第3話 美少女プロレス
……生徒会室が凍り付いた空気になる。
傍らに立つ麗白華は
其処に佇む女性に言い聞かせるように静かな口調で話しかけた。
「……あなたの先輩方が勝手に使っていたプレハブ小屋を再利用したいと申し出はありがたいです。ですが、その先輩たちと同じように女子プロレスをしたいと申し出るのであれば正式な手続きを取ってください。」
愛は顔を上げた。反論を口に出そうとするのを書記はその口を開かせず言葉を続けた
「先輩たちはお二方ではじめられたとお聞きします。ですが、時代は違います。
当初の計画通り、今週中に規定数の部員を集めていただけない場合、校舎裏の部室は撤去します。」
書記の言葉は静かだったが有無を言わさない
その言葉に打ちひしがれた様に顔を伏せる愛。
その様子を見つめながら書記は内心してやったりといった表情になる。
(この学園の黒歴史ともいえる女子プロレス同好会。発足人のあの方たちの乱暴さには前執行部は辟易していたと聞いていますが、私たちは違います。)
目の前の生徒は動揺を隠せない様子で言葉に窮している。
(……畳みかけるなら今ですね)
「……やっぱりか、そうだよね。」
それは自問自答にも聞こえる敗北宣言。書記は相手を見つめた。
(会長は桜庭さんは一筋縄ではいかないといいましたが、私にかかればこんなものですね。……会長は本当に生徒に甘いのですから)
「わかったよ。で、どうすればいいのかな?」
その言葉に今度は書記の方が凍りつく。一体、何を言っているか理解できない。
「ですから、二人では部は開けないといいました。期日は…」
「今週中なんだよね。ふぅん、じゃあ、あと五日か……」
愛が微笑むその笑顔が書記には狂喜をはらんでいるように思える。現在は月曜日。あと土曜の申請はできないので四日の間に規定の人数を集めるなんて無理な話だ。
「桜庭さん、土曜日は基本、部の申請は通りません。ですから金曜日の下校時間までに申請できる人数を準備してください。」
書記には最後通牒なのだが愛はそれを聞いていない。むしろ、大義名分ができたという別の意図、いや……思想のようなものが彼女の憶測に垣間見えた。
二人が立ち去った教室に残された書記は呆然としていた。
何か悪いことを自分が唆した様な罪悪感。諦めさせるための言葉であったはずなのに自分の選択肢の中でいちばん取ってはいけない選択だった様に思われた。
(…あの去り際の一瞥。愛さんのあの微笑の意味は……?)
言い知れぬ悪い予感。
友人や知り合いに頼み実績のない仮の部員を集めるだろう。だが、自分の予想を遥かに超えた部員集めをしようとするのであれば……?
「会長、私は見誤ってしまったのかもしれません……!」
わずかな迷いのあと、書記は席を立って会長が待つ生徒会の執務室に向かって歩き出した。
「あんな啖呵切って当てはあるの?」
「ん?…あぁ、私、考えていたんだけど私の部活動には最強のライバルが必要だと思うの。友人や知り合いを頼りになるのはあの書記が思う通り、でも、違う事はこれからすることは……お願いじゃないわ」
赤い絨毯がそのドアの前で止まり、表札には「執務室」と書かれている。
書記は一度、襟を正し、軽くその固い木目をノックした。相手の返答を待つてドアを開く。そこには三つ編みに結んだ眼鏡の淑女と金の髪、
「……問題が発生したみたいだね」
碧眼の青年は不安そうに頷く書記の火急の表情に嘆息した。
「はい。部活の要件を伝えたまではよかったのですが、桜庭さんの反応が違和感が」
……彼は報告を受けて傍らに立つ女性、副会長に意見を求めた。
「藤堂さん、君の見解はどう思う?」
「……会長が危惧している通りかと思います。彼女にとって大義名分になりうるかと」
ふたりは何を話しているのだろう。
書記はその意図する主語を考える。意中の相手はあの桜庭愛だろう。しかし、唯の一般生徒である。不安分子として生徒会はみているのであろうか?
その言葉の真意を測りかねる。書記は副会長を一瞥した。
度の厚いメガネをかけた物静かな印象を覚える。
長髪を三つ編みにした古風な髪形。その印象からは想像もできないほどの剣の才を持つといわれ鳴り物入りで生徒会役員に名を連ねている。
有段者と言われているがそれすら定かではない。彼女は三年生であり元生徒会長。
「……燈花さん。
生徒会長は申し訳なさそうに呟いた。
天真爛漫な美少女レスラー♪ まな@桜庭愛 @mana0972
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