が頭に浮かんだ。


 今すぐ、実行しなければ!

 魂から強い願いが湧き上がり、私は吠えるように叫ぶ。


「うわあああああああッ!!!!!! 私に力を!!!! スキル【嫉妬の炎バーニングハート】起動!」


『警告:非推奨——魂の要求により例外処理発動。保護機構を全て破棄、強制的にスキル【嫉妬の炎バーニングハート】の起動を試行します——』


 瞬間、身体の中心が燃え上がるような感覚がある。

 スキルの起動に成功したのだ。


 炎は全身に広がり、全四肢のパワーとスピードが跳ね上がる。

 視界に映るもの全てが停止し、時が止まったように見える。


 私は祭壇に殺到した魔巧人形たちに向かって魔剣を構え、駆け出す。


 私の意志に従って——。

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