彼女は今日も嘘をつく

sinya

嘘つきはプロローグの始まり

「この嘘つき!」


ある日の昼休み。

昼休みがもう終わりということもありほとんどの人が教室に居る。

残り数分の談笑を楽しんでいる者や、

午後の授業に向け、教科書など準備している者もいる。

そんなよくある昼休みのはずだった…

突然、教室中央の人だかりから怒声が響いた。


「また、嘘をついたんだ!」


2度の怒声に午後の授業に向けて準備している者や、友人との雑談に花を咲かせていた者まで教室に居た皆が声が発せられた方向を向いた。

複数人でクラスの1人を囲んで罵詈雑言を浴びせていた。

内容は違えど、また始まったかという空気が流れた。

今週になり、三回目である。

大きな声により、静かになった教室に再び怒声が響いた。


「何とか言いなさいよ!」


糾弾する声がなお続いている。

周りにいる人が次々に罵詈雑言を重ねる。

中央に座ってる当人はミディアムの黒髪を

下に垂らし、俯いているので

髪で顔が隠れ表情を伺うことが出来ない。

そんな状況が1分近く続いたその時であった。


「・・・・・・ついてない」


罵詈雑言で聴いていた声を違う声が聴こえた。

その声は小さくともハッキリとしており、固い意思が感じられた。


「あ?なんだって?」


囲んでいたうちの1人がそう返事をすると

囲んでいた他の人もなんか言った?聞こえなーいなどと次々に口をする。


「嘘ついてない!」


再度ハッキリとしかし、前よりは大きな声でそう彼女は言う。


「それも嘘でしょ?」


嘲り笑うような声でそう返され、また彼女は黙ってしまう。

黙ってしまったことによりまた始まる。

周りからの罵詈雑言。

最初の嘘つき発言から3分が経とうとしているが未だに教室内からは助けの声が出ない。

その理由は彼女の周りを囲んでいるメンバーのうちの1人が原因であった。


西城美月。

金色の長いストレートの髪、切れ長の黒い瞳が特徴的なクラスの中心的人物である。

周りの目を惹く容姿と強気で物怖じしない態度であっという間にクラスの中心的人物に上り詰めた。

普段からクラスの後方で彼女と周りの取り巻きで大きい声で談笑しているのをよく見かける。

彼女と、彼女の周りにいる人が罵詈雑言を

言う度に周りを一瞥し、睨みつけた。

そろそろ何か言うつもりだったクラスメイトも西城の一瞥により、黙り込んでしまった。


「黙ってないで、なんとか──」


西城が言い終わる前に昼休み終了を告げるベルがなった。


「ちっ…」


西城は舌打ちをし、クラスの後方の席に戻る。

取り巻き達も席に戻り、さっきまでが嘘のように静かな空気が教室に流れた。

先程まで、罵詈雑言を受けていた彼女──

朝日奈葉月は俯いたままだった。



×××



教室での一件の翌日。

朝日奈は暗くなる気持ちを何とか抑えながら

教室に向かうべく廊下を歩く。

周りの生徒からこちらを見て指を指し、何かコソコソと話している。

小さな声で話してるため詳しくは聴こえないが十中八九自分のことを話しているのだろう。

耳をすませば聞こえそうだが、何を言われているか怖くてたまらない。

普段からよく見られる朝日奈に取っては特に気にせず歩くのだが、昨日のこともあり

嫌な予感を覚えながら朝日奈は自分の教室にあまり目立たないように入り、席に座った

途端、先程の廊下での小さな声とは違い、朝日奈に聞こえるような声で


「朝日奈って、倉島先輩を騙したってほんと?」


「ホントらしいよ〜」


などなど…

朝日奈には身に覚えがない事をクラスの皆が話していた。

その中でも多かったのが


「朝日奈ってほんとにすぐ嘘をつくんだよね」


といった言動に関したことである。

昨日の教室のこともあり、朝日奈は嘘吐きという雰囲気が広がってしまった。

昨日の今日で疲弊してしまっていて、反論をする勇気も起きない。

反論も出来ない、勇気も出ない不甲斐ない自分に嫌気がさしてしまう。

朝日奈は思わず俯いてしまい、

西城とその取り巻きがその姿を見てクスクスと笑っているのが聴こえた。

朝日奈は唇を噛み、必死に涙を貯めた瞳から

涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に耐える。

沈む気持ちを必死に押え、授業を受けた。

今の教師は最近のいじめの事もあり

生徒の変化を敏感に目を配らせている。

こんな自分の状態が教師にバレたら事情を聞かれるに間違いない。

西城などにバレたらどうなるかは想像にかたくない。

また、罵詈雑言を言われるならまだしも直接

暴力などされたらそれほど溜まったものでは無い。

そんなことを考えていると4限目を終えるベルがなった。

教師が淡々と終わりの挨拶を済ませると教室から出ていく。

朝日奈は昼休み開始のベルがなった瞬間

お弁当を持ち教室を出て行った。

クラスの後方から何か声がしたが気にせずに

出て行った。

普段から控えめであまり人と話さない朝日奈にはクラスはもちろん、ほかのクラスにも友達と言える人がいない。

朝日奈は行く宛てもなく廊下を歩く。

昼休みということもあり、廊下では人がごった返していた。

沈んだ表情で歩く朝日奈に朝と同じく朝日奈に指を向けヒソヒソと話しているのが聴こえた。

勇気を振り絞り耳をすませば教室で西城達が話している内容とほとんど一致していた。

そんな声を背に朝日奈はどこに行こうかと考える。

教室以外にお弁当を食べれる所は限られて、中庭、食堂、屋上ぐらいである。

3つともに昼休みには多くの人が利用していて今1人になりたい朝日奈には不向きであった。

どうしよう…と考え歩く朝日奈を見る度に

赤ネクタイ、赤リボンをしている自分と同じ

二年生はやはり指を指し自分のことについて話す。

話題も『朝日奈に嘘つき』ということまで一緒である。

この瞬間朝日奈は気付いてしまった。

いや、気付いてはいたが認めたくなかったのだろう。

認めたら、更に悲しくなるから。

今すぐにでも泣き出しそうになるから。


『朝日奈葉月は嘘つき』というレッテルがこの二学年の間で貼られてしまったという事実に。

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