第152話 北条家への増援部隊
「――――暫定ではあるが、増援の出陣は来年の三月後半を予定。総大将を
「承知いたしました」
プチ評定の席で北条家への増援部隊における取り敢えずの役職を告げると、援軍の総大将となる叔父上が代表して返事をした。
今日のプチ評定では尾張を
実際に出馬する際には叔父上に代わって俺が援軍の総大将となり、
叔父上には申し訳ないが美濃で留守をしてもらおう。
北条さんから『当主である竹中半兵衛殿に是非出馬を願いたい』、とでも親書を書いてもらえば家臣たちから文句や不満がでることもないだろう。
承諾の返事に続いて叔父上が訊く。
「殿、久作の部隊と合流した後は、総大将を久作とし私はそのまま副将ということでよろしいですか?」
「援軍の総大将がコロコロ代わるのは望ましくないので、総大将は引き続き久作としますが、実際の指揮は叔父上にお願いします。異議を唱える者がでないよう、その旨を書き添えた書状も用意します」
「久作の顔を潰さないよう立ち回ります。ご安心ください」
穏やかに微笑む叔父上の
「敵は
もっともな意見だ。
しかし、増援の規模もそうだが、誰が参陣に名乗りを上げるかも分かっていない。
「その辺りは明後日の評定次第で話し合いの場を持つとしよう」
「畏まりました」
俺の回答に明智光秀が承諾する横で叔父上と善左衛門が口元を綻ばせる。
「今回の援軍、参陣を希望する国人領主や豪族が多くなりそうだな」
「一連の尾張侵攻作戦では槍働きを得意とする者たちの活躍の場が少なかったですからな」
そこへ島左近が続く。
「聞けば越後兵は略奪や
「期待しているぞ、左近」
と叔父上。
「お任せください、重光様。尾張侵攻作戦では十分な働きはできませんでしたが、関東では存分に働いてご覧に入れます」
人的被害を最小限に抑えるため幾つもの策を用意したのだから、尾張侵攻作戦で槍働きが少なかったのは当然だ。
「
俺にチラリと視線を向けた光秀が言った。
どうやら俺を気遣っているようだ。
光秀、いいやつだな、お前。
この場で俺を気遣っているのはお前と先程から気の毒そうな目で俺を見ている百地丹波くらいだ。
だが、あまり褒めなくていいぞ。
どちらも史実に沿った作戦なので褒められても居心地が悪くなるだけだ。
稲葉山城奪取は史実の竹中半兵衛の作戦をアレンジしたものだし、北尾張攻略に至っては桶狭間の戦いに便乗しただけだ。
唯一戦略らしさがあるとすれば南尾張侵攻だが、それも織田信長を三河に釣りだしておいてその留守中に
そもそも、今川さんをはじめとした転生者の協力がなければ成功どころか、作戦を考え付きもしなかったよ。
「殿のような智謀を私に期待はしないでくれ。むしろ戦略や戦術は明智殿を頼りにしているくらいだ」
叔父上が軽く笑ってそう言うと、すかさず光秀が返す。
「重光様のご期待に応えられるよう精一杯努力いたします。次の長尾景虎軍との戦いは竹中家の精強さを知らしめる戦いといたしましょう。智謀知略に優れた当主を戴き、従う兵も精強であることを長尾軍に思い知らせてやりましょう」
「よく言った! 期待しているぞ!」
「お任せください!」
瞳を輝かせる光秀から善左衛門、島左近へと叔父上が視線を巡らせた。
「光秀だけではない。善左衛門と左近もだ。関東では楽はさせないからそのつもりでいろ」
そう言って快活に笑う叔父上に島左近と善左衛門が笑顔で応える。
「望むところでございます!」
「総大将が重光様と知れば国人領主や豪族たちの期待も高まるでしょう」
何だよ、それ。
まるで被害を最小限に抑えた俺が悪いみたいに聞こえるぞ。
というか、叔父上ってこんなに人望があったのか。
うん、面白くない。
そろそろ次の議題に移ろう。
俺が次の議題を口にしようとした瞬間、本多正信が東美濃勢と尾張勢の話を切りだした。
「実はその国人領主や豪族ですが……、主に東美濃勢と尾張勢などの、上洛に同行できなかった方々から『次の戦には是非参陣させて欲しい』とのお申し出が殺到しております」
そう言って木箱をコタツの上に置く。
皆の視線が彼に集まる中、木箱の蓋を開けると手紙の束が収められていた。
「まさかその手紙、すべてが参陣の申し出なのか?」
この場にいるすべての者の脳裏をよぎったと思われる疑問を善左衛門が口にした。
「はい、主に東美濃勢と尾張勢の方々です」
なるほど、そうなると今回の援軍は東美濃勢と尾張勢、特に上洛に同行できなかった勢力のガス抜きも兼ねるつもりでいた方がよさそうだ。
「すべての要望を聞き入れる訳にはいかないが、増援の半数を西美濃勢とし、残り半分を東美濃勢と尾張勢という比率で編成しよう」
「最終的な援軍の規模にもよりますが……、それなりの兵数の増援をだすことになるでしょう。そうなると氏家様か安藤様に参陣頂く必要がでてきます」
叔父上が木箱の中の手紙の束を一瞥して言った。
「三河を通過します。
心配そうにそう言った島左近に返す。
「この期に及んで尾張勢が裏切るとは思えない。むしろ、織田信長と戦う可能性があると知れば、
俺の考えに叔父上と善左衛門が続いた。
「織田信長と正面切って戦う姿勢を見せることで殿からの信用を得ようとするでしょう」
「手柄を立てられればそれなりの領地を手に出来るかもしれない。そう考えるでしょうな」
二人が見せた歴戦の武将の余裕を目の当たりにして、島左近は口元に笑みを浮かべると安堵したように無言でうなずいた。
その後は和やかな雰囲気の中、叔父上を筆頭に善左衛門、明智光秀、島左近らが増援の候補者を次々と挙げていった。
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