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王太子様までいらしているのに、さすがにクッキーだけお出しするわけにもいかず、テーブルには今、焼き菓子やケーキなどが所狭しと並んでいます。
最近はお茶会にも遠ざかっていましたから、これだけのお菓子を見るのは久しぶりです。
「急に押しかけて悪かったね。二人がこちらに向かうと聞いたものだから、ついわたしも来てしまった」
「はあ……」
紅茶を飲みながら王子様スマイルをするという実に器用なレアンドレ様に、わたくしは気の抜けた返事をしました。
三人の王子様方がいなくなってしまって、王宮は大丈夫なんですかね? 彼らになにかあったら、こちらの責任になってしまいそうなので、ちょっと、いえ本当はかなり困っているんですが。
「ついってなんですか。兄上は王太子なんですから、なるべく王宮にとどまるべきです」
セドリック、ありがとう!
言いにくいことを言ってくれて、さすがわたくしの弟(のようなもの)ですわ!
わたくしが感謝をこめてセドリックを見つめますと、ダレン様がちょっとむっとなさってます。
「いや、確かにそうなんだが、例の処理が終わった後だから、一度はセレーネを訪ねる必要があると思ってね」
「例の……ああ、あれですか」
苦笑しながらおっしゃるレアンドレ様の言葉に思い当たったわたくしは、いまだ残る不快感から少し眉を寄せてしまいました。
例の処理とは、元妾妃とその息子、およびその妻の処刑のことですね。
陛下や王子様方、そしてお父様からお手紙をいただいておりますので、大体のことはわたくしも知っています。
平民だった元妾妃はその身分に戻り、バチール男爵家が取りつぶされたことで、元男爵令嬢とその婿の偽王子は平民扱いになり、三人とも絞首刑となったそうです。
貴族であれば、通常斬首刑となるところですが、まあこれはしかたありませんね。
斬首刑は一見残虐な処刑方法にも見えますが、なるべく苦しまないように速やかに死を与える方法でもありますので、絞首刑は貴族であった者にとっては、実は不名誉なことなのです。
そして三人の処刑当日、処刑場付近では市が立ったそうです。
これを知った時は驚いたのですが、実は公開処刑は庶民の娯楽なんだとか。理解しがたいですけれど、処刑現場を見物しながら飲食できるものなのですか? なんだか闇が深いですね。わたくしが知らない世界です。
陛下をたばかっておきながら自らを王の妃だとわめく元妾妃と、この世界のヒロインを殺したら神のばちが当たると騒ぐ元男爵令嬢に民衆はあきれ返っていたとのことですが、残りの偽王子には彼らの怒りが集中したとか。
なんでも、見苦しく何度も「セレーネを呼べ!」と叫び、「セレーネはわたしを愛しているんだ! 必ずわたしの危機を助けるだろう! そうなったら、貴様らがどうなるか分かっているだろうな!」などと人々を
そして、そのあとに偽王子の罪状が読み上げられたものですから、理不尽な彼の主張に憤った人々の間から「殺せ」コールが起こったそうです。
通常なら、あずかり知らぬところで国王をたばかった罪の子になってしまったということで同情する人もいたんでしょう。ですが婿に入る予定の、それもその時点でも偽王子より身分が高かったわたくしを殺害しようとしたことが、民衆にはより悪質に思えたようです。
わたくしから言わせれば、着の身着のままで国外追放させるつもりだった元男爵令嬢もかなり悪質だと思いますけどね。だって、わたくしを殺す気満々ですよね?
陛下をたばかった元妾妃は、誰が見ても死罪は確定でしたけどね。けれど、元妾妃の罪はこれだけではなくて、偽王子の本当の父親を口封じに殺害したこともあったらしいです。
そして罵声の響く中刑は執行され、三人は醜い
……ともあれ、これでわたくしの一番の懸案事項はなくなったはずなのですが、また新たに問題が立ち上がりそうな予感がひしひしとするんですよね。……でもまあ。
「わたくしなら大丈夫ですわ。これで心置きなく領地運営に携わることができますし」
カップを持ち上げながら、わたくしは三人の王子様方ににっこりと微笑みました。
……この言い方はちょっと冷たいですかね?
ですが、あまり関わりのなかった元妾妃はともかく、わたくしを殺そうとした二人を許せるほど心は広くありません。
「……そうか、それならいいのだが」
先程の言葉は王子様方への
うーん、これではまるでわたくしが悪女です。以前、無礼な元男爵令嬢が言っていた悪役令嬢というものがこんな感じなのですかね?
ですが、この自由をまだまだ満喫したいですし、わたくしがどなたかと婚姻するのは、当分先の話になりそうです。
──なにはともあれ、領地運営頑張ります。婚期遅れても、別にかまいませんよ!
〈了〉
婚約破棄? 別にかまいませんよ 舘野寧依 @nei8888
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