第149話 1560年12月『茶室』(3)

北条氏規

長尾軍とやり合うといっても、真っ向勝負を仕掛けるつもりはありません。


伊東義益

ゲリラ戦ですか?


北条氏規

各地で略奪を行っている野盗まがいの越後兵を各個撃破したいと考えています。できれば、各地に散った越後兵を同時に叩きたいですね。


竹中半兵衛

最初の一撃で敵の数を減らす作戦ですか。


最上義光

二回目、三回目となれば敵も対策してくるだろうから、最初の一撃で大ダメージを与えるのが理想か。


竹中半兵衛

各地に散っている越後兵を各個撃破するには、こちらも相応の兵力を用意する必要があります。不意打ちが前提とは言っても同数の兵力で仕掛けるのは危険ですよね? いまの兵力で大丈夫ですか?


伊東義益

小田原城が堅城とは言っても、各地に兵力を分散するのは危険でしょう。


一条兼定

長尾景虎に察知されたら、それこそ小田原城に攻めてきかねないよ。


北条氏規

ある程度のリスクは承知の上です。とは言え、せっかく可愛い嫁さんが来るのにこんなところで死にたくはありません。そこで今川さんと竹中さんには兵力の増援をお願いしたいのです。


今川氏真

任せろ!


竹中半兵衛

承知しました。鉄砲の数も増えていますし、火薬のストックもかなりの量になっています。


北条氏規

即答して頂くのは嬉しいですけど、本国をおろそかにしないでくださいよ。三河には弱っているとは言っても戦国の英雄・織田信長が残っています。


今川氏真

俺だってそれくらいは考えているさ。三河の一向宗と今川家寄りの勢力に金を渡して足止めさせるから大丈夫だ。


一条兼定

何だったら、うちからも援軍を出そうか? 毛利と三好は食料不足でまともな戦はできないだろうから結構な兵力を送れるよ。


(まずい、三好が兵糧を買い込んだ話をまだしていなかった)


竹中半兵衛

一条さんのところからの援軍の話は少し待ってください。


一条兼定

どうしたの?


竹中半兵衛

まだ報告していませんでしたが、三好が六角から兵糧を買い込みました。どのくらいの量を買い込んだのかは現在調査中です。買い込んだ兵糧の量がはっきりするまで一条さんは四国の防備を固めた方がいいと思います。


一条兼定

それはまずいな。いま三好とやり合うのはできれば避けたい。


竹中半兵衛

申し訳ありません。三好に流れた兵糧は当家から六角に横流しした兵糧の一部です。完全に私の読み間違いでした。


一条兼定

いやー、気にしなくていいよ。六角から買えなければどこか別のところから調達してたはずだよ。


伊東義益

念のため、うちから一条さんのところに援軍を出せる体制だけは整えておきます。


一条兼定

伊東さん、ありがとう。心強いよ。


伊東義益

うちの嫁さんが先般の上洛のおり、連合軍の諸将からかしずかれるのがくせになったみたいで、『次はいつ連合軍を出すんですか?』と聞いてきます(苦笑)


一条兼定

妹が迷惑をかけているようだね。すまない。


安東茂季

伊東さんの奥さんって一条さんの妹さんだよね。


最上義光

実の兄は名門土佐一条家の当主で、旦那は九州三国同盟の立役者。その正室ともなれば、それは諸将どころか国人領主あたりもかしずきそうだよね。



安東茂季

俺も伊東さんの奥さんを眼の前にしたら平伏する自信がある。


伊東義益

妙な自信持たないでください。


北条氏規

一条さんからの援軍は計画になかったのでこちらのことは気にしないでください。それよりも隙を見せて三好に付け込まれないようにお願いします。


安東茂季

見事にスルーしたね、北条さん。


竹中半兵衛

今川さんの言っていた三河の一向宗を利用する話ですが、今川さんだけに任せないで、北条さんや私からも本願寺顕如にも話を通しておいた方がいいでしょう。幸い、北条さんの婚約者と久作の婚約者はどちらも三条家の姫と言うことになっています。


(どちらの婚約者も遠縁の姫を探し出してきたので三条家の血筋としては非常に薄いが、内実よりも建前が大切な世界だ。何とかなるだろう)


一条兼定

俺からも本願寺顕如に手紙を書くけど、北条さんと竹中さんからも手紙をだしてくれる方が確実だね。


北条氏規

本願寺顕如の奥さんは三条家の姫でしたね。分かりました、三条家と本願寺顕如の双方に手紙を書くようにします。


伊東義益

国内流通の仕事を本願寺に頼んでいるので、顕如としても俺たちに味方した方が得策でしょう。


今川氏真

武田信玄たけだしんげんの奥さんも三条家の姫だったな? 武田信玄にも手紙をだしておく方がいいよな?


北条氏規

どうでしょう……。私たちが本願寺顕如や一向宗とそこまで懇意であることを信玄に知られることになりませんか?


竹中半兵衛

ここで隠したとしても相手は武田信玄です。近い将来、知られることになるでしょう。それなら、こちらから知らせた方がいいと思います。武田信玄の腹は読めませんがいまの良好な関係にひびは入れない方がいいでしょう。


一条兼定

俺も竹中さんの意見に賛成。北条さんと竹中さんの弟が三条家の姫を嫁に迎えるのはもう知れ渡っているわけだしさ。


伊東義益

本願寺に国内流通を任せたことも掴んでいる可能性があります。


竹中半兵衛

我々が一向宗の力を借りて三河の織田信長を抑え込めれば武田家としても背後を気にしなくてすみます。武田も相応の援軍を出すことができるようになります。もっとも、増援があるかは怪しいですけどね。


北条氏規

分かりました。では、三条家と本願寺へ手紙をだしましょう。


今川氏真

これで織田信長が悪さをする心配はなくなったな。


安東茂季

織田信長のヤツ、こんどは一向宗からいわれのない嫌がらせを受けるのか(ゲラ)


小早川繁平

何だか織田信長が気の毒になってきますね。


安東茂季

気の毒なのは半年以上前からだよ。


最上義光

こんなに不幸続きだと、信長が宗教に傾倒して信心深くなったりして。


竹中半兵衛

キリスト教ならありそうですが、一向一揆の中に織田信長が紛れていた、とか笑い話にもなりませんよ。


一条兼定

笑った!


今川氏真

吹いた(笑)


安東茂季

いいなー、それ。


最上義光

史実をしっている私たちからすると笑いよりも涙がでてきそう。


伊東義益

勝てない敵なら味方になってしまえ、ということですか? 合理性を優先する信長の性格からすればありえない話じゃないのかな……?


今川氏真

いや、ないだろ(笑)


小早川繁平

皆さん、織田信長の話になると生き生きしてきますよね……。


北条氏規

その織田信長ですが、長尾景虎と接触している疑いがあります。疑いとしたのは、我々も探りを入れている段階だからです。


今川氏真

それが事実だとしたら穏やかじゃないな。


北条氏規

織田信長と長尾景虎が結託した場合、考えられることは次の三つです。一つは、長尾景虎に増援を送らせないようにするために織田信長が尾張を牽制けんせいする。もう一つは竹中さんの援軍の背後を突く。最後は竹中軍をやり過ごして戦力の落ちた尾張を攻める。


一条兼定

最後の三つ目だけど、いまの織田信長の戦力じゃ尾張を取り返せないでしょ。真っ向から仕掛けないにしても嫌がらせをしてくる、一向宗と今川家親派の勢力があるんだよ。


最上義光

尾張を取り返せなくても、嫌がらせにはなるな。少なくとも竹中さんは引き返さざるを得なくなる。


小早川繁平

腐っても戦国のスーパー武将。いやらしいですね。


安東茂季

まだ腐ってないから(笑)


北条氏規

そこで提案とお願いです。竹中さんは援軍を出す振りをして織田信長の奇襲や侵攻に備えてください。この機会に織田信長を釣りだして滅亡させましょう。


最上義光

そうなると北条さんの方が戦力不足なるよね?


北条氏規

そこで最上さんの出番です!


最上義光

え?


安東茂季

やったね、最上さん。これで中央の仲間入りだよ。羨ましいなー。


伊東義益

とうとう、最上さんを引っ張りだすのか。


一条兼定

切り札の登場だ! 最上さん、期待しているよ!


最上義光

何を言っているのか分かりません。いや、本当に何を言っているの?


北条氏規

皆さん、ノリが良くて助かります。ありがとうとございます。


今川氏真

長尾軍の背後を突いてもらうのか?


最上義光

いや、厩橋まやばし城を攻めるなんて怖くてできませんからね。


北条氏規

そんな無謀なことはお願いしません。普通に援軍を出してもらえれば十分です。やってもらうことは各地で略奪行為をしている越後兵の各個撃破です。


今川氏真

機動力のある部隊が欲しいところだな。


北条氏規

それです、今川さん! 最上さんのところならいい馬がたくさんいますよね。騎馬を中心とした機動力重視の部隊で援軍をお願いします。


今川氏真

北条さん、槍を貸し出そう。馬上槍の予備あっただろ?


北条氏規

馬上槍での突撃はロマンです。あまり実用的でないので貸し出しても迷惑なだけですよ。


(何の前振りもなく突然の援軍要請の方が迷惑な気もするが、ここは黙っておこう)


最上義光

分かりました。援軍を出しましょう。でも、雪が解けてからだからね。雪中行軍は勘弁して。それと、こちらからの進軍ルート上にいる味方に先に話を通しておいてくださいね。


北条氏規

もちろんです。ありがとうございます。


安東茂季

最上さんが立ち上った!


今川氏真

さすが最上さん、信じてたよ!


竹中半兵衛

それじゃ、精強な越後兵の各個撃破、よろしくお願いします。


一条兼定

楽しそう! 少しだけだけど俺も援軍だすよ。そうだな、海側から三河を攻めるのもいいかも。信長の驚く顔が見たいなー。


北条氏規

一条さんは四国の防備をお願いします。


一条兼定

三好に付け入れられない程度の援軍に留めるよ。


伊東義益

なら私も参加します。実行までまだ時間が掛かることですし、作戦内容はもっと煮詰めましょう。


竹中半兵衛

一条さん、助かります。一条さんが出してくれる増援分くらいは織田信長の迎撃戦力でなく、当初の予定通り北条さんへの援軍として送りましょう。


小早川繁平

話が大きくなってきましたね。何の役にも立てない自分が歯がゆいです。


北条氏規

小早川さんの役割は別のところにあります。気にせずに自分の役割を成してください。


一条兼定

どうせなら、長曾我部や浅井、朝倉あたりも巻き込みたいな。


伊東義益

壮大な作戦になりそうですね。立案途中で壮大な作戦になるのはいいですけど、決定時には現実的なものにしましょうね。


最上義光

はははは……。何だかやる気がでてきた(ほんの少しだけ)


北条氏規

こうなるとそれぞれの距離が離れているのが辛いですね。近ければ包囲網を敷けるのに。


竹中半兵衛

イメージは長尾景虎包囲網でいいと思います。越後兵の各個撃破だけでなく、今後の戦略としての包囲網ですけどね。


北条氏規

全員参加の長尾景虎シフトですか。三人どころか平成日本を生きた人間が八人もいるわけですから、この時代の武将が考え付かないような案や知恵が出るでしょう。


今川氏真

あれ? 七人しかいない。


一条兼定

どこかのSFかな?


小早川繁平

すみません、役立たずで。


今川氏真

小早川さんじゃないよ。


安東茂季

俺、かな……?

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