もしも無人島であらゆるものが手に入るなら何を持っていく?

ちびまるフォイ

退屈を紛らわせるならニューゲーム

「こ、ここはいったい……まさか無人島……!?」


『目が覚めたようですね。ここはあなたの退屈無人島。

 あなたが退屈だと感じた瞬間に島は沈んでしまいます』


「そんな……こんなヤシの木1本しかない場所で

 どう退屈を紛らわせば良いんだ!」


『私は神です。あなたが望むものはすべてポチッて仕入れてみせます。

 必要なときにはいつでも呼んでください』


「そ、それじゃたくさんのゲームをくれ!

 それとゲームをできるだけの環境も!!」


『お安い御用です』


無人島にはたくさんの新旧入り乱れてのゲーム機が並んだ。

今までほしかったゲームソフトはもちろん、

昔にハマったゲームソフトが足の踏み場もないほど送られた。


「これだけあれば退屈なんて感じないぜ!!

 あとは助けがくるまで時間をつぶすだけだ!」


『先に言っておきますが、あなたはこの島で動くことは禁止します。

 必要なものはすべて神が手配しますがボートを要求して島を出たり、

 電話を用意して外と連絡をとったり狼煙をあげたりはできません』


「ゲームをするのはいいのか?」

『オフラインでのみ、です』


男は地図にものっていない小さな島でゲーム三昧の日々を送った。

以外にも最新のゲームはどれもパターン化されているので飽きが早く、

昔のゲームをやりこむ方に時間の大半を使うことになった。


食べ物も飲み物も不便がなく、無人島という特殊な環境でこそあれど

生活スタイルは大富豪のニート息子といった状況だった。


「……さて、次はなんのゲームをやろうかな」


無人島生活が続いて数週間。

すべてのゲームをプレイし切れているわけではないが、

段々とゲームで時間をつぶすのがおっくうになりはじめた。


新しいゲームを始めるのもストーリーを追うのも、

キャラを育てるのも謎を解くのも言ってしまえば「作業」として終止する。


指先をただ動かすだけの作業に飽きを感じ始めたのだ。


「うおっ!? なんだ!? か、海面が!!」


飽きを意識した瞬間に無人島はズズと海に沈み始めた。

今まで座っていた海辺のゲーミングチェアが波にさらわれていく。


「か、神よ! 俺に本やマンガ、それにアニメとテレビをよこしてくれ!」


『良いでしょう』


無人島は一瞬にして図書館のような風体になった。

毎日読みきれないほどのマンガやアニメを見ては時間をつぶした。

作業するのではなく、ただ見るだけであれば疲れを感じにくいし飽きも来ないだろう。


と、思っていたが男が視聴することも限界を感じた。


「ぐっ……ダメだ。なんだか次の作品を見たいという気持ちよりも

 めんどくさいと思う気持ちが勝ってきた……」


この感覚が「飽き」への扉になることを男は直感でわかっていた。

ならば創作活動ならと神に紙とペンを求めたが、

こっちはもっと早くに飽きよりも自分の能力のなさに絶望して諦めた。


「そうだ! 神よ! 聞こえているなら返事をしてくれ!」


『聞こえていますよ。あなたのことは常に見ています』


「俺は、俺以外の人間がほしい! この無人島によこしてくれ! できるか!?」


『神にできないことはありません』


まもなく無人島には他人が1名送られた。


「ど、どうも……」

「はじめまして」


今まで自分が得ていたものはすべて自分だけで完結していた。

でも他人ならその一挙一動は予想できない。他人の考えは理解できない。

そのことがいい意味で俺から退屈を遠ざけてくれると思った。


他人を選んだのはいい選択だった。


これまで使い捨てのようだったゲームソフトも一緒にプレイすることで息を吹き返し、

お互いの趣味を語らうなどで時間は有意義に過ぎていった。


「神よ! また一人人間を追加してくれ!」

『よろしい』


「神よ! もう一人また新しい人をくれ!」

『お安い御用です』


「神よ! 学校を作りたいので人をたくさんくれ!」

『もちろんです』


無人島はもはや無人島という呼称でいいのかと思えるほどにぎやかになった。

男も依然としてその場から動くことはできないものの、取り寄せた他人は違う。


各々が自由に無人島をサバイバルし、学校などに通ったりしている。

次に何が起きるか予想できない彼らの生活を見ているだけで十分だった。


1年が経過した。


それまでに新しい無人島や新しい施設をよこして人を移住させたり、

さまざまな開拓を行って他人との生活をエンジョイしていた。


でもある日それがかつてやり込んだゲームに似たような経験を感じたとき、

まるで自分にとってのこの世界がやり込んだゲームのような感覚に陥った。


人を育て、島を作り、そこで生活する人を観察し、コミュニケーションする。


ささいな変化こそあれど飽きて捨てたゲームに酷似したルーティーンを意識したとき、

これまで感じていた充実感のメッキははがれてしまった。


「こんなの……今までやってきたことを、ただ現実で再現しただけじゃないか。

 俺がやっているのはいつも同じことじゃないか……」


ザザザと無人島に波が迫ってきた。

退屈を意識したことで無人島が沈み始めている。


この先なにか新しいものを取り寄せたところで

得られる感動はこれまで自分が経験したものを味変えしたものに違いない。


なにもかも同じ。

なにをやっても新鮮味はない。

すでに多くのものを見聞きしすぎてしまった。


「おお神よ!! お願いがあります!」


『なんでしょう』


「あなたは望むものをなんでも取り寄せてくれると言っていましたね。

 それは形があるものだけでしょうか!?」


『……どういうことですか? 愛情が欲しい、とか?』


「いいえ、そんなものはすぐに飽きてしまいます。

 私は自分の記憶を消してほしいのです!」


『どうしてそんなことを』


「私がさまざまなものに飽きを感じてしまうのは、

 その共通点が自分の過去の経験のどこかにあるからなんです!

 記憶をごっそり消してしまえば、すべて新鮮さを取り戻します!」


『なるほど。神ですから記憶を消すことはできますよ』


「本当ですか! それはよかった!

 でしたら、私のすべての記憶を消してください!」


『いいんですか?』


「中途半端に残してしまうと飽きの糸口になってしまいます! お願いします!」


『良いでしょう。ではいきます』


男は体の前で手を組んで記憶消去を待った。

大いなる力が男に降り注ぐと、すべての記憶が消去された。



「こ、ここはいったい……」



記憶を消された男はまっさらな無人島を見て驚愕していた。

無人島を見て驚くなんてことは記憶を消す前ではありえないことだった。


「まさか、無人島か……!?」


男にとって目に見えるものがすべて新鮮な風景だった。

完全に記憶が消えている。


男は島全体を見渡した。

記憶を消す前に残されていた大量の食料があることに気づいて安心する。


「これだけあれば十分に生活できそうだ。

 さて、ここは退屈だなぁ……ふあぁ」




まもなく無人島の退屈沈没システムを忘れた男は海に沈んだ。

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