1話・嘘つき図書委員と織宮 悠

今日も昼休み開始のベルと共に朝日奈は

教室を出る。

この状況になってからはや1ヶ月。

お弁当を持って向かう先は部活棟。

教室などの学校生活で普段使用する教室がある生活棟とは違い、部活棟は部活動で使用する部室などがある。

その中で、過去に廃部になっていて今は使用されていない教室がいくつかある。

その中でも鍵がかかっていない教室を探しやっと見つけたのが空き教室で朝日奈は昼休みの間過ごしているのである。

今日も未だに背中に視線を受けながらも

廊下を歩く。

昼休みの間部活棟にいる人は非常に少なく

部活棟に入ると人の目は無くなり自分一人の歩く音のみが反響していた。

昼休みを空き教室で過ごすようになった最初の頃は部活棟を歩く時はこっそり、こっそりなるべく音を立てないように歩いていたが

1ヶ月が立っていて気が緩んだこともあり

普通に歩いている。

空き教室に入るといつも通り机に座りお弁当を食べ始めた。

空き教室でお弁当を食べたあとはスマホで動画を視聴する。

この時間が朝日奈葉月にとっては至福のひとときであった。

動画を視聴しながら残り時間を見る。

時間を見ると昼休みまであと数分といったところであった。

部活棟から生活棟に戻り、教室に入ったらちょうどベルがなる事だろう。


「はぁ……」


思わずため息が出てしまう。

これからのことを思えば自然に出てきてしまう。

ずっと空き教室で過ごしていたい…

とそんなことを思いながら空き教室を出て生活棟に向かう。

教室に着き、ドアを開けると主に西城グループから好奇の目で見られる。

これが精神的にきてしまい思わず、顔が俯いてしまう。

レッテル張りに気づいてから1ヶ月が経ち

小言で何か言われることは無くなったが

こういった目で見られるのは無くならない。

午後の授業を時計をチラチラ見ながら

早く終わらないかなぁ…と思いながら過ごした。

帰りのホームルーム終えて手早く教科書をカバンに入れ身支度を整えると教室を出る。

やっと帰れると思ったが、今日は図書館で放課後の当番ということを思い出した。

幸い、西城グループは図書館を滅多に利用しないので会うことは無いと思う…


「不安だよ…」



×××



帰りのホームルームを終え、織宮は図書館に向かった。

図書館に入ると、持ってきた本を返すために受付に行くが図書委員が見当たらない。

どこにいるんだろうと探すが幸い図書館は

そこまで広くないのですぐに見つかった。

たくさんの本を左手に抱え、右手で本をしまおうとしているが背が足りておらずつま先立ちをしてやっとであった。

放課後ということもあり窓から入る茜色の日差しが黒のミディアムヘアーを照らし、透き通るように白い肌はより一層に美しく見えた。

自分は彼女を知っている。

良くも悪くも有名な朝日奈葉月。

図書館ということもあり静かな空間で幻想的な美しさに声をかけるのは憚られた。


「えっと…どうかしました?」


ぼーっとしていた自分に朝日奈さんは困惑しながらも話しかけてくる。

こうやって正面を見ると目鼻立ちもくっきりとしていてとても可愛いことに気付き返答が遅れてしまう。


「本返したくて…」


「すみません!本の整理してまして…

本ですね。返却はあちらです」


朝日奈はそういうと本を抱えながら受付へと先導をしてくれる。

受付に着くと本を渡すと朝日奈さんは手早く処理を終える。


「はい。返却ありがとうございます。

良かったらまた借りてくださいね」


いつもならここで適当な相槌を打って図書館を後にするのだが自然と言葉が出てしまった。


「本の整理手伝おうか?」


俺がそう言うと朝日奈さんはびっくりした表情を

しながらも


「ぜひ!お願いします!」


先程の本棚に戻り本を何冊か渡してくる。


「私はまずここの本棚やるからえっと…」


クラスも違うので名前が分からないのだろう。


「俺は織宮 悠。織宮で大丈夫だよ」


「では、織宮君はこの本の戻しをお願いしますね。

本の後ろに書いてある番号と本棚の番号が一致しているからそこに巻数順に戻してもらえば大丈夫ですので」


「ありがとう」


俺はそう言うと数冊渡された1冊目の本を裏返し番号を見る。

番号を見ながら本棚の番号と照らし合わせながら歩く。

その作業を何回か繰り返すと手元の本が無くなってしまった。

渡された分を終えたことを知らせるために俺は近くにいた朝日奈さんに声をかけた。


「朝日奈さん。終わったよ」


「ありがとうございます。助かりました」


朝日奈さんはそういうと深々と礼をした。

しかし、こうやって関わってみればわかるが

周りからいわれてる『朝日奈葉月は嘘つき』というのを全く感じさせない。

普通の可愛らしい人ということに気付く。


「織宮君は優しいですね」


「そんなことないと思うけど…整理作業が大変そうだったからね」


「それもそうだけど…話しかけてくれるのがさ…」


一瞬、ん?と思ったがそいうことか。

『朝日奈葉月は嘘つき』というのが二学年では常識。

わざわざ、そんな人に話しかける人は少ないだろう。


「いや、まぁ、困ってる時はお互い様って言うじゃん。ベタだけどさ」


流石に朝日奈さんに見惚れて、一緒に居たかったなどとは言えない。


「えっと…相談したいことがあります」


朝日奈さんはまっすぐと意を決した顔で

そう言った。



×××



図書館の一角にあるテーブル席に向かい合って腰をかけた。

座ると早々、朝日奈さんは小声で

言っちゃったよ…とこぼしていた。

しばらくの静寂の後

よし!という小さな掛け声とともに深呼吸。


「私が『嘘つき』って呼ばれてるのはご存知ですよね?」


「うん。知ってるよ。

でも、そんな人には見えなかった」


俺は素直にそう答えると

朝日奈さんは再び深呼吸をし、決心した面持ちでこう言った。


「私、ほんとは嘘つきじゃないのに…」

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彼女は今日も嘘をつく sinya @sinya0118

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