第14話 援護(1) ——side フェネル

 マスターから貰ったヴォーパルウエポンが強化された。私の身長より長い剣は仄かに光っていて、とても軽くなっている。

 街の屋根を滑るように走り続けても、全く疲れない。むしろもっと速く走れそうだ。

 市場の方に近づくにつれ、敵の数が増えていく。でも、今は目をくれず目的地に近づく。


 ダン!


 時に建物の上に現れる魔巧人形もいるが、接近する前にマスターに倒されていく。

 その射撃に守られて、私は走った。



 市場の中心の広場に辿り着く。その先には礼拝堂が見える。

 ロゼッタと、私とマスターの結婚式を祝福してくれた街の人々が避難している場所だ。

 礼拝堂の入り口は強固なのか、魔巧人形の工兵が攻撃していても全く歯が立たない様子だ。

 

 その手前の市場の中央広場には、大きな魔方陣が描かれており、続々と魔巧人形が転送されている。

 そして、兵士のみんなとじじいが、魔巧人形と戦っていた。


 じじいは驚きつつも私を視認したようだ。

 私はじじいの背中合わせにして立ち、周囲のグリーングラスを牽制する。。


「じじい、加勢する」

「来てくれたのか。それに得物が、進化しているな」

「マスターが下さった」

「そうか」


 じじいは何カ所か怪我をしていて、肩で息をしている。

 いつもの自信ありげな様子が見られない。


「じじい、弱い」

「そうだな。老いぼれにはもうキツいわ」


 じじい一人で、グリーングラス10体を相手にしていたようだ。

 取り囲まれて嬲られているところに私が到着した形だ。


「コイツは、胴体部を切り刻めば勝てる」


 私は、以前マスターに教わったことをじじいに伝える。

 そのまま跳躍すると剣を水平に構えて、グリーングラスの群に突っ込んだ。


「はあッ!」


 横なぎの一閃で一体の胴体を切り飛ばすと、勢いをそのままに回転して二体目を倒す。

 三体目は振り下ろされた剣をかわしざまに首を刎ねる。

 すぐに修復が始まるので、動きを止めた物から胴体を破壊した。


 三体の解体を始めるが、その身体が倒れる前に粉砕する。


「お、おお……フェネル殿、後ろ!」


 じじいの声に私は振り返らない。

 破壊するのに時間をかけてはいけない。


 ダーン!


 私を襲おうとしていたグリーングラスを、マスターが足止めしてくれた。

 残り7体。

 不思議だ。離れているのに、会話ができるわけじゃないのに、マスターが何をしようとしているのか分かる。

 マスターも、私が何をしようとしているのか分かるかのように、援護をして下さる。


『ありがとう、マスター』と心の中で言うのと同時に、振り返り様に一体をバラバラにした。


「フン、負けてはおられん、か」


 じじいもようやく動き出し、二人で戦い始める。


「おい、あの子は接近戦もいけるのか?」

「勝てる! 俺たちは魔方陣の破壊を!」


 周りの兵士のみんなも息を吹き返した。

 じじいたちを襲っていた敵以外は礼拝堂を目指しているだろうか?

 優勢になっているのに私は違和感を抱きつつも、マスターの援護とじじいの奮闘により、残り最後の一体となった。


「倒し方がわかってしまえばこんなものか」


 二人して最後の一体を倒す。

 同時に魔方陣の破壊が行われた。周囲に敵はいない。

 

「助かった、フェネル殿。感謝する」

「そう」


 差し出された手を握り返してから、私は何をしているんだと思い到る。

 そんな気持ちを悟られたのか、じじいがニヤニヤ口元を緩めたので、パッと手を離しそっぽを向いた。


「おやどうした? ようやっと儂を認めてくれたのかな?」


 何を言っているんだ。私たちを認めてくれなかったのはじじいの方だろう。

 しかし、それでも。私は、まともに私と戦える人間をじじいしか知らない。最初見たときから、そう感じていた。だから——。


「認めるも認めるもない」

「ハハッそうか。もっと精進せねばな。礼拝堂に向かうか?」

「そう」


 私は踵を返す。じじいも後を着いてくるけど、やけに汗をかいている。

 出血もあり、フラフラしていた。


「アンベール隊長、少し休まれては?」


 兵士の一人が心配そうに声を掛ける。

 私はそれを背中から聞きながら、走り出した。


 礼拝堂の周辺には非戦闘職の魔巧人形ばかりだ。主に破壊活動を行う魔巧人形で護衛も多くない。


「はぁっ!」


 私はあっさりとなぎ払い、礼拝堂の入り口に辿り着く。

 あっけない。手応えがない。さっきのグリーングラスのそれと大きく違う。


「周辺の敵を排除した。扉を開けてくれんか?」


 兵士とじじいが入り口を何か操作して内側と連動して開く。

 私は外を守ろうと思ったのだけど、兵士の一人がどうしてもと手招きしたので中に入った。


「フェネルちゃん!」


 礼拝堂に立ち入ると、奥から小さい人間が私に抱きついてきた。

 ロゼッタだ。私は胸を張って伝える。


「約束を守った」

「うん!」


 ロゼッタは、瞳を潤ませているものの、満面の笑みをして笑っていた。

 でもその一方で、必死に泣くのを我慢しているようにも見える。


「ロゼッタは、ずっと座って、食事もとらず祈っていたそうだ」


 そんな声が聞こえた。

 私は食事をとらないので、それがどの程度のことなのか分からない。

 ただ、マスターは戦場で食べられない日が続いて次第に痩せていくときがあったので、多少は大変なのかもしれないと思う。

 といっても、ロゼッタの場合、たかだか数時間だ。


 私は、ロゼッタの涙の痕を拭う。

 それでも、くすぐったそうにして笑う彼女を、守れて良かったのだと思った。


「そういえば、フェネルちゃんの旦那さ……ケイさんは?」

「まだ外で戦っている」


 そうだ。まだ戦いが終わってないのでは?

 私は警戒をするために、外に出ようとする。しかし、入り口付近の兵士に止められた。


「フェネル殿。一度閉じてしまった入り口はそう簡単に開かない。外とは連絡ができるから、しばらく待ってもらえだろうか?」


 そう言われたので、仕方なく立ち止まる。

 そんな私に、


「むー。フェネルちゃん、早く会いたいのにね」


 ロゼッタが少し口を尖らせて言う。

 人間というのは、不思議な力がある。

 マスターは特にそうなのだけど、私の考えていることが分かることがある。


「そう思う」

「早く会えるといいね」

「うん」


 そうやってロゼッタと話していると、手を引っ張られた。


「フェネルちゃん、そろそろ地下に行かないといけないみたいだから、一緒にいこ?」

「私はここに待機」


 戸惑っていると、近くにいた人から「出られるようになったらすぐ伝えるので、一緒にあげていてください」と言われてしまった。


 私は、それならばとロゼッタに続くことにした。


 地下へ続く階段は、祭壇の下に隠されていたようだ。

 祭壇自体がスライドして、階段を覆うようになっている。

 私はロゼッタに引っ張られ、地下一階に降りた。


「これは……」

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