第115話 1560年9月『茶室』(4)

 小早川さんの脱出計画の概要が決まった。

 決行は即位の礼の五日前の晩。大阪で警備に当たっている兵士の手引きで、大阪湾から瀬戸内海へ小船で脱出。


 その後、瀬戸内海を移動中の一条さんと伊東さんの軍と合流する。

 合流後は一条さんと伊東さんと一緒に京へ向かう、と。


 一条兼定いちじょうかねさだ

 竹中さん、俺たちが上陸するまでの京と大阪の警備をよろしくね。


 竹中重治たけなかしげはる

 任せてください。即位の礼よりも十日くらい前から入って、十分に京と大阪を固めておけばいいんですね。


 一条兼定

 おお! 頼もしい! その調子で京と大阪を勝手に動き回るやつが出ないようにしてね。俺と伊東さんが到着したら交代するからさ。


 伊東義益いとうよします

 竹中さん、何だか警備を押し付ける形になってしまい、申し訳ありません。その分、即位の礼開催中は負担を減らすように配慮します。


 竹中重治

 大丈夫です。それくらいはお安い御用です。

 伊東さん、あまり気にしないでください。協力して毛利元就もうりもとなりに吠え面をかかせてやりましょう。


 小早川繁平こばやかわしげひら

 竹中さん、当日は手引きをよろしくお願いいたします。一条さん、伊東さん、お世話になります。


 伊東義益

 任せてください、小早川さん。


 一条兼定

 ともかく、俺たちと合流さえ出来ればあとは何とでもなる。それこそ大船に乗った気持ちでいてよ。


 小早川繁平

 ありがとうございます! 心強いです。


 最上義光もがみよしあき

 そうなると、やっぱり一番の難関は大阪にたどり着くまで、かな?


 北条氏規ほうじょううじのり

 小早川領を脱出して大阪にたどり着くまで、ですね。


 今川氏真いまがわうじざね

 家臣は田坂なんとかさんの一人だけだっけ?


 小早川繁平

 はい、本来の家臣は田坂頼賀たさかよりよしの一人だけです。ですが、今は竹中さんのところからお借りしている忍者が五人います。


 安東茂季あんどうしげすえ

 六人かあ、ちょっと人数が少ないんじゃない?


 今川氏真

 確かにちょっと少ない気がするな。毛利元就の放った追手に追いつかれたらひとたまりもないだろ。


 最上義光

 追手を差し向けるとしたら、小早川隆景こばやかわたかかげじゃないのか?


 竹中重治

 確かに少ないですが、敵軍の中を強行突破するわけではありません。敵の包囲網を掻い潜っての逃走です。性質としては隠密行動になります。あまり増やす訳にはいかないでしょう。


 一条兼定

 隠密行動と考えると、多くても十人以下かな?


 伊東義益

 今回の一番の難関は如何に気付かれずに領地を抜け出せるか、です。領地を抜け出す準備にもう少し人数を投入したいとは思いませんか。


 竹中重治

 気付かれるのが遅ければ遅いほど成功率があがりますからね。準備に人数をかけられるならそれに越した事はないと思います。


 北条氏規

 小早川さんと入れ替わる者、身代わりの用意をしたらどうでしょう。影武者ですね。


 安東茂季

 影武者か。さっき北条さんも用意すると言っていたヤツだね。


(なるほど、確かに影武者は有効だ)


 竹中重治

 入れ替わりだけでなく、複数人用意して別々の方向に逃げてもらいましょう。


 一条兼定

 かく乱するのか! とすると、ダミーの逃走経路も用意する必要があるよね。一つのダミールートに影武者一人と護衛が最低一人、出来れば二人。


 最上義光

 そうなるともっと忍者の数を増やさないと。影武者とダミーの護衛だけじゃなく、ダミーの逃走経路を用意する者たちも欲しいよね。


 今川氏真

 影武者と護衛、工作用の人員か。結構な数が必要になるな、うちからも何人かだすぜ。


 北条氏規

 うちからも風魔小太郎ふうまこたろうの配下から人数を割きましょう。


 小早川繁平

 お気持ちはありがたいのですが、あまり人数が増えても目立ってしまいます。


 竹中重治

 小早川さんが連絡を取るのは今私が送り込んでいる五人だけにしましょう。

 うちの五人を連絡係にして、後から追加した人員は領内に適当に散ってもらって小早川さんとは接触しない、という事でどうでしょう?


 伊東義益

 事前発覚のリスクを考えると多少面倒ですがそれが良さそうですね。


 北条氏規

 私の配下から五人だします、忍者。


 今川氏真

 じゃあ、うちからも忍者を五人だそう。


 伊東義益

 どうです、一条さん。私たちも五人ずつ出しませんか? 総勢二十名の忍者で小早川さんの脱出計画をサポートする。


 一条兼定

 数が揃えばいいってものでもないでしょ?


 竹中重治

 何をさせるのか、役割も割り振りましょう。その上で必要な人数を皆さんに揃えて頂くというのはどうですか? もちろん必要なら私も追加の人員を出します。


 一条兼定

 OK、竹中さん。じゃあ、役割も決めちゃおうか。


 北条氏規

 領地から脱出する段階からですね。三方向くらいダミーを用意して、本命と併せて四方向に逃げてかく乱しましょうか。


 最上義光

 本人の方も途中で二回・三回と分岐させよう。追撃してくる連中を翻弄ほんろうしたいね。


 伊東義益

 毛利元就は上洛してくるでしょうから、追手を指揮するのは小早川隆景と仮定して作戦を練りましょう。


 竹中重治

 やっぱり小早川隆景を想定するんですね。何となくそうなるとは思っていましたが。


 安東茂季

 小早川隆景かあ。ハードル高いなー。


 今川氏真

 やっぱり手強いのかな、小早川隆景は?


 竹中重治

 手強いと考えた方がいいと思いますよ。

 小早川さんは小早川隆景と直接会った事はあるんでしょうか?


 小早川繁平

 いえ、一度もありません。少なくとも名乗りを上げて会いに来たことはありませんね。


 北条氏規

 舐められている感じですか?


 小早川繁平

 舐められていると思います。ただ、ここ最近は筋トレをしたり椎茸栽培をしたりと奇行に映る事をしていますから、多少は目を付けられている可能性は否めません。


 一条兼定

 サツマイモやジャガイモの栽培もしてたっけ。


 安東茂季

 糞尿を漁ったり、山中を歩き回ったりもしているよね。


 最上義光

 糞尿漁りかあ、良くやったよね。そこまでは出来なかったよ。


 小早川繁平

 そうですね。いろいろとやっています。忍者を通じて砂糖を受け取りましたし、割と派手に動いていますが特に監視が厳重になった様子はありません。


 竹中重治

 それでは、小早川さんの逃走計画の詳細を練りましょうか。最終調整は次回の『茶室』で行う事が出来ますが、今日の話し合いで決めてしまうつもりで詰めましょう。


 一条兼定

 賛成。さあ、小早川隆景をどうやって出し抜いてやろうか!


 小早川繁平

 皆さん、よろしくお願いいたします。


 今川氏真

 いいねえ! 長尾景虎ながおかげとらと毛利元就の両方が相手か。不足はないな。


 北条氏規

 相手する我々の方が圧倒的に力不足ですけどね(苦笑


 伊東義益

 そこは『茶室』と連携でカバーしましょう。事前に『茶室』で詳細な打ち合わせをして作戦を実行する。かなり詳細な計画まで練れます。


 最上義光

 こんなときに時計がないのが悔やまれるな。


 一条兼定

 時計か! あったら、脱出作戦開始時に時計合わせするとかして、分単位の作戦行動計画を実行出来たら格好いいだろうね。

 悔しいなあ!


 安東茂季

 うわー、それ憧れますね! 腕時計を全員で合わせる!


 伊東義益

 時計合わせをしたと思ったら、一斉に散って姿を消す忍者! 確かに恰好いいですね。


 今川氏真

 腕時計は絶対にないだろ。そもそもゼンマイ式の時計すら見た事がないんだが? この時代って時計あるのか?


 竹中重治

 どうでしょうね? 日時計くらいじゃないですか? いや、適当ですけど。


 小早川繁平

 時計は忘れて計画を練りませんか?



 その後、小早川さんの小早川領脱出計画の詳細が練って、『茶室』は終了を迎えた。

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