第52話 1560年6月『茶室』(4)
その後、海賊の話題と船の開発に必要な現代知識、と言ってもうろ覚えの知識を全員で思いつくままに出し合った。
毎度の事ではあるが、三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったもので、八人寄ればうろ覚えの知識がそれなりに出揃う。
職人とそれっぽい会話をして船の開発に着手出来る様な気がしてきた。もちろん、あくまでも気がしてきただけで、実際に会話出来るかはやってみないと分からないか。
何となく、いつものように細部は職人にお任せする事になりそうだ。
竹中重治
造船所を作る前に熱田か津島を手に入れないとならないので、私の方は着手が結構先になりそうです。
『信長の領地を半分かっさらったとはいっても一気に押しつぶすのは無理だよなあ』
今川氏真
竹中さん、そこでさっきの話。相談ってやつだ。
竹中重治
相談ですか? どうぞ。
今川氏真
織田信長に三河を取らせる。その隙に南尾張を奪っちゃえよ。ただ、織田信長を三河に誘い出すのは俺には考え付かないから一緒に考えてくれよ。
竹中重治
それは助かります。そう簡単には行かないでしょうけど、人材の引き抜きを含めて皆で協力し合えば何とかなるかも知れませんね。
一条兼定
おお、いいね、それ。今回の桶狭間みたいに織田信長を三河に誘い出して、その隙に尾張を奪えばいいんだよ。そんなに難しくないんじゃないかな?
『織田信長だって馬鹿じゃない。同じ間違いはしないだろう。それに絶対に俺の事を警戒している』
北条氏規
一条さん、さすがにそれは都合良く考えすぎですよ。桶狭間で失敗したばかりですからね。織田信長も竹中さんの動きの速さは警戒してくるでしょう。
織田信長の中で竹中さんは、『稲葉山城を落としたその日に尾張に侵攻してくる、無茶をする武将』って評価になっていると思います。
伊東義益
それって、竹中さんは要注意人物って事じゃないですか。
北条氏規
そうなっていると思います。
今川氏真
要注意人物は北条さんもだろ。今川の侵攻を歩兵を連れず、騎馬隊だけで追いかけて追いついちゃったじゃん。
伊東義益
間違いないでしょう。北条さんと竹中さんは織田信長から見れば要注意人物で、さらに竹中さんは仕返ししてやりたい武将の筆頭でしょう。
安東茂季
織田信長が今一番恨んでいるのって絶対に竹中さんだよね。
最上義光
そりゃそうでしょ。今川の大軍を総大将の今川義元を討ち取る事で圧勝したのに、意気揚々と帰ってみれば筆頭家老の裏切りで自分の家どころか、領地の半分を失っていたんだから。
小早川繁平
ですね。信長にしてみれば、狐につままれた思いだったでしょうね。
一条兼定
清須城を奪われたと知った瞬間はそうだろうけど、今は間違いなく部下に当たり散らしているぜ。
伊東義益
もしかしたら、残った部下に対しても疑心暗鬼になっているかもしれませんよ。竹中さんが蜂須賀正勝と前野長康を引き抜いて、私が滝川一益の一族を丸ごと引き抜きましたからね。
安東茂季
あちゃーっ。酷い話だねー。
一条兼定
しかも、海賊は相変わらず横行して、北畠もちょっかいを出してきている。
今川氏真
戦争に圧勝して、城と領地と部下を失うのかあ。うちに勝ったのにうま味がないよな、信長。
北条氏規
清須城を諦めて南尾張に引いたのだって、美濃が真っ二つに割れて、西美濃と斉藤家を中心とした東美濃で争っていると思ったからですよ、絶対。
最上義光
絶対に竹中さんの事を格下と思っていたね、しかも、清須城も簡単に取り戻せるって思ってたよ、信長。それが簡単に取り戻せるどころか、敵は自分の何倍も強大。
伊東義益
まさか、稲葉山城が既に落ちていて斉藤家が滅亡しているとは思っていなかったでしょうね。
北条氏規
さらに土岐頼元を抱え込んで、表面上は瞬く間に美濃を平定しちゃいましたからね。きっとその事を知った信長は怒り狂ったでしょう。
一条兼定
想像すると笑いがこみ上げてくる。いやー、どんな気持ちか聞いてみたいよ。
小早川繁平
悪趣味ですが、信長を近くで観察したいです。
今川氏真
織田信長の配下の誰かを引き抜いたら、そいつに信長の様子を語らせるんだよ。歌舞伎の演目とかにしちゃおうか。
竹中重治
今川さん、歌舞伎はまだ出来ていませんよ。出雲阿国でしたっけ? どこかにいると思いますが、その女性が歌舞伎のルーツだったはずです。
安東茂季
まあ、織田信長の悪夢はこれからが本番なんだけどねー
最上義光
その悪夢の本番に参加出来ないのが悔しい。
今川氏真
織田信長の悪夢は俺たちに任せな。取り敢えずは三河って餌に飛びついてくれると都合がいいんだけどな。
竹中重治
信長も『せめて三河を手に入れよう』と思ってもおかしくないでしょう。忍者を使って周りの家臣たちにその考えを吹き込みましょう。
北条氏規
それは面白いですね。私も、人材スカウトの傍ら、風魔を使っていろいろと仕掛けてみます。
伊東義益
浅井と竹中さんって不可侵を結んでましたが、結構大っぴらにしていますか?
竹中重治
割とオープンですね。信長に浅井と同盟を結ばせて浅井に美濃へのけん制をさせようという事でしょうか?
伊東義益
そうです。現在の信長は周りが敵だらけで、信用できる相手が皆無です。これでは慎重になって三河になかなか出ていけないと思うのですが、どうでしょう?
竹中重治
確かに、周囲は敵だらけですね。どこか信長の味方になってあげるところを用意しないといけませんね。
今川氏真
北畠か松永久秀じゃ、ダメか?
北条氏規
北畠は無理でしょう。松永久秀は微妙ですね、久秀側にメリットが見当たりません。
最上義光
六角は?
小早川繁平
さっきの話のように浅井に裏切った振りをさせて織田と接触。浅井が美濃をけん制して身動き取れない振りをするのではダメですか?
竹中重治
今の浅井は六角で精一杯でしょう。そこで竹中を裏切って美濃をけん制するのは信憑性が薄いです。
安東茂季
信長もいっぱいいっぱいだろうし、血迷うんじゃない?
『いや、血迷うのを期待するのは危険すぎる。安東さん、兄の安東愛季を暗殺しようとして返り討ちに会いそうだな』
一条兼定
残るは朝倉か武田だよ。織田信長が朝倉と同盟するかな?
今川氏真
武田はもっと無理だろ。
竹中重治
武田晴信と義信親子はやはり不仲なのでしょうか?
北条氏規
仲は悪いようです。一方的に武田晴信が義信を遠ざけている感じですね。
今川氏真
義信と信長で通じさせて武田義信に竹中さんに攻撃させる?
伊東義益
それだったら、姉小路か木曽辺りが竹中さんと不仲ってことにして、信長と通じさせる方がよくないですか? 実際に戦争が起きては困ります。
竹中重治
木曽は置いておいて、姉小路と裏で繋がりを作ってみます。上手く行けば姉小路が東美濃の一部を寝返らせるのに成功。美濃の不満分子を姉小路が取り込んで、成りあがりの竹中を叩くのを手伝えば北尾張を信長に返す。とかそんな風なシナリオをちょっと考えてみます。
伊東義益
なるほど、美濃の内乱は実は収まっていなかった、ってことにするんですね。
竹中重治
何れにしても準備が必要になります。時間をください。次回の『茶室』か忍者を使って、北条さん、今川さん、一条さん、伊東さんには連絡するようにします。
今川氏真
OK
一条兼定
了解。じゃあ、松平元康と織田信長の人材スカウトでもして待ってます。
北条氏規
了解です。シナリオを楽しみに待っています。
一条兼定
今川さん、松平元康の配下へのスカウト活動はもう開始しちゃっても大丈夫でしょう。
今川氏真
OK、いつでもいいよ。それともう一つ伝えておく事があるんだ。
一条兼定
スカウトに関係する事?
今川氏真
微妙に関係する。
実はさ、今回の敗戦の責任は松平元康と石川家成に全部押し付けちゃったんだよね。松平元康と石川家成が共謀して今川本陣の場所を織田側に流して、さらに混乱に乗じて岡崎を奪おうとしたって。
最上義光
何で石川家成?
今川氏真
詳しく調べたら、石川家成の進言を松平元康が受け入れて岡崎に向かったんだ。なんで、二人に全ての責任を取ってもらう事で松平元康の配下とその家族を許す口実にした。
織田側の追撃を受けなかったのも信憑性を増すのに役立ったよ。
追撃がなかったのは、偶然なのか松平元康の読みなのか、はたまた運なのか分からないけど、それも『織田側に通じていたから出来た』事ってしてある。
竹中重治
割とあくどい気もしますが、お見事です。
『いや本当、感心するようなシナリオだ。なんといっても死んだ松平元康だけでなく、生き残った石川家成にも罪を着せて他者の溜飲を下げさせるなんて、なかなか出来る事じゃないよ。それにスケープゴートなしに松平元康の配下を許す訳にもいかなかったのだろう』
今川氏真
いやー、黒い事で竹中さんに褒められると何とも妙な感じだな。
竹中重治
え? 私って、そんなに黒いですか?
北条氏規
黒いですね。恒姫の年齢とか完全に伏せていましたよね。
伊東義益
恒姫のことは照れもあったでしょうから、置いておくとしても、真っ黒でしょう。頼りにしていますよ。
一条兼定
恒姫は犯罪だよね、伊東さんっ! 竹中さんは黒くて頼りになります。
最上義光
黒い。血縁関係への謀略を練っているときとか、『竹中さんならどう考える?』とか自問自答しながら謀略練っている。
小早川繁平
まあ、あくまでイメージですよ。黒いだけでなく度胸もあります。私だったら絶対に史実通りの人数で稲葉山城を奇襲したりしません。
安東茂季
まあ、黒いか白いかで言ったら、ここのメンバーは小早川さん以外全員黒いでしょ。
伊東義益
今川さん、石川家成は処刑したのですか? 残った家族や一族はどうしました? 罪を被らせたとなると、松平元康の配下連中が石川家成の一族を快く思わないでしょう?
『伊東さんの狙いは石川数正か。今の話だと今川さんのところで召し抱えるのは難しいだろう。処刑するには惜しい人材だ』
今川氏真
石川家成は家族や一族を国外追放にするけど助ける約束で処刑した。でも、石川数正を含めて一族は全員生きているよ。
一条兼定
石川数正、欲しいっ!
今川氏真
石川数正とその一族なんだけど、北条さんや竹中さんとかの、今後直接関わってくる近隣の人じゃなくて、安東さんとか伊東さんとかのところで引き取ってもらえないかな?
引き取ってもらえるなら、紹介状を持たせる。
伊東義益
そうですね、近隣の大名だと今後は共同戦線とかありますよね。私は滝川一益の一族を手に入れたばかりですし、これから織田信長と松平元康の配下に声を掛けに人を出しているので安東さんにお譲りします。
安東茂季
マジで? 欲しいっ! お願いしますっ!
今川氏真
じゃあ、石川一族に紹介状を持たせて向かわせるわ。貸しにしとくよ。
安東茂季
もちろん。いつか返します。いやー、助かる。本当、人材がいないんだよねー、東北。
最上義光
東北に人材が言いないというよりも、私たちに知識が無いだけなんですけどね。
北条氏規
人材のスカウトについてはここまでにポロポロと出て来たスカウトに成功した話以外は何かありますか?
もし無いようなら、人材スカウトは引き続き早い者勝ちってことにしましょう。
小早川繁平
賛成です。
一条兼定
異存ないよ。海賊の件もそうだけど、なかなか有効な対処とか見つからないねー
竹中重治
一番人材確保に有利な私が言うのもなんですが、早い者勝ちに賛成です。海賊は悩ましいですが、知らない事や分からない事は手探りでやるしかありません。
今川氏真
俺も賛成。つっても、俺の場合は本来の家臣をまとめ上げるのと松平元康の配下の取り込みで手一杯だ。
伊東義益
賛成です。竹中さん、人材の件は別に気にすることありませんよ。島津や大友の九州勢や毛利元就、長曾我部元親が対象になったら私や一条さんが有利になります。
それに忍者を都合つけて貰えるだけでもありがたいです。
最上義光
賛成。忍者、お願いします。
安東茂季
賛成です。本当、今川さんありがとう。竹中さん、期待しているよっ!
『忍者か。伊東さんと一条さんのところは問題ないとして、東北の二人の下へ行ってもらう忍者を本格的に探さないと』
竹中重治
忍者の件は頑張ります。全員が忍者を所有して『茶室』以外でも連絡取れるようにしましょう。それに、忍者を使って、全員で一人の大名に対して謀略や暗殺を仕掛けたいですね。
その後、織田信長への嫌がらせの数々を皆で思いつくままに語り合った。
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