第3話 恋する人の姿

 さてここまでの勘右衛門の姿は、かなり熟練した剣客と考えたい。おそらく奈良の上家で剣術指南をしているのか、その腕を買われて馬廻りなどしているのか、であろう。着物や伊達ぶりを見ると禄高は高かったと思われる。『兵法つかい』であるので、筋肉質で眼光鋭く周りを威圧するような武士である可能性が高い。腕周りは真剣を振り回すほどに太かったとしよう。散々手紙で誘っておいてもまだ若衆を物色しているのだから、もてなかったのはこの風貌だからかもしれない。


 扨(さて)、三之丞というと・・・西鶴先生、全然容姿にこだわっていないではないか!


「多村三之丞といへる情少人、折節この水上に来て唾をはけば、」

「素面自然の美男にして」


 「素面自然の美男」であり『情少人(なさけしょうじん)』ということである!つまり「衆道の情けが深くお化粧をしなくても美人」としか書いてないのだ。美少年はそうなんだろうが、どうも面影は想像しにくい。これを我々熱心な読者は勝手に「たくましい優男と美少年カップル」などと想像してしまう。それはそれでいい。ただ、それを証明できるものはあまりないのだ。


 『三之丞は心根が美しかった』、とはこの描写で最大限、ぎりぎりのことろで「西鶴先生!それでいいんですよね!」と叫べる限界か。


  だが二人の容姿は実はこの物語全体ではあまり重要ではないのだ。意味があるのは、この二人の出会いの場面のみではないかと私は思う。

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