第25話 1560年5月『茶室』(1)
今回、『茶室』に入ってすぐに挙がった議題は『桶狭間の戦い』だった。肝心の今川さんが入室する前から桶狭間の戦いについての雑談に花が咲いた。
今日が五月十五日。史実通りなら四日後に今川義元が織田信長に討たれる。
もう待ったなしの状態だ。
そんな状況の中で俺が画策した、皆の言うところの『信長包囲網』を説明した。実際には包囲網などというほど立派なものではない。
どちらかというと張りぼてで囲っただけの詐欺みたいなものだ。
竹中重治
西美濃勢の主導で近江の浅井家と不可侵条約を締結しました。実際の戦までは少し時間が掛かると思いますが、これで浅井家と六角家が睨み合う形になりました。
『西美濃勢からすると近江からの脅威が大幅に減って尾張へ戦力を向けられるようになった。だがまあ、これはこの『茶室』では価値の低い情報だろうから触れなくともいいだろう』
北条氏規
これで織田信長は近江と接触する意味が薄くなった訳だ。少なくとも積極的に浅井や六角と接触して北畠をこれ以上刺激したくないでしょうね。
竹中重治
そうなってくれることを祈るばかりです。
最上義光
さっき、『茶室』に入室して割とすぐに北畠の話があったみたいだけど詳しくお願いします。
竹中重治
はい、聞いていない人もいるのでもう一度説明します。尾張の西は北畠と織田で小競り合いになっています。こちらの思惑通りに事が運んでいます。
今川氏真
小競り合いって何を仕掛けたの?
竹中重治
北畠の手勢に見せかけた小規模の攻撃を織田へ、織田の手勢に見せかけての小規模の攻撃を北畠へ五回ずつ繰り返しました。
今川氏真
それだけ?
竹中重治
二回目の北畠への攻撃の直後に信長側に扮したうちの手の者が、伊勢の村落を襲って手に入れた物資を手土産に『すべて今川と斉藤の計略だから』との書状を渡しています。
それと併せて多額の賠償金の即時支払いを北畠に約束してきました。
当然、賠償金は未払い。貢物も伊勢の村落を襲ったものであることを忍者が触れ回って北畠はカンカンになって信長に報復中です。
小早川繁平
それを知ったときの信長の顔が見てみたい(笑
今川氏真
信長、ザマー(笑
一条兼定
見てみたいよねー、見られないのが残念だ(ゲラ
竹中重治
北畠の家中では今川と斉藤に罪をなすり付けようとした、として信長への風当たりは相当強まっているようです。
最上義光
身に覚えの無いところで評判が(ゲラ
北条氏規
風評被害(笑
伊東義益
さすが竹中さん。こちらも頑張った甲斐があります。村上武吉を筆頭に村上水軍を口説き落として尾張近海を荒らし回っています。もちろん、水軍には伊東と一条さんのところの兵士が一緒です。
一条兼定
そのお陰で思わぬ実入りもあったけどね。海賊行為って儲かるわー。
最上義光
村上水軍なんてよく味方にできましたね。まあ、瀬戸内海の海賊だし、近いといえば近いか。
小早川繁平
伊東さん、一条さん、後学のために教えていただけませんか?
伊東義益
金で雇い入れました。石鹸の儲けが吹き飛びましたが海賊行為での収入もあるので、それ程酷いことにはなっていないのが救いですね。それと主従の関係までは行っていませんが何れ取り込むつもりです。
小早川繁平
金かっ! 金なのかっ! やっぱり世の中お金がないと何にもできませんよねー
一条兼定
うちは伊東さんのところの作戦に便乗させてもらいました。尚、妹の阿喜多姫が輿入れ準備に取り掛かりました。
最上義光
何という裏取引(苦笑
安東茂季
まるで妹を売ったようじゃないか。
竹中重治
村上水軍での海賊行為か、頼もしいです。これで織田信長を少しでも弱体化できればいいんですけどね。
北条氏規
この信長包囲網はなかりいいところまで行けるんじゃないでしょうか。少なくとも大幅な弱体化は望めると思いますよ。
小早川繁平
凄いじゃないですか、竹中さん。桶狭間の戦いだけで織田信長をかなり追い詰められそうですね。
竹中重治
どうでしょうね。実際にはその日になって見ないと何が起きるか分かりません。それに相手は戦国のスーパースター織田信長です、油断は禁物でしょう。
安東茂季
今回の竹中さんの功績は大きいね。桶狭間に出てこられなくても信長包囲網を作っちゃったからね。
最上義光
本当だ、今頃信長は歯噛みをしているんじゃないのかな。
竹中重治
信長包囲網って、そんな大それたものじゃありませんよ。特に西側の北畠は張りぼてというか、偽りのものです。
伊東義益
謙遜しなくてもいいじゃないですか。桶狭間の戦いで信長を追い込められたなら、最大の功労者は竹中さんですよ。いやー、刺激になりました。
竹中重治
伊東さんにそう言われると自分が恥ずかしいです。
伊東義益
今回の件は一条さんにも協力してもらいましたから、もし上手く行ったら一条さんとの共同の手柄ですね。
一条兼定
伊東さん、嬉しいこと言ってくれるね。俺は伊東さんの指示で動いただけでほとんど何もしていないんだけどね。
最上義光
竹中さん、それで肝心の美濃の方はどうなんですか?
竹中重治
近江は西美濃勢主導で浅井家と不可侵条約を締結したので浅井と六角が睨み合う形になります。加えて先ほどお話した美濃国主である斉藤義龍の死去です。
美濃国主死去は当然のように箝口令が敷かれた。国主の死亡は他国に付け入る隙を与える。まして美濃の次期国主である龍興は若年だ。それこそ今川が尾張に迫っていることを知らない連中からすれば知られてはいけない相手ナンバー1は織田信長だ。
竹中重治
これを織田信長にリークしてあります。浅井と六角の睨み合いに加えて美濃の国主死亡で信長が美濃に脅威を感じることはなくなりました。
だが、あえて織田信長にリークした。美濃への備えを薄くさせるためだ。確証は無かったが今のところ思惑通りに進んでいる。
竹中重治
実際に百地丹波の手の者と蜂須賀正勝に調べさせて限りでは、美濃方面への備えを薄くしてその分を今川と北畠に向けたようです。
安東茂季
これに伊東さんと一条さんの村上水軍が嫌がらせをすると。
伊東義益
東からは自分から仕掛けたとはいえ、予想以上の大軍を今川義元が率いてきている。西は北畠とのいわれのない小競り合いに兵力を割かざるを得ない。南は海で安全なはずなのになぜか正体不明の海賊が横行。北の美濃は因縁の斉藤家。
北条氏規
この状態で美濃の国主死亡は嬉しい報せですね。きっと歓喜したんだろうなあ、信長。
最上義光
信長としては義龍の死亡は天の配剤に思えたでしょうね、気の毒に(ゲラッ
小早川繁平
何だか八方塞のところにぽっかりと逃げ道ができて、罠とも知らずに飛び込んできた憐れな獲物に思えますね。
北条氏規
憐れな獲物には違いないですが、兵力を持った獲物です。今の戦力なら桶狭間の戦いで今川義元を討つ史実は変わらないかもしれません。
今川氏真
これで義元が戦死してくれて、徳川を討てれば言うことなしだな。
最上義光
そこ、今川さんの仕事ですからね。しっかりお願いしますよ。
今川氏真
任せてよ。皆のアドバイス通り、秘密裏に兵士を引き連れて岡崎城へ向かう。そこで松平元康を討つ。
北条氏規
今川さん、兵士はどの程度確保できましたか?
今川氏真
足軽を含めて二千ちょっとってところかな。岡崎城に入るし松平元康は騙まし討ちするようなものだから多すぎるくらいだと思うよ。
北条氏規
そうですね。いや、分かりました。
歴史も既に変わっていますし、当日は乱戦になるはずなので松平元康以外、敵だけでなく味方も含めても岡崎城へ来るかもしれません。よく確認してから攻撃してくださいね。
今川氏真
OK、OK。大丈夫だって。それと井伊直親と蒲原氏徳の二人を俺の手元に置くのに成功したよ。
竹中重治
凄いっ! 今川さん、それは凄いですよ。
『特に蒲原氏徳は今川家の有力武将で桶狭間の戦いで死亡するはずの武将だ。それを助けたのは後々活きてくる。それに井伊直親か。これは素直に羨ましい』
北条氏規
蒲原氏徳は今川家でも前線指揮官ができる人ですね。戦慣れした武将が側にいるのは心強いです。
最上義光
井伊直親とか羨ましい。井伊直政が生まれるな。それに井伊直虎がいるはずだ。
一条兼定
戦国のリアル女武将だね。探し出して側室にするというのもロマンだ。
その後、しばらく話が横道にそれた後、桶狭間の戦いの最終確認を行った。そして次に人材の確保と内政の話へと移る。
『さて、どのタイミングで恒姫の自慢をしようか』
そんなことを考えながら伊東さんの結婚準備の話に耳を傾けた。
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