地獄の関所 上

男は死んでしまった。屋上からの飛び降り自殺。即死だった。そして、男の周りにはには木でできた建物が円になるように連なっていた。男は円の中心にあたり場所のようなところに立っていた。男の目の前には関所と書かれた建物が大きくたっていた。男は本当に死んだのか分からなかった。服装は死んだ時に来ていたスーツ。会社でずーと着ていたものだ。靴もそう。だが胸に白い薄い布が貼られていた。「二零零一」と布には書かれている。

「白い薄い布に数字が書かれている人はこちらに来てくださいー!」

関所から一人の男が大声で呼びかける。二零零一の男は関所の方へすすむ。周りの人々も進んでいく。

「ここに3列で並んでください。押さないでねぇ〜」

大人しく並ぶ。しかし、後ろにいた男が二零零一の男を押しのける。

「どけ!!先に俺が並ぶ!!」

「おい、そこの男!何番だァ!?」

「あ?二03九だが?」

「はぁー…中央の数字が漢数字じゃないやつか…先にお前はこっちに来い。行先は大体決まってる」

「お!ラッキー!!」

二03九の男は列をハズレて行ってしまった。二零零一は列に戻り順番が来るのを待つ。


あれから数十分たって受付のような場所になった。目の前には座布団に座り筆を持った男がいた。風貌はちょんまげに着物といった江戸時代の侍のようだった。さっきの声をかていた物も同じ服装だった。

「さて…なんぼや?おまえ」

「え、あ、二零零一です」

「あーなるほど、被害者か…ちょっと待ちぃ」

男は机の下から本を取りだしページをめくる。

「あの…これってなんの関所なんですか?」

「ん?あぁ、知らんよな。死んだばっかだから…これは地獄行きの関所や」

地獄行きの関所。それを聞いた二零零一は全身に寒気がした。俺は地獄に堕ちるのかと。なぜ地獄に落ちるのかと。

「理由はわかるんですか?」

「いまその理由を探してるんや。お、あったあった。あんた、ブラック企業に務めて約5年がたって自殺…やめれんかったんか?」

「…簡単にやめれてたら苦労しません…」

「まぁせやな、安心な。地獄っていってもまだ軽いからさ。100年ぐらい居れば天国にいかしてくれる」

「軽い…?どういうことですか?」

「今確認したけどあんさんが地獄に落ちたのは命を軽くみたことが原因。自殺に関してはうちは結構厳しいんだよ。それでも殺した原因はブラック企業だから被害者だね。数字の頭と尻の間の数字が漢数字だからひと目でわかる」

「え、じゃあ漢数字じゃなかったら?」

「そいつは加害者になる。そうなるとかなり大きい罰になる」

さっきいったあの男は強制的に重い地獄に行ったということだろう。関所の男は筆で何かを書き、二零零一に渡す。

「じゃあ次は左にずーといくと出女ってところがあるけどそこ飛ばしてね。君はちゃんと戸籍登録されてるから」

「出女?」

「江戸時代の関所では出女っていう大名の姫などが逃げないようにするためのところがあったんだ。でもここでは戸籍登録されてない、中絶なのでなくなった赤ちゃんたちの性別をはっきりさせるために行ってるんだ」

二零零一はその話を聞いて胸が痛くなった。もし、中絶をした母親は殺人という罪になるのか。ここではどのように判別されているのか分からない。出女を通り過ぎると入鉄砲というところに着いた。

「二零零一のだんな。こっちにきてー」

糸目の侍が手招きをする。体を触りまくる糸目の侍。入鉄砲は武器の密輸を防ぐためらしい。1度武器を密輸し地獄で暴れたという話があったらしいが噂はどうか分からない。

「あの、侍さん…」

「ん?なんですか?」

「地獄って怖いですか?」

糸目の侍はぽかんとしていた。二零零一にとって地獄がどうゆう所が分かっていない。

「痛覚が生きてた時の約5倍ある状態です。でも、色んなものを見れると思いますよ。怖いかもしれないですけど私からしたらまだ生きてた時よりいいものです」

「俺は…」

その時悲鳴が広がる。悲鳴が聞こえた方向を見ると大男が小柄の女性の腕を掴んで刃物のような物を振りかざしていた。

「あれは…」

「たまにいるんですよ、あーやって刃物振りかざして暴れるやつ。そのうち係員が来ますから大丈夫ですよ」

二零零一はなぜか体が動こうとしていた。自分はやらなくてもいい。何もしなくていい。生きてた時と同じではないか。

二零零一は走り出し大男に向かっていく。

「その子を離せ!」

「んだよ、てめぇ…俺は……地獄になんかいきたくないんだよぉおおお!!!!」

刃物を二零零一に振りかざす。二零零一の腕に刃物がささる。痛みは生きてた時より痛くはない。でも血が出る。でもこの刃物を離してはいけない。二零零一は大男の顔面に拳をいれる。大男は少しよろめく。

「逃げて!!」

女性はその隙に逃げる。大男は刃物を抜き、また刺そうとする。

「おい、死人」

さっきの番号確認をした侍が近づいてきた。刀に手が触れている。二零零一は殺されるのではないかと思った。死んでいるのに殺される。この恐怖がなぜか感じられた。

「んだ、侍小僧!!俺を天国いき…に…し……る…?」

大男の頭が地面に落ちた。大男の頭は口をパクパクしてなにか喋っている。侍は大男の頭に近づき懐から紙、墨とすずり、筆を取り出す。そして髪に何かを書く。書き終わるとその紙を大男の生首の額にあてる。そこには罪人と書かれていた。

「その首渡してください」

糸目の侍が駆け寄ってきた。大男はなにか叫んでいる。ここではやはり死ぬ事が出来ないのだろう。

「おい、大男。今からおめぇは重い地獄の方に行く。死んだからって生きてた時とやってはいけねぇ事は変わらないからなぁー?」

侍は糸目の侍に首を投げ渡す。糸目は駆け足で重い地獄の方へ向かう。

「大丈夫か?あんた」

「大丈夫です…なんとか」

「変われそうだな……自分を……。布を巻いておけ。1時間経てば治る」

二零零一は言われた通り布をまく。まいてる途中にさっきの女性が近寄ってきた。話を聞くと強姦によって殺されたということを聞いた。さっきの大男は強姦をした男に似ていたらしい。腕を掴まれた時にその時の出来事がフラッシュバックし体が震えて動けなくなったらしい。

「関所は通られたんですか?」

「私はどうやら天国行きになっていたらしくて…地獄行きに?」

「自分の命を軽くみた罪で地獄行きになりました……まだ軽い地獄なので良かったんですけど俺は本当に自分の命を軽くみすぎてました。ここで変われるかな…」

「変われますよ。私が天国で待ってます。何年でも待ちます」

「ありがとうございます…」

「手紙のやり取りはできるそうなのでお手紙送りますね。私は秋です」

「それでは関所で番号確認等をした軽地獄行きのかたはまもなく迎えが参ります!集まってくださいー!」

二零零一は秋に手を振り歩み出す。全てをやり直す。自分を変える。その決意を胸に地獄に向かう。





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短編 封眠 @fu-min0848

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